第158話 ダンジョン57階 1

 マナポ問題はなんだかんだ言って、うまく落ち着いてくれたのではないだろうか? 


 どうも俺がムダに右往左往していたような気もするが、結果的に俺が何もしなくても孤児院に勝手にお金が入ってくると言う素晴らしいシステムが出来上がったのだから、これ以上の良い結果はないはずだ。


 しかも、領主とは割と親密な関係を結べたような気がする。陛下のおかげでもあるが、領主自体が信用できそうな感じの良い人で助かった。


 ただ、この状態をいつまで維持できるかは解らない。油断していると教会に全てを持っていかれるといった事もありえそうである。

 アナスタシアさんも領主の話によれば、そんなに悪い人ではないという事だが、信用できるかと言えば、それは別問題だろう。


 教会側とはなるべく早めに離れた方がいいとは思うのだが、だからといって露骨に手を切れば問題がおきる。せっかく素晴らしいシステムができあがったのだから、しばらく様子を見た方が良いだろう。


 これで新たな問題がおきるまではダンジョン探索に専念できそうだ。実はダンジョン探索の方でも新たな懸念材料が生まれている。


 今はダンジョン57階のゲートまでたどりついているのだが、56階から57階のゲートまでの距離がだいぶ離れていた。どうやら階層を下に進めるごとにフィールドが広くなっていると感じる。


 道に迷って次のゲートへの到着に時間が掛かっている可能性はあるが、ナビを任せているカレンから迷ったそぶりはみられない。実際、俺からみても一直線に次のゲートまでたどり着いている様に見える。カレンも道など知らないはずだが、彼女がこっちだと思えばそっちが正解なのだろう。


 何が問題なのかと言うと、51階からは草原や森がある屋外に露出している様なダンジョンが続いているのだが、時間的に夜なるとちゃんと暗くなってしまうのだ。

 そのせいで夜になったら帰らなくてはならないという時間制限が生まれてしまったようなのだ。


 今まではガレフのマナ切れに合わせて近場のゲートから帰っていたので、夜になる前に帰る事ができていたが前回の探索で57階のゲートにたどり着いたときには、すでに暗くなっていた。


 エナジー茸のおかげで探索時間が伸びたが、今度は夜のせいで探索時間が制限されてしまう。しかも夜になる前に帰れれば良いのだが、次のゲートにたどり着く前に夜になってしまうと帰る事もできずに真っ暗な森の中で一夜を過ごすはめになってしまうのだ。


 という訳で、ダンジョン内での野営の準備が必要だと考えられる。


 孤児院に住み着くまではさんざん野営をしてきたが、今はパーティーメンバーも増えているので以前の野営装備では色々足りない。


 しかも、今の俺には金もマジックバッグもある!


 慌ててダンジョン探索などするべきではない。入念な準備の元に探索は行われねばならないのだ――。


 翌日、57階ゲートから出発した我々は魔物を狩りながら58階ゲートを目指して森の中を進む。魔物はでっかい鳥やら蛇やら猿などが出てきたが、今の我々の敵ではない。


 サクサクと倒して先に進むが予想通り、なかなか次の58階へと繋がる階段は現れない。


「院長、暗くなってきたぜ。このままだとまずいんじゃないか?」


「大丈夫だカレン。夜までに次のゲートにたどり着かなくても野営の準備をしておいたからな。ロレッタからも外泊許可はとってあるぞ」


「マジかよ!? やったぜ! モモちゃんから聞いて俺もキャンプしてみたかったんだよな」


 キャンプではないのだが…………まあいい。カレンには存分に楽しんでもらおう。


「久しぶりにご主人様の焼いたお肉が食べられるの楽しみです」


 モモちゃんもすっかりその気になってしまったようだ。野営するのが決定なら日が完全に落ちてしまう前に準備をした方が良さそうだな。


「よし、明るいうちに次のゲートにたどり着くのは難しそうなので、今日はここで野営する。カレンはユウを連れて焚き木を拾ってきてくれ。残りはテントを建てるぞ」


 昨日雑貨屋で購入したテントを森の中の少しひらけた場所にひろげる。


 女性用と男性用とで2張りを新たに購入して、寝袋も奮発して上等な物を人数分買ってしまった。本当はベッドごと持って来たかったのだが、大事な布団を汚したくないのでさすがにそれは止めておいた。


 俺とモモちゃんはテントの設営など慣れたものだ。陛下とガレフにも手伝って貰って手早く2張り設置する。次は食事の準備。


 昨日、一晩泊まるなら食事にもこだわりたいと思って色々考えたが、ここはやはり久しぶりにBBQがいいだろうと思った。モモちゃんと2人旅の時は毎日BBQで飽きてきたが、最近は食べていなかったので、また食べたくなってきたのだ。やはり屋外で焼いた肉は格別だろう。


 今回は鉄の網や炭も用意してある。これだけで調理が楽になるはずだ。


 石を組んで簡易なカマドを作り網を乗せる。戻ってきたカレンから焚き木を受け取り、火打石で火をおこして炭にも火をうつしておく。


 さらに昨日のうちに鍋にスープを仕込んでマジックバッグに放り込んであるので、スープ鍋用のカマドも用意する。こちらは温めるだけで食べる事ができるだろう。


 次に食卓用の椅子やテーブルを用意する。

 買うときに折りたたみできる物がないか聞いてみたが、そういったものはないそうだ。折りたたみ椅子くらいあってもいいと思ったがこの世界にはないらしい、需要がないのだろうか?


 まあ、マジックバッグがあれば脚を折りたためなくても問題ない。買った店でそのまま収納した椅子とテーブルをここで出して並べるだけだ。


 さらにランタンや食器をテーブルの上に並べると、森の中に食卓が完成した。


 なかなかいい雰囲気なのではないだろうか?

 地べたで焚き火を囲んで食事するのも悪くないが、ちゃんと椅子に座った方がお尻が痛くならない。ゆっくりと食事ができるだろう。


 すでに陛下、ガレフ、ユウは椅子に座ってくつろいでいる。

 陛下は手持ち無沙汰で落ち着かない様子だ。あれは早く酒が出てこないかなと思っているのだろう。


「陛下、今日はお酒なしですよ」


「なに? そんな事があるのか? ここはなかなか良い所ではないか、この森の香りを感じながら飲む赤ワインは美味いと思うぞ」


「今は静かな森ですが、ここは一応ダンジョンの中ですからね。警戒しておかないと危ないですよ」


「ふむ、警戒してればいいのだな? ほれ、『サモンインプ』『サモンレッサーデーモン』 よし、お前ら辺りを警戒しておけ――。さあ、これでいいだろう。マコトよ。赤ワインを頼む」


 陛下の召喚した悪魔たちが俺たちを警備するために辺りに散っていく。


 これで安心して食事ができる――――のか?



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