2-3 夏休み

 俺は、動かなくなった慎二をクローゼットに隠した。物置からいろいろ道具を持ち出した。

 動かない慎二はとても重たく感じる。玄関にあった慎二の靴もクローゼットに隠した。

 殺すつもりは、なかった。

 一瞬、かっときて、気が付いたら慎二が動かなくなっていた。倒れている慎二を見ると、ありえないくらい殴ったのがわかる。

 慎二は香奈とのことをどう説明するつもりだったんだろう。友達同士が腕を組んで歩くことはない。付き合ってると俺に言おうとしたのだろうか。

 香奈と付き合ってるのは俺だ。

 香奈は慎二に騙されてたんだ。慎二

は偽善者だ。

 俺と香奈を邪魔するヤツを消しただけだ。あとは誰にもばれないようにすればいい。

 母さんが戻るまでにドアも直しておかないと。何もなかったように。


 

 慎二をクローゼットに隠してから数日が経った。冷房の効いている部屋とはいえ、臭いが気になり始めた。そのうち、腐敗臭が部屋だけじゃなく、二階全体に広がるんじゃないかと思った。

 それはまずい。

 市販の消臭剤でどうにかなるだろうか。

 ネットで調べてみると、いろんな消臭剤があった。医療機関や老人福祉施設、工場などでも使われている業務用なら効果がありそうだ。

 希釈タイプよりは、簡単に使えるスプレータイプがいいだろう。いろいろ見ていると、有名ネットショップでも取り扱っていることがわかったので、購入することにした。介護用のスプレータイプの消臭剤なら、多少は効果があるだろう。

 慎二が俺と会うことを誰に話したかということが問題だ。

 おじさんとおばさんは、心配してるだろうな。警察に行って、相談してるんじゃないかな。

 二人を思うと、心が痛んだくる。

 でも、人のものは取っちゃいけないんだ。

 殺人は犯罪で、もっと悪いことをしてしまってるけど。

 後には引けない。

 これから先、どういう風に誤魔化していけばいいだろう?

 そんなことを考えていたら、香奈からのメールが届いた。

 課題を教えてほしいと言っていたことを思い出す。部屋に鍵をかけてはいても、この部屋から出るのは不安だ。


携帯の画面を開いて、メールの内容を見てみると、課題を一緒にしようとあった。

 香奈に会いたい。

 せめて声だけでも聞きたい。俺は、香奈に電話することにした。香奈はすぐに電話に出た。

『夏休みもあと少しで終わるね。課題はどう?』

 香奈のおだやかな声。

 焦っている心が落ち着いてくるのがわかる。

「課題はだいたいできてるよ。でも、ちょっと熱っぽくて、外に出られそうにないんだ」

 風邪をひいたことにしたら、会わずにすむ。会いたいけれど、今は仕方がない。

『夏風邪なのかな。体調悪いのなら、出かけられないよね』と、香奈は残念そうに言った。

「あ、でも、電話でいいなら、数学わからないところを教えられるよ」

 香奈と少しでも多く話していたいと思う。

『良太君の体調がだいじょうぶなら、教えてもらいたい』

 香奈の嬉しそうな声は、俺も嬉しくなる。香奈からは、いくつか数学の課題でわからないところを質問された。

気が付いたら三十分くらい経っていた。

『体調落ち着いたら、いつものカフェで会おうね。アキさんのコーヒー、そろそろ飲みたい』

 アキさんは、カフェの店長のことだ。見た目はすごくチャラそうで、苦手なタイプ。でも、二十四歳で店長としてカフェをまかされていることもあり、外見とはうらはらにしっかりしているところもある。

 頼りがいのあるかっこいい大人だと思う。

「アキさんの作る日替わりランチもおいしいよな」

『良太君は、アキさんの外見がすごく苦手そうだったのに、今はすごく仲がいいよね』

「外見で判断しちゃいけないんだよな。アキさん見てるとそう思う」

 派手な赤い髪、いくつあけてるのかもわからないほどのピアスの数、肩から手首にかけて彫られたTATOO。

 アキさんが、兄だったら良いのにと思う。

 そんな会話をしてから、電話を切った。


 俺は、夏休みの間、家から出ることはなかった。

 

 そして夏休みの終わりに、俺はT山に慎二を埋めた。




(第二章 おわり)

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