013:暗い森と大聖女

「できた。できたよアネモネ! さ、早く村に戻ろう。みんなが待っているからね!」


 ふぇ~。ここまで上質の結晶が出来ると思わなかったよ……。

 これなら私が作っても似たようなものが出来るはず。悔しいけど認めてあげる、優男。アンタがナンバーⅡ・・・・・よ! 


 もちろんトップは私だけど! って……あれ? なにか世界が回る~~……。

 突然めまいがして、フラフラと散歩歩いたと同時に、湿地の中へと倒れ込む。

 生ぬるい感覚と、泥の匂いが鼻孔に入る頃に悟った。


あぁ毒に当たったなぁもおおおおおおおん……」


 消える意識の向こう側から優男の声がする。


「アネモネ!? しっかりして! アネモネ! アネモ――」


 そこで記憶が途切れてしまい、山に隠れそうになっている太陽を見つめることしか出来なかった。



 ◇◇◇



 ――日が落ちかけ、すでに闇がほのかにただよう夜の香りがする頃。


「もむぅ……」

「よかった! アネモネ気がついたのかい!?」


 あれ……ここは……あぁそうか、遅効性の毒がまわって倒れちゃったのか。

 人間だったころは、あの程度の毒でどうこうなる事なんてなかったのに、やっぱり牛になると違うのね。


 え、でも待って。ピンテール茸は猛毒で、出がらしにした部分ですら食べたら死ぬはず……その毒素をおもいきり舐めちゃった訳だから、普通は天国いきよね? 

 どうして今こんなに体が楽なのかな? 


 そう思いながらゆっくりと体をおこすと、優男が抱きついてきた。


「本当によかった。一時はどうなるかと思ったよ」

一体何があったのかなもおおおおおおおん?」

「あはは、キミは本当に感情が豊かだね。その不思議そうな顔からすると、なぜ起きれたのか気になっていそうだね。実はキミが倒れた後に――」


 優男の話は続く。

 どうやら私が倒れた後しばらくして、突然頭の角が光り始めたらしい。

 はじめは薄く光っていたみたいなんだけれど、徐々に光が強くなった瞬間に私は目覚めたみたい。

 今は完全に消えたそうだけど、一体なにが……。


「――と、そんなわけでアネモネが気がついたんだよ。光る角なんてびっくりだけど、それ以上にキミが復活できて本当によかった」

そんな事があったのねもむううううううう……」


 っていけない! もう山に日が落ちちゃう!?


「回復したばかりで心苦しいんだけど、アネモネ立てるかい? そろそろ出発しないと」

大丈夫モモウ! 〝心配かけてごめんねモウウウウウウム今すぐ行こうムモオオン!!」


 勢いよく立ち上がり、優男のおなかへと鼻を当てて行動をうながす。

 彼もそれを理解し、「よし出発だ!」と早足で森の中へと戻る。


 森の中は予想以上に暗くなっていて、外よりも夜が近いみたい。

 お互い無言で先を急ぐけれど、闇が足元よりからみつく。


「くッ、ランタンを持ってこなかったから、帰りが来たときの倍は遅い。このままじゃ……」


 元々が獣道みたいな場所だったのにくわえて、すでに闇が支配する森の中。

 優男の足取りは遅く、月の光もまばらに照らす。


 こまったな……私は見える・・・・・けれど、優男が……ん? ちょっと待って。私、見えるんだよね? 人間だった頃は神聖魔法で闇夜でも見えていたけど、まさか牛になったから?


 うん、そうと分れば!


「うわッ、アネモネ。今はキミと遊んでいる時間はないんだ。だから大人しくしていておくれ」

違うわよどんかんムオオオオオム! 私の背中に乗りなさいって言っているのッモッモモムオオオオオオ!!」


 そう言いながら優男の前でしゃがみ込む。

 それを察した優男は、「そんな、出来ないよ。キミが潰れちゃう」とか言い出す。


 そりゃ私だって背中になんて載せたくないよ。でもこうなったのは私が原因だし、いいから乗りなさいよ!


 気迫が通じたのか、優男は「う、うん。ごめんね、重かったらいつでも言ってね?」と申し訳なさそうに背中にまたがる。

 うぅ、なんだろう。男の人を乗せるなんて、すっごく変な気分ではずかしいよぅ。


「うわぁ~。アネモネの背中ってふわふわしていて、とっても気持ちがいいんだね」


 ちょ、後ろから首筋に抱きつかないでよ!

 うぅぅ。もう恥ずかしいし、胸がまた苦しい。きっと優男を載せたから、心臓に負担がかかっているのね? 


 もう、ただでさえ重いんだから、大人しく乗っていなさいよ!

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