アラサー女性、カクヨムデビュー。
うすしお
1、カクヨムってサイトがあってさ……。
ったく何なんだよあの新入社員! うちには稼ぎのいい妻がいるからっつって私に舐め腐った態度取ってんじゃねえよ! 別に嫌われてもいいですよオーラ出すなよ言動一つ一つが痛えんだよてめえ! お前がうまい飯食っていけてるの誰のおかげだと思ってんだよてめえの妻だろうが感謝くらいしろよこのクソ男! ああ奥さんもこんな男もってさぞ大変な思いをされてるんでしょうねえ。私はあいつの言動一つ一つに反論するたびにそんな自分が嫌になっていきますよ。そうしてあいつうまくいかなかったら私にすべて責任押し付けるんですよなんなんですかそんなスキル会得するくらいならエクセルの関数の一つでも使えるようになれよこのバカチンがっ!
「ぷへえっ……」
あー。ほろ酔い飲みながらBL読むのサイコー。マジ至福のひと時。BL作ってくれた神に感謝だわ。
って次の会議いつ? 明日? マジ〇ね。はい終わりでーす。
『みこちゃー、ねえ今何読んでる?』
テーブル上のスマホのスピーカー越しにアニメイトで知り合った腐女子仲間、ねこちゃーが季節外れのこいのぼりみたいなよれよれとした声を上げる。
「えー? BL小説のねえ、最近刊行された推し作家のやつ。『おれにありったけの』ってタイトル。勿論知ってるよねえ?」
『はーい当たり前じゃないっすかみこちゃー、完璧積読済みでえす』
「マジ早めに読みな? 三話まででも泣けっから。てか展開気になりすぎてぜってえねこちゃーだったら夜更かしするよ。これ、誇大表現(こんな単語あるのか?)じゃないから」
ちなみにみこちゃーは私、ねこちゃーは腐女子仲間の名前。本名よりニックネームの方がおもろくね? てな感じでそう呼び合うことが決まった。
『マジですかあ。そんなに言われると読みたくなりますねえ。いやあ、小説っていいですよねえ。漫画だと作画とか絵柄で好み分かれちゃいますけど、小説ってそんなことあんまないですからねえ』
「うっわ分かるわ。正直見た目の描写無視して自分の好みの男の見た目に勝手に脳内変換してるし」
『やっぱ仲間ですね~』
うえええええい。と私たちは意気投合する。まるでそこに誰かがいるかのように、私は明後日の方向にある本棚の突っ張り棒へとほろ酔いを掲げた。この風呂上りで前髪あげて丸眼鏡してだらしないパジャマ格好でコロコロかけまくったカーペットの上で読むBLが一番サイコー。私の脳よ溶けてゆけ。BLのためなら私は死ねる!(←言い過ぎ)
よし、じゃあアレ持ってきちゃおうかねえ。
私はいったん栞を挟み、白い丸テーブルの向かいにある冷蔵庫へと体を動かす。中からそれを取り出し、私はテーブルにそれを小さいスプーンと一緒に置く。
『お、なんか食べるんすか?』
「YES! コンビニのグレープフルーツゼリーだよお!」
『こんな時間にお菓子なんて、不届き物ですねえ』
「いいのいつも私が成敗してる側なんだから」
今日の新人社員の失態に対するストレスも、このグレープフルーツの酸味が溶かしてくれる~。強酸? 弱酸? 電離度が高いかどうかなんて聞いてねえんだよ。
「そういやねこちゃーは何読んでんの?」
すると彼女は言ったのだ。
『携帯小説』
「携帯? 名前は聞いたことあるけど、読んだことはないなあ」
『あのさみこちゃー、カクヨムってサイトがあってさ……』
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