014:夜光鳥と大聖女

「うわわッ!? 突然走り出さないでおくれよ。って、こんな暗闇でもちゃんと見えているのかい? すごい!」


 恥ずかしさと、なにかよく分からない不思議な感覚で顔が熱くなる。

 だからだろうか。それをごまかすために、思いっきり走り出す。

 

 落ちないように必死に抱きつく優男の感覚を感じながら、さっき素直に出た言葉を思い出して、懐かしいような気恥ずかしいような、よくわからない気持ちになり呟く。


ありがとうむもおおおん……いつぶりかなもぉぉんそんな事言えたのもおおおおおお……」


 森を駆けながら昔を思い出して、ちょっぴり心があたたかくなった。



 ◇◇◇



 ――森の中を爆走した結果、歩くよりも遥かに早く村へと戻ってこれた。


 でも村へ入ると、予想通りに村人たちは苦しみ倒れていたけど、まだ全員生きていてホッとする。


「遅くなりました! 皆さんご無事ですか!?」

「あんたは先程の旅のお人! ハァフゥ、な、なんとかまだ無事ですじゃ……それより薬はできそうですかな?」


 優男は「ありがとうアネモネ」と優しく言いながら飛び降りると、背負い袋に入っていた小瓶を取り出す。

 その中には生成した、弱毒化したピンテール茸の毒の結晶が入っていたのを高々に掲げ見せる。


「見てください、ここにあるのがピンテール茸から抽出した弱毒化した結晶体です! これを使い薬を作りますので、もう少しだけ耐えてください!」


 その言葉で村中から、期待と不安の入り混じった声が広がる。

 中には毒に対する不安視する声もあったが、村長が「どうせ死ぬんじゃ。ここは賭けてみようぞ」と言うと、静まり返った。


「旅のお人、ではお願いいたしますじゃ」

「お任せを。アネモネ見ていてくれるかい?」


 もぅ、最後まで私だより? しかたないなぁ、ちゃんと見ていてあげるから頑張りなさいよね?

 そう思いながら、「もおお~」と返事をしてやる。

 それがよほど嬉しかったのか、「よし!」と両手で気合を入れて最終工程へと移る。


「最後は摘みたての甘野草の葉が必要なんだけれど……おや? ちょうど戻ってきたみたいだね」


 ナイスタイミングだね。でも、なんか光ってる? え、あれって夜光鳥じゃないの。

 あの臆病な鳥が子どもたちを連れてきてくれたのかな? 不思議なこともあるんだね。


「これは……アネモノが守ってくれたのかい?」


 優男はそういうが、私は何もしていない。

 不思議そうに彼の顔を見ていると、「ほら、また光っているよ?」と角を指差す。

 鏡が無いのでよく分からないけど、これまた不思議なこともあるものね。


「あんちゃん戻ってたのか! 見てよ、いっぱい採ってきたよ!!」


 先頭を夜光鳥に照らされた子どもたちが、背負カゴいっぱいに甘野草を詰め込んで、元気いっぱいに森から誇らしげに出てきた。


「暗くて大変だっろうに、本当にがんばったね」

「うん、でも森に入ってからずっと、光る鳥が付いてきてくれたんだ。だから助かっちゃったよ」

「夜光鳥が……なるほど、とにかく無事でよかった。じゃあ甘野草を見せておくれ」


「これでいいかい?」

「鑑定――うん、これで間違いないよ。あとは僕たちに任せてくれ」

「お願いだよ。村のみんなを助けて!」


 今にも泣きそうな年長者の子供の頭へ優しく手をのせ、「大丈夫。アネモネがいるからね」とうなずく。

 ちょっと待ちなさいよ。そこは〝僕がいるからね〟の間違いでしょ? まぁ確かに私がいれば問題ないけどさ。フフン。


 

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