第160話 ダンジョン57階 3

 インプに死ぬほど肉を焼かせて、たっぷりと食べた女子たち3人組はすでに眠そうだ。


「ご主人様。明日にそなえてもう寝ましょう…………」


「あぁ、おやすみ。君たちのテントはあっちだよ」


「ご主人様も早く来てくださいね」


 何か勘違いしているモモちゃんはフラフラとテントに潜り込んでいった。続いてユウとカレンも吸い込まれていく――。


 しばらくすると健やかな寝息が聞こえはじめた。


 肉を焼き終えたインプが後片付けをはじめる。陛下は皿を下げろとも何も言っていないのに、勝手に片付けだした。とてもよく調教されている。

 このまま皿洗いも任せていいだろう。


 残った男子たち3人はこの後について話し合っておこう。


「夜の警備は余に任せておくがよい。ここでは人の目を気にする必要もないからな。召喚した悪魔たち全員でしっかりと警護できるぞ」


「ワシもアイアンゴーレムを作っておくから使ってくれ。ストーンウォールが使えれば囲いを作って守りやすいんじゃが、やっぱりダンジョン内では使えないようじゃ」


「まあ魔物が出たら皆で戦えば良いよ。なにかあったら起こしてほしい」


 陛下にインプ2体とレッサーデーモン、アイアンゴーレムで警戒していれば奇襲をうけるという事はないだろう。不意さえ突かれなければ怖くない。この辺の敵はみんなで戦えば問題なく倒せるはずだ。


「うむ、あとは余に任せてお主たちは安心して眠るが良い。明日寝不足だと困るからな」


 それではお言葉に甘えて寝かせて貰う事にする。スケルトンになって眠る事ができなくなってしまった陛下に睡眠不足などありえないので、夜の見張りは任せてしまっていいだろう。


 もちろん男性用テントにガレフと2人で潜り込む。少々地面が硬いが、寝袋の感触は悪くない。

 良く眠れそうだ。おやすみなさい――。


 次の日、目が覚めるとすでに辺りは明るいようだった。

 テントから這い出した俺は昨日と同じ場所に座っている陛下を見つける。

 ずっとあそこに座っていたのだろうか?


「おはようマコトよ。良く眠れたか?」


「おかげさまで良く眠れました。夜の間は何もなかったですか?」


「うむ、ヘビが2匹ほど迷い込んできたが倒しておいたぞ。あとで回収しておいてくれ」


「魔物が出たんですね。起こしてくれても良かったのですが」


「2匹くらいでは余と悪魔たちの相手にはならんぞ。アイアンゴーレムも加勢してくれたしな」


 夜のうちに魔物が出たが、あっさりと撃退してくれたらしい。おかげで良く眠れた。他の皆も起きたようでテントから眠そうに這い出して来る。


 それでは朝食にしよう。

 ベーコンと卵を焼いてパンと昨日のスープでいいだろう。

 インプちゃんよろしく!


 インプは便利だ。

 マジックバッグから材料をだして、陛下に指示をだして貰えば、あとは座っているだけで料理が運ばれてくる。


 そういえば最近の孤児院での夕飯もこんな感じであった。ロレッタが調理したものを運んでいるだけだと思っていたが、この様子では料理も全部インプがしているのかもしれないぞ――。


 俺の予想よりもダンジョン内での野営は快適であり、楽しかった。これはダンジョンキャンプといっても過言ではないだろう。


 ダンジョンキャンパーとしては、これからも腕を磨いてさらに快適に過ごせるようになっていきたい。今後ダンジョン内がさらに広く巨大になっていく可能性があるのだ。

 2泊、3泊と問題なく泊まれるように準備しておかなくてはならないだろう。


 さいわい今回は58階への階段が昼過ぎに現れた。この探索は1泊ですんだので一度、孤児院に帰ってさらなる長期キャンプの準備をしたいと思う。


 今回のキャンプに何か改善点はあっただろうか? 快適に過ごせたので特に不都合はなかったと思うが、探索が長期化するなら食事のレパートリーを増やす必要はありそうだ。


 モモちゃん達は肉さえ焼いていれば文句は言わなそうだが、俺は色々食べたい。様々な食材をマジックバッグに用意しておく必要がありそうだ。大きな鍋を用意して鍋物なんかは大量に作れていいだろう。揚げ物も外でやれば部屋が汚れなくていい。


 それと何日も続けてダンジョンに潜るとなるなら風呂もなんとかしたいが、さすがにこれは贅沢か…………。

 お湯で濡らした布で体を拭う程度で我慢しておこう。


 こちらの世界に来たばかりの時のサバイバル生活と比べると格段に楽になったと思う。

 やっている事は同じ野営だと思うのだが、仲間も増えてマジックバッグを筆頭に便利な道具も揃ってきたので、生死を掛けたサバイバルがキャンプと呼べるくらいのレジャーにまで難易度が下がっている。


 もちろんダンジョン内なので死の危険はあるのだが、初期に比べれば死の可能性はあきらかに低いだろう。何か想定外のトラブルが起きない限り大丈夫なはずだ――。


 次の探索ではダンジョン内を2泊して59階にたどり着く事ができた。やはり徐々にダンジョンは広くなっている。しかし広くはなっていたが、特に問題は起きなかった。


 あまりに順調に探索が進んでいるので、そろそろ何か起きるのでは?

 と思って用心していたが杞憂だったらしい。


 59階ゲートから帰宅する――。


 さすがに2泊すると疲れた。はやく地下の温泉に入りたい。

 そう考えながら孤児院の門を開いて庭に入ると、孤児院の建物からアナスタシアさんが走り出てきた。


 髪を振り乱し、シスターの帽子を後ろにふっ飛ばして、こちらに向かって駆けてくる。

 トラブルの予感…………。


 これは絶対に面倒な事が起きたに違いない。俺は風呂に入りたいのだが――。


「マコトさまーー!」


 近づいてきたアナスタシアさんが大きな声で俺を呼ぶと頭から宙へと身を投げ出した!

 空中で身を縮めて顔から着地する。


 *ズサーッ*


 ???

 これはジャンピング土下座?

 生まれて初めて見たのだが、いったい何がおきているんだ?


 アナスタシアさんの金髪が地面に広がりキラキラと輝いている――。

 これは何か宗教的な儀式なのだろうか?


 一拍間をおいて、顔を上げたアナスタシアさんのオデコが赤い。


「マコト様、私を奴隷にしてください! お願いします!」


 は?

 どういうこと――――?


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