第175話 ハイカロリー 1

「ユウー! ちょっと手伝ってくれ。このジャガイモをロレッタの様に薄く切るだけでいいんだ」


 広間で子供達に囲まれていたユウを台所まで連れてくると、子供達からはブーブー文句を言われてしまったが、仕方がない。


 お前らポテチだぞポテチ。絶対に後で『マコトお兄さんありがとう』ってなるからな。


「さあ、斬ってみてくれ。ユウなら、この剣でも薄く切れるはずだ」


 ぼんやり台所に立つユウに剣とジャガイモを握らせる。普通に考えたらジャガイモは包丁で切った方が切りやすいはずだが、ユウは剣神だぞ。

 剣さえ持たせれば何でも斬れるはずだ。


 ジャガイモと剣を持ち、静かに佇むユウ――。


 いつの間にか広間にいた子供達も集まってきて、台所の外から様子を伺っている。きっと日頃からロレッタに『危ないから台所には入るな』と言われているのだろう。


 その時、ぼんやり宙を見つめていたユウの目に力が宿る。

 ユウは手に持ったジャガイモをまな板の方に放ると、静かに剣を抜いた。


 ただそれだけで薄くスライスされたジャガイモがまな板の上に美しく広がる。

 まるで手品師がテーブルにトランプを広げたようだ。


 一泊置いて、「すごい、すごい」と子供たちの歓声が上がる。


 俺も驚いた。思った以上にすごいぞ、剣神。


 スライスされたジャガイモを一枚つまんでみるとロレッタが切った物と同じ薄さに切られている。それも全てが同じ厚みに揃っているじゃないか。


 剣を一振りしただけでどうしてこうなるのかはわからないが、まさに神技だ。


 試しにもうひとつジャガイモをユウに放ってみる――。


 ユウはスっと静かに剣を振ると、またもや均一にスライスされたジャガイモがまな板の上に並んだ。


 これは便利だ。実家にあったスライサーより使える!


「ロレッタ。もうこっちは大丈夫そうだから、揚げ物の準備をたのむ」

 俺は次々とジャガイモをユウの方に放りながらロレッタに声を掛けた。


「ユウさん凄いですね…………。では、私はフライドチキンに取り掛かります」


 ホイホイとジャガイモを投げるとユウがスっスっと切ってくれる。なんだかこのテンポは楽しい。ちょっとクセになりそうだ――。


 ふと思いついたが、ユウは野菜を切っているのだから、これは料理ではないだろうか?


 この作業を続けていれば、もしかしたらユウは料理スキルを覚えるかもしれないぞ。そうであれば余ったスキルポイントの使い道としてアリだ。ユウならすぐに料理の道も極める事だろう。


 ジャガイモを放り投げながらユウのステータス画面を開いてみると――。


 名前:ユウ

 種族:人間 性別:女

 職業:勇者(奴隷)

 レベル:44

 スキル:精神攻撃遮断3、痛覚遮断3、物理抵抗10、炎抵抗2、飢餓抵抗3、

 毒抵抗2、エアスラッシュ10、剣神、疾風剣10、千手流し斬り1


《習得していないスキル》睡眠抵抗、麻痺抵抗

 スキルポイント8


  料理スキルはないな…………。


 ん、『千手流し斬り』だと? 新しいスキルを覚えているじゃないか!


 こういうスキルの覚え方もあるのか…………。きっと新しい剣技を開眼しちゃった感じなのだろう。


 いくらジャガイモを切っているとはいえ、やはりこれは料理ではなかったようだ。

 でも新スキルを取得した事には変わりないぞ。


 むしろこれは謎の取得条件を達成してレアスキルをゲットした事を喜ぶべきだろう。


 千手流し斬り1→9 

 さっそくスキルポイントを全て注ぎ込んで、スキルレベルを上げておいた。きっとこれも次のボス戦で役に立ってくれるはず。


 いや、でもボスがバラバラにスライスされちゃったらちょっとグロイか? しかも素材も取れなくなってしまいそうだ。


 ちょっと早まったかもしれん…………。

 スキルレベルを上げるのはどんな技か見てからでも遅くなかったな。


 まあ、やってしまったものはしょうがない。それよりも今後もユウに色々なものを切らせれば、また新しい剣技を覚えるかもしれないぞ。


 ただジャガイモを切った事で千手流し斬りを覚えたとは考えにくいので、他にも取得条件があるのだろう。ただ切るだけでなく色々な行動をさせてみるのが良いのかもしれないな。


 そんな事を考えている間にジャガイモを切り終えてしまった。あとは切った芋を洗って時間を置いて乾燥させなくてはならない。

 ユウはそんな事できないので子供達と一緒に広間に戻ってもらう。

 俺が芋を洗って水を切っておこう――。


 次にピザ窯の様子を見に行くとガレフが火を入れてくれていた。


「おお、主人よ。いい所に来たな。いつでもこの窯は使えるぞ」


 中を覗くと真っ赤に薪が燃えているのが見えた。顔が熱い! 覗き込むと中がかなりの高温だと言うのが解る。


 これならピザも焼けそうだが、もっと高温がいいだろう。温度計がないので何度かは解らない。ガンガン燃やして少しでも庫内の温度を上げて、短時間で焼くのがいいはず。


 むかしテレビで見たときはピザを入れた瞬間にピザソースが沸騰して1分くらいで焼けていた。


「もっと薪をくべて温度を上げよう。1分で焼き上げないといけないんだ」


「1分であのパンみたいのを焼くのか? それならもっと火を入れて余熱に時間を掛けてオーブンを熱さないとならんぞ。かなりの高温になるから実際に焼くのはストーンゴーレムにやらせるといい。あいつらは熱さを感じぬからな」


「それがいいな。もっと火を入れておいてくれ」


 俺は今のうちに風呂に入ってこよう。

 風呂上りに冷えたエールと揚げたてポテチとフライドチキン。それに焼きたてピザなんて最高じゃないか?


 揚げ物はインプにピザはゴーレムにやって貰おう――――。













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