007:羞恥心と大聖女

「頼む旅のお人……ワシらはもう……ダメじゃ。子供たちを……隣町の長の所まで……連れて行ってほしい。報酬は暖炉の上の箱に入っている……ハァハァ、頼む!!」


「いえ、報酬はいりません。でも分かりました村長さん、僕が必ず子どもたちを隣町まで連れていきますから、安心してください!」


 なんだか勢いよく安請け合いしちゃう優男。

 そんな彼に呆れつつ、周囲を見渡しながらため息とともに牛語がでちゃう。


アホらしいむも~~~どうしてそんな面倒な事しもおおおおおおんなきゃいけないのよ~もおおおおおおむ


 そう言いながら不本意だけど……すっごく不本意だけど、すっごく嫌すぎるけれど、美味しそうな草・・・・・・・を食む。あら? やだ、すっごく美味しい♪


 そんな奇行(?)をしている私に、驚いて優男が駆け寄ってきた。


「アネモネ、病原がどこか分からないのだから、むやみに食べちゃだめだ!」


 優男がうるさく何かを言っているけれど、この旨さはやみつきなちゃう。

 だって、とても甘くて・・・極上の味なんですもん。


 って、いけない! なに草を食べて恍惚こうこつとしてるのよ私!?

 牛やヤギじゃないんだからって、牛でした……。はい、白い牛デス。


「アネモネどうしたんだい、そんな表情が抜け落ちた顔で……って、まさか感染したのかい!?」

違うってばムオオオオン牛な事実に打ちひしがれているのムモオオオオオオオ!!」

「ふぅ、元気そうよかった。もう拾い食いはいけないよ?」

牛にそれを言うかしらもおおおおおおん?」


 まったくマヌケな事を言っている暇はなかったんだった。

 あとはコレ・・をどうにかしなきゃだけど……。


 十八歳の可憐な娘な私としては〝ぺッ〟ってするのは絶対に嫌だし、かと言ってこの優男じゃ意味もわからないだろうし、困ったなぁ。

 

 もぅ、話せないってこんなに不便だとは思わなかったけど、こうなったら面倒だけど大聖女として――


――助けてあげるから感謝なさいむもおおおおおおお~


 優男が「アネモネ?」と不思議そうに見ているけれど、かまわずに倒れている二人へと近づく。

 一瞬ぼんやりと見ていた優男だけど、「ダメだ、戻って来い!」と焦って走り出す。


 その気配を感じながら、〝あぁ嫌だなぁ~したくないなぁ~〟と考えながらも、愚民の二人の頭の近くへ顔を近づける。


「う……牛さん……ダメ、こっちに来ないで……って、きゃ!?」

「待て、待つんじゃ牛よ……娘から離れ……ぷぉッ?!」

「ア、アネモネ! キミは一体何をしているんだ!! ……え?」


 おどろく三人。その顔はそれぞれ驚愕と言っていいほどであり、特に倒れた親子はそれがよく分かる。

 それはそうだよね。だって、いきなりウシに顔を舐められたんだから。


 けれど、それが原因で驚いたわけじゃない。

 それが優男には外見で分かり、愚民の親子にいたっては体調ですぐに理解したのだろう。具合がよくなっていると。


「なんじゃと?! あれほど息苦しかったのが、うそのように楽になったわい!!」

「うん! まだ立つのは困難だけど、息苦しさがなくなったわ! これは一体どういう事?」

「お二人共、それだけじゃありませんよ、お互いの顔をよく見てください」


 二人はそう言われて互いの顔を見る。

 するとそれが一瞬で分かるほどに、オレンジ色のアザが消えていた。


「これは……そうか、アネモネが舐めた所が綺麗な肌になっているのか? アネモネ、キミは一体何をしたんだい?」


 優男が不思議そうに私を見るけれど、口の中が不快でそれどころじゃない。

 油ギッシュな愚民一号と、ちょっとはマシな愚民二号。

 

 その二人の油汗でベトベトの顔を舐めたものだから、思わずウゲェとしながら建物の裏で、口の中のモノを〝ぺッ〟と吐き出す。

 

 ところが、そんな乙女の恥じらいを理解しようとしない無粋な輩である、優男が背後から覗き込む。やめてよ、コッチに来るな!!


「大丈夫かいアネモネ? って、まさか……ッ!? その草があの病気を癒やしたのかい?!」


 驚きながら私の前へとやってくると、こともあろうか吐き出した草の固まりをつまみ上げる。

 ちょ、変態! 吐き出したモノを摘まないで! バカ・アホ・優男!!


 うぅ、もう本当にやめてください。恥ずかしくて死んじゃうからあああ……。

 

「そうか、この雑草が特効薬なのかもしれない。あ、そうだ。こんな時のために、神よりさずかったこのスキルがあった」


 そう優男は言いながら、草を摘み「鑑定」と力強くも静かにスキルを使う。

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