第156話 謁見 2
「ところで、リシュリュー卿は私の奴隷を陛下と呼んでますが、私と同じく彼を本物の王だと信じているのですか?」
まずはこれが一番の疑問だ。なぜこんなに陛下はリシュリュー卿から信頼されているのだろうか?
「もちろんです。話せば解りますよ。陛下の知識や見識は一般人では到底持つことができないものです」
「しかし、陛下は見ての通りスケルトンですよ。普通は簡単に信用できるとは思えないのですが?」
「通常スケルトンは魔物であるという認識でいいと思うのですが、城勤めしているとその認識は変わるのです。我が国の宮廷魔術師は永遠に魔術を研究して魔術の深淵を極めたいという思いから、不死者であるリッチへと転生する事に成功しています。彼も見た目は陛下と同じスケルトンですから、陛下の姿を見ても我々は何も不思議に思う事はないのです。むしろ畏敬の念を持ってしまいます」
「ほう、そのようなものが居るのか一度会ってみたいな」
「陛下であればいつでも城にご招待しますよ」
「それはモナネ王国の国王として招待するという話だろう。余はもう王は辞めたのだ」
「残念です。ヴィルヘルム陛下を城に招待できたとあれば、さらに私の株も上がるのですが……」
だんだんと理解できてきた気がする。
陛下のワインバー通いがこの町に住む領主とのコネにまで繋がっていたらしい…………。恐るべき飲みにケーション。
ただ、この事実さえ事前に知っていればこの何日間かの俺の苦労は必要無かったのではないだろうか…………。
「しかし、マコト殿のおかげで私の城内での株は今うなぎ上りです。まさかマナポーションを国内でまた製造できるようになるとは思いませんでした。我が国でエナジー茸の栽培に成功するとは誰も思っていなかったのです。これで獣人の攻勢も収まるかもしれません」
「そんなにマナポーションは戦争に影響するのですか? 実はエナジー茸の栽培に成功したのは獣人であるモグラ族なのです。彼らが自分の祖国を危険にさらす様なことをするとも思えないのですが」
「マナポーションはこの戦争に大きな影響を与えます。それは間違いないです。ただそれが獣人の国の危機につながるかと言えば、そうとは限らないのです」
「そんな事ありますか? マナポーションのせいで獣人の国が戦争に負けたら、祖国の危機だと思いますけど」
「これには幾つか理由があるのですが、まずこの戦争で獣人の国が負けるというのは、彼らが我が国を攻めるのを諦めて自分たちの国に帰るという状況になる事です。ですから負けたと言っても獣人の国に危険が及ぶことはありません。我が国からは獣人の国を攻めたりしないのです」
「それは立派な事の様ですけど、なぜこちらからは攻めないのですか? こんな事を言うと冷酷なようですが、弱っているうちに攻め込んで占拠しておいた方が有利な気がしますけど」
「おっしゃる通りですが、なぜ攻めないかと言えば我々は獣人の国の領土など欲しくないのです。彼らの領土は魔物がひしめく辺境の魔の森です。とても人間が住みたいと思うような所ではありません。むしろ獣人に住んで貰って魔物を間引いて貰わないと周辺まで危険地帯になってしまいます」
「そうすると人間側は自分たちの領土を守る為に獣人を辺境に追いやっていて、獣人は安全な領土を求めて攻めてくるのですか?」
「それだったらまだ良いのですが、獣人は別に我が国に住みたいと思っているわけではないのです。現に戦争が始まる前はお互いの国で交流や貿易がありましたが、こちらの国に移住していた獣人はごく一部です。彼らのほとんどは魔の森での狩猟生活を望んでいるのです」
「それならどういう理由で獣人は攻めてくるのでしょう?」
「彼らが攻めてくるのは戦うのが好きだからです。もちろん全ての獣人が戦争大好きな訳ではありません。むしろ負けて戦争なんて早く終われと思っている獣人もいます。きっとモグラ族はそちら側なのでしょう」
「それでは一部の戦闘狂が戦争を起こしているという事ですか? 迷惑な話ですね」
「そうなのです。しかもその一番の戦闘狂が獣人の王なのですから質が悪いのです。今回の戦争は我が国でエナジー茸を入手することができないのでは? と獣人の王が気づいて仕掛けてきたのかもしれません。我が国は人口と魔法の力では獣人の国に負けていませんから、その我々の強みである魔法の力をマナポーションの供給を断つことで抑えられるとふんで仕掛けてきたのではないか? というレポートが分析官から上がってきているのです」
「その分析が正しければマナポーションの復活で戦争を終わらせる事ができるかもしれませんね」
「その可能性は大いにあるのです。もしかしたらマコト殿のモグラ族はすべて解っている上で、こちらの国にやって来たのではないですか? 調査で我が町の奴隷商からも聞きましたが、この時期に我が国に獣人が潜入してくるなどおかしいです。最初から彼らは戦争を終わらせるつもりでやってきたのかもしれません。もしそうなら本物の英雄だと思いますよ。もちろん獣人の王とその部下以外にとっての英雄ですけど」
「さすがにそこまで考えていないと思いますよ」
ガレフはわざわざ娘を危険な目に会わせようとは思わないだろう。リーナは何考えているか解らない所もあるが、キノコ第一主義なのは間違いない。戦争の終結などには興味がなさそうだ。
「と言う訳でマコト殿に我々はとても感謝しているのですが、実はひとつ気がかりな事がありまして――、マコト殿と教会はどういった関係なのでしょうか? あのシスターはこちらの足元をみて、とんでもない値段を吹っ掛けてくるのですが…………」
あー、アナスタシアさんはここでも大暴れしているのか――――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます