045:ジハードとマリエッタ

「マリーナ嬢の予想では、どの程度で敵は来ると?」

「そうですね……水をくみ、さらに神聖力を集めるとなると、数日がかかるはずです。そこまでは宝石が持ちませんから、多分明日の朝には来るはずです」


 その読みが正しいと思う。だから明日の朝に来るのは濃厚だよね。


「分かった。じゃあ三人は見つからない場所を探して、そこを拠点にしよう」


 三人はうなずくと、マリーナが話す。


「こちらに資材置き場になってる倉庫があります。まずはそこに潜み、様子を見ましょう」

「了解だよ。さて……何が来るのかが楽しみだね」


 優男は薄く笑うと、腰の剣を数度叩く。

 彼の実力は知っているから心配ないけれど、ちょっと不安だな……。



 ◇◇◇



 ――――アネモネ達が迎撃準備を始めた頃、聖騎士団長のジハードはローゼンスタイン伯爵領都にある宿に居た。


「団長、情報が入ってきました。どうやら伯爵領で何か騒乱が起こっている可能性が高いです」

「騒乱? 一体何が起きている?」

「はい。それがローゼンスタイン伯爵をはじめ、家の者が行方不明との事。魔牛には関係ありませんが、一応お耳にと思いまして」


「ふむ。他には?」

「それに関係してだと思うのですが、長女が内乱を起こすために、出奔しゅっぽんしたと言う話です」

「内乱? ふむ……」


(一見関係ないようだが、もしや魔牛と同調したのやもしれん。いや、飛躍し過ぎか……何にせよ手詰まり感はあるな。ここはマリエッタ様に指示を仰ごうか)


「通信の魔具はあと二つあったな? 準備をしろ、マリエッタ様へ指示をこう」

「ハッ! ただちに!」


 ほどなくして部下が用意した通信の魔具の準備が整う。

 円形の魔具を中心に空間が歪み、さほど時間もかからずマリエッタが映し出される。


「どうしましたジハード。魔牛は殺しましたか?」

「は。その事なのですが、途中まで足取りを掴んだのですが、その後周辺の村や町に立ち寄った形跡もなく、どうしたら良いものかと……」


 ジハードの言葉にマリエッタは呆れながら話す。


「ハァ。何をしているのです貴方は? 今はどこに居るのです?」


 その問いに現在地と、さらに伯爵領での事件を告げる。

 それを聞いたマリエッタはピクリと顔を動かすと、表情の抜け落ちた顔で話す。


「ジハード。その話は本当ですか?」

「はい、どうやらお家騒動が起きているらしいです」

「チッ、ラグレスの奴は何をしているの」

「ラグレス? あぁ、ここの代理領主ですね」


 マリエッタは余計なことを言ったと内心で思ったが、すぐに気を取り直し「そうね」と続ける。


「少し思うところがあります。ワタクシもそちらへ向かいますので、そのつもりで」

「え!? し、しかしマリエッタ様がおいでになるほどの事では……」

「貴方が魔牛を討伐してくれたら、行かなくてもよかったのかもしれませんが」


 そう言うとマリエッタは何かの魔具を起動する。

 それは聖女の動向を探るものであったが、ジハードにはそれがなんだかわからない。

 程なくしてマリエッタが口を開く。


「魔牛は健在です。場所は領都より東の山ですが、まぁそこはいいでしょう……どうせ領都そこへ来るでしょうから」

「なぜそうお思いに?」

「あの山へ行ったということは、そういう事・・・・・なのです。貴方は知らなくても良いことですが、もうすぐそれも判明するでしょう。ではワタクシが到着するまで、魔牛が来たら殺しておきなさい」


 その内容に釈然としないが、ジハードは「ハッ!!」と返事をすると通信が途絶える。


「どうやら思った以上に事は複雑なようだな……」


 そう呟きながら、窓の外を見つめる。

 夜のせいで外はあまり見えないが、雷光が見えたことで嵐が近いと思うのだった。



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