終章

-1 手紙

   アキさんへ


 この手紙が届くころ、俺はこの世にいないだろう。もしも俺が生きていたら、この手紙はなかったことにしてほしい。


 俺は、ずっと香奈の思惑にのせられていた。それに気付かなかった俺は、とても愚かだと思う。


 香奈は、本当の愛というものを知らないまま生きている。


 実の親から見放されたと思い込み、人の痛みを理解しようとしない。     

 俺もそうだった。


 俺が作った箱庭に、海があったんだ。それは、慎二が感じていたような愛を欲していたことをあらわしているんだと思った。


 慎二を妬んでいた。

 両親からだけでなく、誰からも愛され、いろんなものを手に入れていると思っていた。


 でも、慎二は実の親から暴力を振るわれていて、心に深い傷を負っていた。


 笑顔を作らなかった慎二を、誰からも愛される、笑顔を絶やさない人間に変えたのは、育ての父親と母親、二人からの深い愛を感じたから、慎二は変われたんだ。


 俺は母さんが自殺するまで、母さんから愛されていないと思っていたよ。

 でも違ってた。

 愛情表現を間違えていただけで、俺はちゃんと愛されていたんだ。

 それに気付けなかった。


 俺は、自分を悲劇の主人公のように思い込んでいた。


 アキさんは、香奈をずっと支えてきたよね。だけど香奈は、それに気付かず慎二だけを求めてた。


 アキさんはずっと苦しかったと思う。香奈のために自分を追い込んできたんだよね。


 ずっと香奈を支えてきたアキさんなら、香奈を救えるように思う。


 香奈に本当の愛を、深い愛を教えてあげてほしい。


 アキさんなら、慎二の両親のように、香奈を変えることができるような気がする。

 

だから香奈の未来を託したい。 

 

 香奈が変われそうにないと、アキさんが感じたら、そのときは、香奈から離れた方がいいと思う。

 アキさんにはアキさんの未来があるから。


 アキさんと香奈の、幸ある未来を祈っています。



    ✳  ✳  ✳



 俺は、良太からの手紙を読んだ後、自分の間違いを深く悔やんだ。

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