006:疫病の村と大聖女
「これは一体……」
絶句する優男の肩越しから見る光景。
それは品のない寂れた村だった。
しかしそれだけなら普通の村なんだと思う。
ただそうじゃないと一目で分かるのが、村のあちこちに倒れた人が放置されていた事だった。
村人はまだ息があるようで、苦しみながらもがいていたが、上半身すら起こすことが出来ないほどだ。
それがいたるところで散見され、目の前には地獄みたいな光景が広がる。
「これは流行り病なのか? となるとアネモネ、キミは危険だからここに居てくれ。僕が村人を見てくるから」
そう言うと優男は胸元からハンカチを取り出すと、口にそえて村の中へと入っていく。
「
考えなしの優男にイラつきながら、村の中へと入っていく。
「って、アネモネも来ちゃったのかい? ダメだと言ったのに仕方のない
「
最初に見つけたのは初老の男で、皮膚にオレンジ色のアザが複数浮かび上がっていた。
その隣には娘だろうか。二十代後半ほどの女が「父さん……しっかり……」と、同じ症状で息も絶え絶えにはげます。
「こら、押さないでおくれよ。ッ!? これは酷い! 大丈夫ですかお二人とも!?」
「ハァハァ……息が……出来なくなって……ハァ……フゥ。父が倒れたので……ハァ、近づいたら……」
「なんと、そんなに感染力が高いのですか?」
「分かりません……ハァハァ、旅のお方にすがるのも……ハァ、失礼ですが助けていただけないでしょうか」
娘が涙を浮かべそう言うと、倒れてピクリともしなかった父親が苦しげに目を見開き、強い口調で話す。
「ダメダ! 今すぐにハァハァ、ここから……離れろ! こうなったら、ハァ、ふぅ……助からんのだ」
「その様子だと、あなたはこの病に心当たりが?」
寝たままが失礼だと思ったのか、鬼の形相で壁によりかかりながら上半身を起こして男は話す。
「ワシはこの村の
「という事は、あなたはその生き残りという事ですか?」
「そう、じゃ……祖父や祖父母……父も母も皆……突然倒れ、体にオレンジ色のアザを浮かべ……死んだ……ハァハァ」
そう言いながら、村長は右腕をこちらへと向けて見せる。
オレンジ色のアザは徐々に濃くなっているようで、「これが全身に回れば死ぬ」と言いながら、娘へと話す。
「リリー……ハァハァすまない……昔と同じように……するしかない」
「もぅ、ハァハァそれしか……ないの?」
「そうだ……もう助かる道はハァハァそれ、しかない」
優男は目を輝かせ、「助かる方法があるんですか!?」と更に近寄ろうとする。
バカなのね、真性のバカヤロウなのね!?
あんたまで感染したらどうするの! そう思ったら、思わず優男のマントをかじって動きを止めた。
「ッ、すまないアネモネ。思わず興奮した」
「
まったく、油断も隙もないバカちんだよ。
やっと止まった優男へ文句の一つも言ってやりたいけれど、村長が助かる方法とやらを苦しげに語る。
「この村が唯一存続出来る……ハァハァ、残された選択肢……それは未来じゃ」
震える右人差し指の先、そこには子どもたちがいた。
どうやら村人は倒れる寸前に、家の外へと子どもたちをひとまとめにしたみたい。
「未来……子どもたちの事ですね?」
「そうじゃ。原因が分からぬが、この病は子供らには
「父さん……」
遠くから倒れた親を泣き叫びながら呼ぶ子供。
それをなだめ、後ろから抱きつき止める年長の子供。
ただ全員〝こうなる事が分かっていた〟としか思えない、覚悟ある態度で事態を受け止めていた。
だから村長も覚悟を決めて、子どもたちに全てを託す事を選んだと、アツイ視線で私たちを見ているのはいいけどね……無駄な努力よね?
だってねぇ、こんなの簡単に治せるし。
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