044:泉の変化と大聖女

「ランス様おまちしておりました」

「何かあったのかい?」

「ええ、水質を確認していてわかったのですが、やはり水中と陸に異物が混入していました」


 マリーナはそう言うと水の祭壇と呼ばれる、陸から伸びた島へと全員を招く。

 そこには石で出来た小さな祭壇があり、その中心にアクアマリンの宝石がはめ込まれていた。


「この宝石はお父様の物で、ここの管理に使われるものです。しかし固定されており、常に泉の神聖力を吸っている感じです」


 確かにそう見えるかな。きっと近いうち、これを回収するために人が来るはず。

 マリーナも同じ意見で、見た所そろそろ回収しに来てもいいほどに、神聖力が溜まり宝石が怪しく光る。


「とすると、水中でも似たような物があると?」

「はい。水の波動がおかしかったので、まず間違いないかと」

「うん、闇雲に歩いて探しても見つからないんだよね。ならここで宝石を取りに来る輩を待つのはどうだい?」


 いい案だね。それが一番、敵と会えるからね。

 そんな事を思っていると普通すぎるオハラ会頭が、普通じゃないこと言い出す。


「マリーナ様、それですが自分に考えがあります」

「オハラ会頭の提案を聞きます。それで?」


 オハラはチラリとコチラを見てから、そっと私の首へと手をのせて話す。なんかちょっと嫌なんですけど。


「まずはコレを御覧ください。これは不可視の指輪と申しまして、使用中動かなければ姿が消えます。これをランス殿に装備してもらい、近くに潜んでもらいます。そして敵が油断した所を捕まえて伯爵様の居所を吐かせる。と、いうのはどうでしょう?」

「それはいいけれど、まだ何かありそうだね?」


「流石はランス殿ですな。そこでより完璧するため、アネモネを水辺においておき、敵が油断して近寄って来た所を捕まえる……と、いうのはどうでしょうか?」


「ッ!? それは認められない。アネモネはただの牛なんだ。もし敵が攻撃してきたら、その場で命を落とすかもしれないじゃないか!!」


 普段は絶対に怒らない優男だけど、この提案を聞いて烈火の如く怒り出す。なんだろう、すごい嬉しい。

 オハラは優男のけんまくに驚き、ニ歩後ずさってしまう。だから私は動き出すことにした。


「アネモネ? まさかキミが囮になるというのかい?」

うんもうその方が敵を引きむもおおおおお付けやすくなるからおおおおおおん


 優男は今までの怒りがうそのように消え失せ、「キミっては」と言いながら撫でてくれる。

 それを見たオハラはため息を吐き、マリーナとタン爺は不思議そうな顔をした。


「あの、ランス様。まるでアネモネの言葉が分かるみたいですが、何かの魔具でもお使いになっているのですか?」

「あぁ、これはなんて言うのかな? ずっと一緒に居たから、なんとなく言っている事が分かるだけかな」

「ふむ。これはランス様がお怒りなのも分かりますな。このような不思議な光景、中々見れるものではありませんから」


 それを見たオハラは「軽率でした」と言いながら、優男へと頭を下げる。ちょっと、私にも謝罪しなさいよね?


「いや、分かってもらえたらいいんだ。でもアネモネ、本気でするのかい?」


 それに首を二度ふりこたえると、「わかった。僕が全力でキミを守るよ」と言ってくれた。

 

「……なんでしょう。牛に女として負けた気分になってしまいました。けど、ふふ……本当にお二人は仲がよろしいのですね」

「あはは。そうですね、命をかけて守りたいと言うほどにはね」


 な、何? やめてよ、すっごく恥ずかしい気分なんだけど!? 照れているのが分からなくて、牛でよかったぁ。


「もちろんマリーナ嬢も命をかけてお守りいたします。貴女の悲しむ顔はみたくないからね」


 それを聞いたマリーナは両手を組み「まぁ!」と頬を染めて微笑む。

 ……なんだろう。すっごくイライラしたから、優男の尻へと肘を当ててやった。


「あ痛ぁ!? どうしたんだい、そんなにむくれて?」

知らないわよムモオオオ! これだから天然王っムモオオオオオオて呼ばれるんだからねオオオオオオン!!」


 このやり取りに、優男以外は顔を見合わせて楽しげに笑ってる。もう何なのさ、フンだ。

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