第2話

「なかなか良い部屋でございますね」


自称悪魔を連れて来たのは、イグリスの探偵事務所兼自宅である。2階が居住スペース1階は事務所。居住スペースに連れてはいかない。事務所の依頼人用の椅子に座らせた。


「ありがとう。悪魔さん。お帰りいただく事は出来るのか」


「酷いですね。帰れだなんて。わたしは貴方が好きですよ。悪魔さんなんて他人行儀に呼ばないでくださいよ。

 わたしは夢魔。男性体のインキュバスです。名前はレヴィ。好きな夢は犯罪者の夢です」


好きな夢。悪魔なんて他人の事情なんてお構いなしに人を惑わして害する存在だと思っていた。


「好みなんてあるのか」


「ええ勿論。貴方のように美しい主人ならなおのこといいです」


「美しい。どっちつかずの半端者な俺が、趣味悪いな。悪魔のくせに」


「強気な所もたまりませんね。好きですよ」


「好き。恋愛的な意味でか。冗談だろ」


「冗談ではないのですが。契約の話ですが。

 代償も対価もいりません。なので側に居させてください」


悪魔が何も求めない。そんな都合の良い話はない。あるわけがない。悪魔の無表情な顔からは何も読めない。


「冗談にしては、笑えない冗談だ。

 代償も対価もいらない。ありえないだろ」


「本音ですよ。1つだけ」


やはり何かを要求するつもりなのか。なんの代償も対価もいらないなんてことはない。


「なんだ」


「靴をください」


「命とか、体の一部ではなくて」


「いりませんよ。そんなもの。

 契約するのは貴方が初めてなんです。

 初めての契約者からは靴をもらう。決めていましたから。嬉しいですね」


嘘ではなさそうだった。彼は執事が着るような服は着ているが裸足だった。


「ついでに靴下も買ってやろうか」


嫌味のつもりで言ったのに、本当ですかありがとうございますと嬉しそうに笑う悪魔に、イグリスは敗北を味わった。

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