第168話 ダンジョン59階 2

 アナのレベル上げも兼ねてエイプを狩りながら60階を目指す。

 まだ今回の探索では60階ボスには挑戦しないでも良いだろう。アナのレベルがある程度上がったらガレフと交代してから60階ボスに挑もうと思う。


 まだ魔物がそれほど強くないので回復よりも火力要員を重視したい。今後、前衛にダメージが蓄積するようになってきたらアナの出番だ。その時はおおいに活躍してもらおうと思う――。


 予想通り、60階までは遠い。

 森を抜け草原をしばらく進むと辺りが暗くなってきた。今夜は草原での野営となりそうだ。見晴らしが良いので魔物から見つけられやすくなるが、こちらも魔物を発見しやすくなるので奇襲を受ける事はないだろう。


「よし、ここを今夜のキャンプ地にする。前回の様にカレンとユウで焚き木を拾ってきてくれ。残りでテントをはるぞ」


 それぞれ自分の仕事へと散らばってゆく。もうダンジョン内での野営には慣れてきたようだ。手際が良くなっている。


 ただし、アナは初めての野営なので勝手が解らないようだ。俺の後について来て、俺の手伝いをしてくれている。


「マコト様、ダンジョン内での野営は危険ではないですか? まともに眠れるとは思えないのですが…………」


「見張りを置くから大丈夫だよ」


「見張りですか?」


「今、ちょうどユウも居ないし詳しく説明しておこう。実は陛下はモナネ王国の国王ヴィルヘルム5世が転生したスケルトンなんだ。さらに暗黒神ゾ=カラールに仕えるプリーストでもある。闇魔法で魔界からインプを召喚して使役することができるんだ」


「え!? ちょ、ちょっと待ってください。マコト様、情報量が多すぎて混乱してしまいます。陛下とは黒い鎧の彼ですね。なるほど、モナネ王国の王であるから陛下と呼ばれているというのは解りました。簡単には信じられませんが……。それでスケルトンというのは本当なのですか? 普通に会話してますけど…………」


「陛下! こちらに来て兜を脱いでください」


「うむ、マコトよ。その娘に話す気になったか、まあいつまでも隠し通せるものでもないだろうな」


 モモちゃんとテントを設置していた陛下はこちらに向かって歩きながら、兜を外してアナに素顔を見せる。素顔といっても兜の下からは頭骸骨が出てくるだけだが。


「あ、本当にスケルトンなのですね。喋るスケルトンは初めて見ました。なるほど、それでブレスが効かなかったのですね。そういえば我が国の宮廷魔術師は転生したリッチで外見はスケルトンの様だと聞いた事があります」


「ふむ、余はまだその宮廷魔術師には会った事はないが、そうらしいな。ちなみに余はリッチではなく、マコトが言うにはスケルトンプリーストらしいぞ」


「それで暗黒神ゾ=カラールの信者なのですよね。完全にルミエル教団とは相容れない存在です。しかしマコト様の奴隷となった私にとってヴィルヘルムさんは先輩奴隷にあたる方です…………」


 アナは眉毛を八の字にして非常に悩ましい顔をしている。彼女の中でなんとか折り合いを付けて、整合性をとろうとしているのだろう。

 大丈夫だろうか? しかし、ここを何とか乗り越えて貰わないと仲間としてやっていくには厳しい。


「これは意識改革が必要ですね。そもそも光の神ルミエル様と闇の神ゾ=カラールに正邪はないはずです。どちらも対等な神のはず。教団の都合で神聖なルミエル様、邪悪なゾ=カラールと決めつけられているに過ぎません。ルミエル様の導きでないなら、教団に従わないと決めた私がゾ=カラールの信者と敵対する必要もないはず? それに以前から思っていましたが、教団は人間を神聖視しすぎている様に思います。本来ルミエル様は地上の生命を全て等しく愛してくれているはずです。あ、でもアンデッドはどうだろう…………」


 アナは何やらブツブツ言いながら辺りをうろついている。やはり生まれながらに邪悪な存在だと教わってきた事を今さら変えるのは難しいのかもしれないぞ。


「マコト様。ヴィルヘルムさんもマコト様の大切な仲間なのですよね?」


「当然だ」


「であるなら、私はマコト様を信じるのみです。残念ながらヴィルヘルムさんにはルミエル様の祝福は届かない様でしたが、だからといって邪悪であるとは言えません。逆に祝福を受けても邪悪な人間もいらっしゃいました。もちろんゾ=カラールの信者だから邪悪な存在であり、討ち滅ぼすべきという事もないでしょう。教団もそういう意識改革が必要な時期に来ていると思います。特に異端審問などというのは廃止にするべきです。異端であることにどの様な罪があると言うのでしょうか…………」


「そうか、それならアナを俺たちの本当の仲間として受け入れられる。では陛下、召喚をお願いします」


「うむ、『サモンインプ』『サモンレッサーデーモン』 お前ら、周囲の警戒とマコトの調理を手伝うのだ」


 召喚されたインプが飛び回り、レッサーデーモンが見張りへと歩き出す。


「目の前に悪魔がいるなんて、とても信じられない光景です。ゾクゾクとした背徳感を感じます。教団の教えに逆らっているからでしょう。私がこれでは教団の意識改革は時間がかかるかもしれません。それでも信仰は自由であるべきです。マコト様、私は戦いますよ」


「あぁ……」

 アナは教団を変えたいようだが、俺はあまり興味がないな。まあ教団の事はアナに任せておけばよい。


「それより、陛下の事はユウだけ知らないんだ。ユウにスケルトンだってバレるとどうなるか解らないから、まだ内緒にしておいてくれ」


「はい、マコト様。解りました。ところでユウさんはどういった方なのでしょう? とても強いのは戦いを見て解りましたが、なんだかボーっとしていて捉えどころがありません。誰かとお話している所も見かけた事がないですし、謎の女性ですね」


「ユウは過去のトラウマで言葉を失っているんだ…………」

 俺はユウの詳しい事情をアナに話す。悲しい過去だが特に隠すような事はないだろう。

 両親を魔物に殺されて魔物を憎んでいるので、陛下がスケルトンである事は内緒にしていると話しておいた。


 しかし、最近のユウはダンジョン内で魔物を見かけても暴走する事はないし、モモちゃんとも上手くやっている。インプやレッサーデーモンを見ても反応しない。


 彼女も成長しているのだろうか――――。



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