第167話 ダンジョン59階 1

 新たな6人パーティーを組んで59階からスタート。

 今回の探索の目的はアナのレベル上げと今後のパーティー編成をどうするか試行錯誤してみることだ。


 特に陛下とアナの相性が気になる。もしかしたら、この2人は一緒にパーティーを組むことができない可能性もある。


 とりあえず、この6人でダンジョンのゲートをくぐり59階に移動する事はできた。

 相反する属性でもパーティーを組むことが出来て、ゲートもくぐれるようだ。


 ただ、これは勝手に陛下は闇属性、アナは光属性って事に俺がしているだけで、そもそもそんな属性という概念がないのかもしれない。


 しかし、今までの戦闘から属性とか相性があるように俺は感じるのだ。ただし、これもステータス画面には表示されないので、本当の所は解らないのだが……。


「アナ、ブレスを頼む」


「はい、マコト様」


 アナが神に祈るような仕草を見せるとパーティーメンバーの体が一瞬淡い光に包まれ、その光が消えると足元に薄っすら輝く光が残った。

 ガレフのプロテクトは全身に光をまとうエフェクトだが、ブレスは足元が光るようだ。これも解りやすくていいな。


 そして、これがブレスか…………。

 なんとなく体が軽くなり力がみなぎってきた様に感じる。プロテクトは物理防御UPなので実感できなかったが、ブレスは体感できる。何だか強くなった様な気分で悪くない。


 ステータス画面で効果は確かめられるだろうか?


 物理攻撃力、物理防御力、魔法攻撃力、魔法防御力の全てが1割弱ほど上がっている。どうやらブレスは全てのステータスが満遍なくバフされるのだろう。

 それに対してガレフのプロテクトは前回の探索で物理防御力だけが2割ほど上がっていたのを確認している。


 今日は試すことができないが、この2つのバフを重ね掛けできたら強そうだ。どちらかしか掛けれないなら攻撃力があがるブレスの方が有用そうだが、これはその時の状況にもよるだろう――。


 あ、陛下のステータスだけ変化がない。よくみると陛下の足元だけ光ってないじゃないか…………。


 やはり陛下にブレスは効果がなかったようだ。アンデッドにはルミエルの祝福は届かないらしい。それでも最悪ステータスが逆に下がるのでは? と思っていたので、まだ良かったのだろう。


「陛下、どうですか? 何か変化はありましたか?」


「いや? 普通はブレスが掛かると体が軽くなるものだが、何も変化を感じられんな」


「マコト様、それはおかしいです。でも確かにヴィルヘルムさんの足元が発光してませんね。ブレスが掛からなかったのでしょうか? もう一度試してみます」


 アナがもう一度祈るような仕草をみせる。我々も陛下も一瞬発光するが、陛下の足元には光が現れない。


「ダメみたいですね…………。なぜ神の祝福が得られないのでしょうか? 私はヴィルヘルムさんの着ている鎧に原因があるように思います。その鎧からは不浄な気を感じるのです。脱いでみては如何でしょうか?」


「いや、それには及ばぬ。余はルミエルの祝福など必要とせぬからな」

 ガハハハと笑う陛下をアナが不満そうに見つめる――。


 さっそく新パーティーに不穏な空気が流れだしたぞ…………。

 ここはリーダーである俺の出番だろう。こういう時の一言でリーダーの力が試される。


「ま、まぁとりあえず。進もうか…………」


 ダメだった! 何も思いつかなかった!

 皆、無言で森の中を進む――。


 何と言えばよかったのだろうか? いまだに思いつかないが、とりあえず進みだしてしまったので探索に集中せねばならない。


 今は59階だが、58階からゴリラよりも人に近いような魔物が出現するようになった。今の所は1匹でしか現れていないが、あの類人猿のような魔物が集団であらわれると危険に思う。


 カレンを先頭に進んでいると――。


「でっかいサルがいるぜ」

 カレンがこちらを振り向き小声で教えてくれる。よく見ると58階から現れだした類人猿が3匹かたまって行動している。さらに、こん棒の様な武器まで持っているようだ。

 道具を使えて集団行動もできるとは、なかなか厄介な魔物らしい。この魔物の生態もギルドに報告しなければならないな。


「とりあえず彼らをエイプと名づけよう。エイプは武器を使えるようだから油断しないように。アナはまだレベルが低いので前に出ないで、俺とカレンと一緒に居て欲しい。前衛は最速で突撃してくれ。それでは行動開始!」


 俺の合図と同時にユウが剣を振り上げエアスラッシュを放った。

 おお、久しぶりに見たなと思って眺めていると


 ユウがエアスラッシュの斬撃エフェクトの後ろを追いかけて走っている。

 どうやらエアスラッシュを盾にエイプと接敵するつもりの様だ。


 遠目に放たれたエアスラッシュはエイプに気づかれ、ヒョイと躱されてしまった。

 しかし、その陰から人が出てくるとも思わなかったようで、エアスラッシュを躱したエイプはユウにあっさりと斬られてしまった。


 続けてユウが2匹目に斬りかかり、3匹目も参戦してきそうという所で、陛下が割り込み3匹目と斬り合いになる。モモちゃんはまだ交戦地点までたどり着いていない。


 俺は陛下と斬りあっている3匹目に向けて矢を放つ。肩に当たったが、ひるんだ様子はない。エイプはなかなかタフな様だ。


 そのうちにユウが2匹目を倒し、俺の援護を受けた陛下も3匹目のエイプを切り倒した。

 モモちゃんはやっと交戦地点にたどり着く。


「あれ? もう終わりですか?」 呆然と立ち尽くすモモちゃん。


 魔物と距離をとって戦い始められると後衛は安全に戦えるが、相変わらずモモちゃんが戦力にならなくなってしまう。この問題はなかなか解決できていない。


 根本的な解決にはならないが、もう少し敵が強くなればユウが敵を倒すのに時間がかかって、モモちゃんの接敵も間に合うようになるかもしれない。今はユウが強すぎるのも原因なのだ――。


 まだ解体の仕方が解らない魔物は死体ごとマジックバッグに放り込む。ギルドでどう解体するかモモちゃんに学んでもらって、孤児院でも解体できるようにしていくのが良いだろう。

 俺がエイプをマジックバッグに放り込んでいると――。


「皆さん、凄いですね。私も教団のメンバーでパーティーを組んで、修行のためにダンジョンなどで魔物と戦ってましたが、私たちとは強さのレベルが段違いです。今の戦闘を見たら私なんかが皆さんに付いていけるのか、自信が無くなってきてしまいました」


「大丈夫。アナもすぐに追いつくよ」


 俺はあっという間に追い抜かれるのだろうなあ…………。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る