第159話 ダンジョン57階 2
*パチッ*
湿った焚き木でも混ざっていたのか、BBQ用のカマドから勢いよく煙があがった。
ダンジョン内で火を起こしたら魔物が集まって来るのでは? と少し心配だったが今の所は大丈夫なようだ。
陛下の召喚したインプが上空を旋回しながら警戒してくれている。あの様子なら魔物が近寄ってきたり、何か異変があればすぐに教えてくれるだろう。
「飲みすぎないでくださいね」
俺はマジックバッグからワインボトルを取り出して陛下のグラスにワインを注ぐ。
「うむうむ、大丈夫だ。余が飲み潰れるなどと言う事はありえない」
そうなのだろうか? スケルトンは毒無効だったとか? 確かに毒物など効きそうにないボディをしているが…………。
まあ大丈夫だろう。俺はワインボトルごと陛下に渡してカマドに戻る。これから肉を焼かなくてはならない。
俺のマジックバッグには色々な肉が入っている。今日は何の肉を焼くか?
やはりここはグレーターバイソンだろう。さんざん狩って食べたので、部位による味の違いまで解ってきた。今日は炭火で焼くので脂の乗ったサーロインが良いと思う。網で焼くので余分な脂が落ちて旨いはずだ。
「あ、ご主人様。お肉を焼くのですね。さきほど倒したヘビも焼きましょう!」
モモちゃんが巨大なヘビを食べたいというが、絶対グレーターバイソンの方が美味しい。そもそも、あのヘビは食べられるのかすら怪しい所だ。
「ヘビはまだ解体していないから今日はグレーターバイソンにしよう。ドンドン焼くからたくさん食べてね」
「やったー!」
モモちゃんはテーブルに移動して待ちの構えをとり出した。いつ肉が焼きあがってもいい様に両手にナイフとフォークを構えて、こちらを静かに見つめている。
どうやら一枚目はモモちゃんにあげた方が良さそうだ。
俺が肉を焼き始めるとちょうどスープが温まったようでカレンがパンとスープを皆に配ってくれた。
なんて気が利く子だろう。他のメンバーはもう自分が食べる事にしか興味がなさそうなのだが――。
炭で焼かれた分厚いサーロインステーキの表面が色づき、脂が滴りはじめた。
*ジュッ*
脂が炭に落ちて芳ばしい香りが辺りに漂う。同時に煙も上がるが、ここは屋外なので問題ないのだ。この煙の量を考えると孤児院内で焼きたくない。
いい感じに焼けている、非常に美味しそうだ。いつまでも眺めていたい光景。
しかし、あまりゆっくりともしていられないモモちゃんからの視線が痛い。
裏表と表面は焼けたのでモモちゃんに持っていく。モモちゃんはレアでいいだろう。
いつのまにかユウもモモちゃんの隣で両手にナイフとフォークを構えて同じ姿勢で待機していた。いつもの冷めた目で俺を見つめている。
これは肉を焼くペースを上げねばならないようだぞ。良く考えたら今日は俺一人で6人分の肉を焼かなければいけないのか? 陛下は食べないから5人分か、それでも多い。
いつもロレッタにお願いしているので考えてなかったが、これは結構大変そうだ。 もっと大きい網にすれば良かった。
とても丁寧に一枚ずつなどとはやってられない。網に乗せられるだけ肉を乗せてまとめて肉を焼いていく。炭も足して火力も上げていこう――。
網に4枚の肉を乗せる事ができたので、ちょうど人数分焼き上げる事ができた。
表面だけ焦げて中が生焼けではせっかくの良い肉がもったいないが、急いだ割には上手く焼けていると思う。
美味そうだ。これで俺も肉にありつけるぞ。
しかし、皆に肉を配っていくと1枚足りないようだ…………。
うっすら予想していたことだが、1枚目を食べ終えたモモちゃんから2枚目を要求されてしまった。モモちゃんに満面の笑みでオカワリと言われたら断る事はできなかった。
もっと焼くペースをあげないと俺の分まで回ってこないらしい。
しかし次のターンでは俺も食べられるはずだ――。
次の4枚は俺、ガレフ、ユウ、モモちゃんに配った。カレンはまだ1枚目を食べ終わっていない。カレンはまだ9歳だから、食べるのには時間がかかる。それでもカレンはもう1枚くらいは食べそうな勢いだ。もちろん他のメンバーもまだ食べるだろう。
次の肉を焼いておかなくてはならないな。
あれ? 俺はいつ食べれるのだろう? テーブルに俺の肉は用意はしたが、まだ椅子に座る事ができないらしいぞ。
仕方がない。もう少し皆の腹が落ち着くまでは焼き続けるか…………。
「なんだ? マコトが食べる暇がないではないか。『サモンインプ』 インプよ。マコトの代わりに肉を焼いてやれ」
陛下に召喚されたインプが俺に代わって肉を焼き始めた。
そうか、陛下のインプはロレッタによって調教済みだ。家事全般はマスターしているという事らしい。
しばらく眺めているとなかなか手際も良い。だいぶロレッタにこき使われている様だ。しかし、これで俺も肉にありつける――。
「いただきます」 当然のように美味い!
「陛下、ありがとうございます」
「うむ、しかしマコトも皆の世話を焼きすぎだぞ。リーダーらしくドンと構える事も時には重要だ。まあその優しさがマコトの良い所なのかもしれんがな」
陛下はユウに見つからないように兜の下の方からワインを器用に飲みながら助言してくれた。
そしていつの間にかレッサーデーモンがワインボトルを持って陛下の後ろに立っている。テーブルに置かれたワイングラスに静かにワインを注いだ――。
ソムリエ? 陛下が仕込んだのだろうか? たしかに陛下に手酌は似合わないが、俺はなんだか落ち着かないぞ。まあ俺は今日飲まないから関係ないか。
しかし陛下もだんだん王の威厳を取り戻してきている様に感じる。今、俺の目に映っているのは魔界の王の晩餐といった光景だ。陛下にとってはこれが当たり前なのかもしれない。
あとは陛下の指摘通り、確かにリーダーらしく指示をだせれば良かったのかもしれないな。ただ、ここのパーティーメンバーに料理の適性があるのが俺しかいないというのが問題なのだ。
まあこれからはインプちゃんがいるから大丈夫だろう。もっと多くのインプをこちらに召喚する事もできるので、洗い物でもして貰うか?
しかし、5匹ともこちらに召喚してしまってはロレッタが困るかもしれないな。
とりあえず2匹で我慢しておこう――――。
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