第169話 ダンジョン59階 3
ユウの成長について考えているとカレンがユウを連れて帰ってきた。
今夜の野営地である草原では森の中ほどは焚き木が拾えなかったようだ。だが、足りなければマジックバッグの中に薪や炭が入っているので、別に問題ない。
テントも張り終えたようだし、テーブルセッティングもOK、草原に真っ白なテーブルクロスが映える。森の中の食卓も良かったが、今日の草原もいい感じだ。さらに俺のカマドも完成した。
さて、今日の献立は…………。
まあ適当に肉を焼いておけばいいだろう。
新鮮な生野菜にスープとパンはマジックバッグに用意してある。ダンジョン内でも家と同じようなものが食べられると言うのが、贅沢という物だ。色々考えたが、あまり手の込んだ料理は現実問題として難しい。
本当はピザ窯を建てて、焼き立てアチアチとろーりチーズピザとかやりたいのだが、今日は疲れているし、そもそもダンジョン内でやることではない気がする。今度休みの日にでもやってみたいが――。
「マコト様。料理もされるのですか? そのような事は奴隷の仕事ですよ。私にお任せください」
お、ついに我がパーティーメンバーにも料理担当が現れたようだぞ。だが、アナは料理スキルを持っていなかったと思うのだが…………。任せて大丈夫なのだろうか?
「料理は俺の趣味でやっている所もあるからな。俺に任せておけばいいぞ。それにレシピを決めたら、あとはインプがやってくれるから大丈夫だ。座って待っててくれ」
「えーと、今夜は悪魔の作った料理を食べるのですか? それはまた退廃的な…………。なんだか怖い反面、楽しみな気もしてきました。マコト様の手によってバキバキと私の固定観念が破壊されていく感覚は癖になりそうです」
アナはニコリと微笑み、そそくさとテーブルに向かっていってしまった。やはり自分から私がやりますと言ったものの、それほど料理が得意という訳でもなさそうだ。
俺はインプに指示を出し、あとは任せてテーブルへと移動する。俺以外のメンバーはすでに着席ずみだ。
俺が食卓につくと陛下が追加でインプを召喚して、調理時間の短縮を図る。
「マコトよ。赤ワインを頼む」
陛下は今日も飲むようだ。食事を取らない陛下は他に楽しみがないからしょうがない。
「ダンジョン内でワインとは優雅ですね。マコト様、私の分もお願いします」
「ん? アナも飲むのか? シスターって酒飲んでいいのか?」
「もちろんです。パンは肉体を作り、ワインが血を作るのです。あ、子供は飲んじゃダメですよ」
「そうなのか。俺が知っているのとはちょっと違うけど、まあいいか。ここはダンジョンだからな。飲みすぎるなよ」
俺はマジックバッグからワインボトルとグラスを2つテーブルに置く。
「そうでした。ここはダンジョンでしたね。しかしこの草原の中がダンジョンとは思えません。夜空を見上げれば星まで見えますよ。あ、小悪魔達が料理を運んできました。ここはステキなレストランですね」
なぜかアナのテンションが高い。モモちゃんとユウ、カレンは肉に集中しているらしく獲物を狙うハンターの様に静かだ。
「ん、この赤ワインは濃厚で美味しいです――。あ、小悪魔さん、ありがとうございます。料理もどれも美味しそうです。まずは冷めないうちにステーキから頂きますね。んん? これは何のお肉ですか? とてもジューシーで柔らかい――。ええ? グレーターバイソン? これが噂の最高級肉ですか…………。なんでも簡単には手に入らないとか聞きましたよ。私は初めて食べました。とっても美味しいです」
他が静かに食べている分、アナの声が良く響く。
というか一人で喋ってるな…………。
「はぁ、教会で薄いスープに乾いたパンを浸して食べていたのが、遠い昔の様に感じます。たまに支給される水で割ったような薄いワインだけが楽しみでした。いくら金貨を集めても本部に送ってしまうので我々シスターは質素に暮らしていて、それでもそれが当たり前だと思っていました。でも、こうやって贅沢を味わってしまうとあのあまりにも清貧すぎる生活は異常だったように思います。我々は健康の為に、もう少しまともな食事を取るべきでした」
「教団はずいぶん稼いでいる様だけどね。シスターには回って来ないんだ?」
「教会の司祭が集めた金貨を全て教団本部に送ってしまいますからね。ただ、司祭が自分で使う分は取ってあります。その証拠も私は握っているのです。これはいずれ糾弾しなければなりません。それでも、まずは司祭以下の立場の弱いものの生活を向上させる所から始めるべきでしょう。もう少し栄養価の高いものを配給して、力をつけて団結して教団を改革していくのです」
アナの話は結局、最後は改革の話になってしまうな…………。
さて、そろそろ食事も終わり、カレンが眠そうだ。
今回の探索はパーティーメンバーを変えたので、男女比が変わってしまった。しかしテントは2張りしかない。女性メンバー4人で一つのテントでは狭すぎるだろう。
「あっちに張ったテントが女性用だけど、モモちゃんは今日はこっちの男性用テントで寝てくれ」
「解ったぜ」
眠そうなカレンがユウの手を引いて女性用テントの方へと歩いて行く。
「了解です」
モモちゃんは男性用のテントへ潜り込んだ。
「マコト様。私はどちらテントに行けば良いのですか?」
「え? アナはあっちの女性用テントだろ」
「今日ではないという事ですね。解りました」
スッと立ち上がり、さっさと歩き出した。
ん?
あーー!
今のやりとりで、今日はモモちゃんを夜伽に選んだ的なことになってしまったのか?
誤解だ! 全然違うんだけど、なんて説明したら…………。
あぁ、考えてる間にアナも行ってしまった。
「ふむ、マコトも大変であるな。余も複数の妻を持って苦労したものだ。もめないコツは全員を公平に扱う事だぞ。第8夫人の話が来たときはさすがに断ったわ。1週間は7日間しかないからな! ワッハッハハッハ」
さすが陛下。さすがです――――。
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