第3話

 仕事帰り。眠いけど。まだ寝ない。

 最近は、眠りに質を求めるようになった。あんまり、若さが残されていないのかも。眠りの浅さと、仕事の忘却が。少しずつ、ほんの少しずつ。わたしの心に負荷となって押し寄せてくる。


 彼に、会いたかった。


 あなたとか、好きとか。そんな純粋な言葉が、はずかしくなっている。そういう若さから、順番に消え去っていくのかもしれない。


 彼のことは、好きだった。今も、好き。それでも、押し寄せる仕事の忘却と、眠りの浅さのなかで。遠くなっていくような感覚。そう。感覚がある。ノートに挟む下敷きのような壁のなかで。感じられるようになった、彼の感覚。そして同時に、何か、大事なものを。失おうとしているのかもしれない。


 ねむい。


 けど。


 部屋に帰るまでは。寝ないから。

 待っててほしい。そういう気分。あなた。


 そう、あなた。

 彼ではなく。あなた。この、ちょっとはずかしい、感覚。恋か。

 このはずかしさを失ったとき。たぶん、彼のことも忘れてしまうんだろうなって。


 まだ寝ない。部屋に帰るまでは。

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