第157話 謁見 3

「我々も教会には困っていまして――――」


 アナスタシアさんにはキノコの値段をたっぷりとつり上げて貰いたいが、俺たちが教会の仲間だと思われても困る。俺は孤児院を追い出されそうになった経緯も含めて、リシュリュー卿にすべて話す事にした。


「なるほど、そういう事だったのですね。実は最近ルミエル教団は国内で力を持ちすぎていて警戒対象なのです。今この国は法が絶対の法治国家へと移行している最中なのですが、その弊害で王に権力がなくなってきた分、ルミエル教団の影響力が増しているのです。王の影響力を減らしているのは狙い通りなのですが、王の代わりに教皇がこの国を支配するようになったら意味がありません。今はまだ政治に口を出すようなことはありませんが、教皇を中心に教団がひとつにまとまるような事があれば政治にも口を出してくるでしょう」


「というと、今ルミエル教団はまとまってないと言う事ですか?」


「ええ、教団内の腐敗が尋常じゃない有様でして、その分教団内部では熾烈な利権の奪い合いが起きています。彼らは教団内での権力争いに夢中で、今は外に目を向ける余裕はなさそうですね」


「薄々感じていましたが腐敗した教団だったのですね。我々も本当はルミエル教団とは距離をとりたいと思っていたのです。ひとつ相談ですが、今回のエナジー茸について教団ぬきでの直接取引も可能でしょうか?」


「可能ではありますが、おすすめしませんね。腐敗していると言っても教団の力は侮れません。もちろん我々がマコト殿をお守りしたいとは思いますが、どこから魔の手が伸びて来るか解りませんし、直接は何もなくても様々な嫌がらせはあるでしょう。敵に回すと厄介な相手です。ただし、お金さえ払っていれば問題ないですよ。むしろ非常に便利な味方になってくれます」


「今は販売手数料として売り値の12%を支払うことになってますが、そのまま支払っていた方が良さそうですか?」


「12%は良い値ですね。それくらいなら払っていた方がお得ですよ。それにあのシスターは教団内ではまともな方です。あのアナスタシアというシスターは改革派ですからね。教団内の腐敗を正そうと活動しているはずです。彼女が必死に集めている金も改革派の司教に送られて教皇選挙などに使われるのでしょう」


「腐敗を正す為にお金を集めているとは、なんだか変な話ですね」


「ふはは、おっしゃる通りです。まったくおかしな話ですね。ですが、世の中はそんなものですよ。シスターアナスタシアも本来ならこの町の司祭を糾弾したいはずです。この町の司祭の不正は目に余りますからね。彼女は不正の証拠も集めているでしょう。しかしそれを教団本部に直訴したところで、今の教団の状況では簡単にもみ消されてしまいます。改革派が力をつけて教団本部内で影響力を持てれば、やっとシスターの集めた証拠も日の目を見る事が出来るという事です」


「この町の司祭の不正とやらは法に基づいて、領主であるお主が処分してやれば良いではないか」


 陛下が正論をぶちかました! 俺も同じ事を思ったけど、そんなこと領主に直接言えないよ…………。


「これは耳が痛いですね。我々もそうしたいのはやまやまですが、彼らも表立って法に触れるような事はしないのです。あくまでも教団内での不正行為であるので、我々が介入する事は難しい…………。ですからシスターアナスタシアには少し期待しているのですよ。領主である私が改革派に表立っては協力できませんが、少しでも教団内がまともになれば国家に対する危険度も減りますからね。彼女ひとりの力でどうにかなるものではないですが、頑張っていただきたいです」


 アナスタシアさんが金集めに必死なのにはちゃんと理由があったようだ。だからといって金で解決しようというのは、どうかと思う。他に方法はないのだろうか?

 簡単な問題ではないので、難しいとは思うが…………。


 まあ俺には関係ない。宗教組織内の権力闘争などという面倒な事には絶対に関わってはいけない。巻き込まれない様に細心の注意が必要だろう。


「それでは取引に関しては、教会を介してやり取りするという事で最初の取り決め通りで良さそうですね。ちなみにマナポーションにはどこで加工するのですか? 私も探索者なので可能ならマナポーションを手に入れたいと思っているのですが」


「城の錬金術師がマナポーションを作成して軍に運ばれる事になるでしょう。一般に流通することはないと思います。軍はマナポーションを他に渡すのを嫌がるでしょうから、完成したマナポーションがこちらに戻ってくることはなさそうですね。しかし、この町の錬金術師でもエナジー茸があればマナポーションは作れると思いますよ」


「最初にこの町の錬金術師にエナジー茸を持っていったら断られてしまって…………」


「あー、そういうことなら私の方から一言いっておきますよ。マコト殿のマナポーション作成依頼は受けても良いと伝えておきます。我が町の錬金術師はそんな事はしないと思いますが、一般販売も一応禁止しておかなければなりません」


「ありがとうございます。助かります」


 苦労したがこれでマナポーションを手に入れる事ができそうだ。

 あの不味そうなキノコをガレフは旨いといって食べていたが、可愛い娘の作ったキノコだからと無理して食べていたのかもしれない。


 ポーションの方が味も効用も上だろうから、今後は干しキノコの出番はなくなりそうだ――――。



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