2、ちょっと新規登録するわ

「カクヨム? 何それ」


 べろんべろんな口調で私はみこちゃーに訊く。


「あのね~。なんか自由に小説書いたり読んだりできるサイトでね~。無料でいろんな人の小説読めるんだよ」


「そこにBL書いてる人がいるんだ!」


「そうそう。BLっていうジャンル自体はないんだけど、タグ検索したらめっちゃヒットするよ!」


 私は机の上にあるノパソを開き、タイピンング上位ランカー並の速さで検索を済ませ、そのサイトに辿り着いた。


 なるほど。ここがカクヨムか。


 アニメ化作品特集! 甲子園募集! 書籍化決定! なんていう記事がサイトの上部に乗っていて、へ~と思った。書籍化とかアニメ化とかあんのね。てか高校生も書いてんだ。うわすっげ。ここにも青春があんだね。


 あ、アカウント登録したらレビューとかつけれんの? あ、じゃあ。


「ちょっと新規登録するわ」


 そう言った後、残りのグレープフルーツゼリーを口の中にかきこんだ。


『うわ、行動力すご。え、読み専? それとも小説書くの?』


「ふぇっ⁉ 小説書けるの⁉」


 え、だったら私が高校生の時に書いてたBL妄想そのままここにコピペすればBL作家も夢じゃないんじゃね?


「え、じゃあ書くわ!」


 新しい小説を作成……ここ押せばいいのね。


『え、マジで書くんすか⁉』


「え、普通に書くわ。まだ私の本棚の中にBL小説書いてあるノートあるからそれコピペするわ! ねこちゃー、小説出したら応援して!」


『分かった! ☆付けたりするのを強制的に強要するのは規約違反だけど、私がつけたいので! え、アカウント名はもちろん?』


 そりゃあ、


「みこちゃーに決まってんじゃないっすかあ!」


 すると、隣からドン! とうるせえぞ! の二連発を喰らった。私は防音対策のかけらもない白い壁を蹴り返したくなったが、すみませーん……と言うだけに留めておいた。


 私はドカンと立ち上がり、BL小説、BL漫画のたまり場となった本棚を探り、例のノートを取り出した。ふつうこういうのは黒歴史とか言って笑い合うやつなんだろうけど、私はまだ文字の世界の中のBLショタのキャラクターを愛している。まあでも引っ越しの時に手伝ってくれた友人にばれなくて良かった、ぐらいの気持ちはある。


 ドスンと私は床に座り、とりあえずタイトルを入力する。


「ボーイズラブコメディー! ……っと」


『おお、ひねらなさ過ぎて逆にいいっすね。え、どんな話なんすかあ?』


「えっとねえ、男子校の話でねえ……。思春期のムズムズした感情が赤裸々に描かれてるんですよ~」


『何そのブックチューバーみたいな紹介(笑)。え、男子校系のBLってことは、結構いろんなカップリングあるタイプのやつですよね?』


「うんうん、そうだよ! 私のもっとーは『すべてのカプに幸あれぇ!』だからね! 気弱な男子と陽キャ男子カプとか、ロックバンド組んで熱血なカプとか、ねこちゃーの大好きなリバありのカプとか」


『え、リバもあるんすか!』


 一応説明しよう。BL本に関する専門書があればintroduction当たりのページに攻めと受けの説明があるくらい、攻め受けの概念は基本的なものだ。まあ、攻めは入れる側、受けは入れられる側だと思ってもらえれば結構。


 そんでリバって言うのは、攻めと受けが入れ替わったりする概念のことだ。特に攻めと受けを固定したりはしませんよ~という概念のことはリバ可と言い、リバが地雷の人もいるので気を付けよう。


『まあでも、性描写はR15あたりに留めておいた方がいいっすよ。運営から消されるんだって』


「あ、まあ控えることくらいはできるわ」


 ねこちゃーはリバ専攻ともいえるくらいリバというのが大好きで、どうやらスポーツ系男子の漢って感じの攻めキャラが受けになってぐちゃぐちゃにされるギャップがドストライクらしい。


 あ、待って。読者さん引かないで! 左上にある×マーク押そうとしないで!


『でもみこちゃー。今日はもう寝た方がいいんじゃないですか? 明日もいそが……』


「あー言わんといてぇ!」


『どっかの田舎少女かお前は。でも妄想もいいですけど、今もう11時ですよ?』


「え、マジ? じゃあそろそろお開きにしましょうかね」


『あ、じゃあまた。明日は小説書きながらだべりましょ!』


「うん、じゃーねー!」


 そう言って私は、音声を切った。






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