七月

第二十草

七月。


それは、本格的に暑くなる季節だ。


でも.....それは言い換えれば、植物にとっては、光合成し放題のバイキング状態みたいなもので、今現在、庭の畑の雑草は、暑さでダウンしている僕を尻目に、生き生きとしていた。


...........植物の力って凄いなぁ。


んで、そのことは置いておくとして


若葉「.......」

淳「.......」


どういうわけか、僕の目の前には、日本が誇る三つ星レストランのシェフこと、橘淳が居た。


..........どうしてこうなったのかって?


それはこっちの台詞だよ!!


僕、何か変なことでもしたのかな?


若葉「あ、あの.....僕に何か用ですか?」

淳「............緑井若葉くん、君に頼みたいことがあるんだ」

若葉「..........ヘ?」


頼みたいこと?


淳「私の店に..........【TATIBANA】に、君が育てている野菜を卸して欲しいんだ!!」


それは、僕自身も、予想だにしていない発言だった。


若葉「えぇ!?」


嘘ぉ!?


僕が育てている野菜を...........三つ星レストランに卸す!?


確かに、それは嬉しい話だけども....


若葉「な、何でまた僕の育てている野菜なんですか?」


僕がそう聞くと.........淳さんは、こう答えた。


淳「私はね.....ついこの間、君が育てた野菜、アールヴ花のコロッケを食べたんだよ」

若葉「え!?そうなんですか!?」

淳「あぁ。それで、そのコロッケを食べた瞬間、私は、こんなにもクリーミーな芋と、爽やかな風味を持つハーブが存在することに、衝撃を受けたんだ」


はぇ.....そんなことがあったのか。


てか、自分が育てた雑草が褒められるとは思わなかったな。


淳「だから.....私は、君の育てた野菜を使って、料理を作ってみたいという思いが溢れてしまってね..........」

若葉「橘さん.......」


この人...........僕の作った野菜のことを、本気で愛しているんだ。


だって、そうでもなければ、ここまで足を運ぶこともないだろうし.......何より、僕の家に辿り着くこともなかったのかもしれない。


淳「無理を言っているのは分かっている、だが、だが.....」

若葉「............いいですよ」

淳「え?」

若葉「今後とも、どうぞよろしくお願いします」


そう言うと、橘さんに対し、深々と頭を下げる僕。


すると、橘さんはしばらくポカーンとした後


淳「い、いいのかい?」


と、恐る恐る聞いてきた。


若葉「僕、思ったんです。橘さんのように、食材のことを真剣に考える人なら、僕の育てた植物を任せられるって」


ニコリと笑いながらそう言うと、橘さんの顔が光り輝き.....


淳「ありがとう.......」


と言った。


そんなわけで..............僕の育てた雑草は、三つ星レストランに卸されることになるのだった。






☆☆☆

橘淳

三つ星レストラン【TATIBANA】のシェフ。

常に新しい味や食材を求めており、そのため、たまにどこかに出かけることがある。

木之下町の近くの道の駅にて、食べ歩きをしていた時に、エルフの好物と出会い、若葉の育てている雑草を仕入れる決意をする。

なお、その雑草を使ったメニューは、評判がいいのだとか。

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