第一章、世界  第四節、象徴 ①

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   第一章、世界 第四節、象徴


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 ボクはトキワと、歩きながら色んな話をした。


「ねぇ、トキワ。どのくらいここにいるの?」


 近くを飛んでいたトキワは、ボクの周りをクルリとまわって、ボクの肩にふわりと止まった。


「いつ、ここに来たのかわからない。君も気づいていると思うが、この世界には、朝、昼、夜という区別がない。時計はあちらこちらにあるのだが、同じ時刻を指しているものは一つもない。この世界は色んな意味で『永遠』だ。ただ──、」


 トキワは、タンッとボクの肩から飛び立ってボクの周りをくるくる飛んだ。


「この世界はということだけは、はっきりと言える。」


 この世界は


 言葉ひとつひとつの意味は理解できるのだけど、それが何を意味しているのかが理解できない。それと同時に、ボクの胸の奥がざわついているのも分かる。


「トキワ、よく解んない。」


 トキワは、フッと笑ってボクの目の前に降りた。


「世界というものは、まるで生きているかのように、刻々とその姿を変えるものだ。」


 それなら、なんとなくボクにも理解できる。ボクは、うなずきながらトキワの話を聞いた。


「だが、この世界は違う。」

「……違う?」

「そうだ。」


 トキワはボクに背を向けると、名探偵よろしく、コンクリートの道を歩きながら話を続けた。


「この世界は気まぐれだ。今まで見えなかったものを突然見せたり幻の道を見せたりするように、この世界は文字通り刻々と変化を続けているんだ。だから、さっき私たちが見ていた景色が振り返ると違う景色に変わっている、なんてこともよくある。」


 トキワの言葉で後ろが気になったけれど、もし変わっていたらという不安と恐怖が好奇心に勝った。


「それだけじゃあない。」


 トキワはボクの足元で立ち止まり、ボクに座るようにうながした。そして周りに誰もいないのを確認すると、ヒソヒソ声で続けた。


「君も感じなかったか? 他に生き物がいるような気配はないのに、何故かいつも誰かに見張られているような気がするんだ。」


「それは、ボクも感じていたよ。」


 いつも誰かに見られているような感覚。

 孤独なのに、誰もいないはずなのに、いつも誰かがボクを見ている気がする。

 あの風もそうだ。ボクの願うもの望むものを、あの風は運んでくる。


「そういえば、君の姿を見る直前に爽やかな風が吹いたな。誰かに会いたいと強く願った直後だった。」


 トキワは、周りを気にしながらボクと話し、そして、大きくうなずいた。


「やはり、この世界は生きているようだ。比喩ではなく、文字通りな。」


 この世界が生きているとは、か。

 トキワの言葉に納得したボクは、今度は周囲を警戒しながら、コンクリートの道を再びトキワと歩き始めた。

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