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『おい。大丈夫か。おい』


 久々の感覚。目が醒めたというより。血が抜けて頭がクリアになったときの、聡明で透き通った世界。


 なぜ。


 負傷したのか。


 身体をさわって自己診断。


『いや、外傷はない。RCC値も戻ってきてる』


 通信。大丈夫。聴こえている。


「彼女が」


 言葉が出ないので。いったん。心を。落ち着ける。


「彼女の感情が食われている」


『なんだと』


 想定していない事態だった。

 どうやら彼女が眠りの先に飛び込んだ世界にも。長い時間をかけて、人ではないものが侵食していっている。


「この街の動きは」


『直近で大きな侵食はない。外縁の結界も正常に機能している。海辺から異変の連絡もない。いまさかのぼっている』


 応答を待つ。通信先。何かの端末を操作する音だけが、聞こえてくる。


『そうか。彼女の戦闘は続いているのか』


「なんだ?」


『最近、似たような戦闘がひとつあった。同じように、防御対象を守る戦闘が。その戦闘で撃退したやつらが、染み出した可能性がある』


「情報は得られないのか」


『今スクランブルをかけた。詳しくは彼女から聞いてくれ』


 少しして。胸の大きな女が駆けつけてきた。


 話を聞く限り、物理的に強い相手ではなさそうだった。胸の大きな女。ミントシガレットを取り出そうとしてゴムを取り出した以外は、取り乱した様子もなかった。


「もう、いいか。男を待たせている」


「あぁ。ありがとう」


 女。顔を真っ赤にして去っていった。ミントシガレットとゴムを間違うことが、果たしてあるのだろうか。


 そんなことよりも。


『緊急だな。といっても、彼女の夢に潜り込めるのは、お前だけだ』


「そろそろ、最後のアテンプトってことだな」


『当てはあるのか?』


 さっきの目醒めで。少しだけ、気付いたことがあった。


 近場にあるもの。探す。

 彼女のベッド。横にある、柵みたいなやつ。


「これか」


 まぁ、仕方ない。

 その柵みたいなやつを、蹴って外して。いちばん尖っていそうな部分を。

 自分の胸に。

 突き立てる。

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