第153話 視察 4

「では、こういうのはどうでしょうか? ここで育てたキノコを教会が各所におろし売りしてきてください。その売り上げの5%を販売手数料として払いましょう。価格交渉などはお任せしますので高く売れば売るほど手数料も増えますよ」


そういえば取引が得意な奴隷が欲しかったのだと思い出した。そんな奴いないだろうと諦めていたが、こんな所にいた!

もちろんアナスタシアさんは奴隷ではないが、俺が金を払ってアナスタシアさんにこの仕事をして貰えるなら結果的に同じことだ。ロレッタの仕事量も減るし、俺もダンジョン探索に専念できる。


「それは悪くない考えですが――、教会で全てのキノコを買い取ってもいいですよ? その方がお互い手間が省けませんか?」


「教会で買い取って貰うと、その後にいくらで転売されるか把握できないのでダメです」


「それなら5%では少なすぎますね。20%頂きましょう」


「運ぶだけで20%は高すぎます。8%!」


「マコトさんの魂胆は解ってますよ。孤児院が儲けていると目立ちたくないのでしょう。教会を隠れみのにするつもりですね。15%!」


「それでも15%は高すぎます。10%!」


「エナジー茸の出所も隠すことが出来るのですよ。12%!」


 エナジー茸の単価がいくらになるか解らないが、きっと良い値が付くのだろう。そうするとこの手数料が1%違うだけで大きな金が動くことになる。

 アナスタシアさんもサラサラと光り輝く金髪を振り乱して必死の様子だ。


「解りました。12%にしましょう」


 この辺にしておこう、あんまり考えてなかったがアナスタシアさんの言う通り教会を通して売るメリットは大きそうだ。


「マコトさん、ありがとうございます。おろし先の選定と値段交渉については私に任せてください。必ず満足のいく結果をお届けします」


「それは頼もしい。でも食用キノコの値段は変えないでください。高値になってしまうと我々が気軽に食べられなくなってしまいます」


「うふふ、マコトさんはお優しいですね。庶民の口にも入るようにという事ですね。解りました。そのように致します」


 庶民の事までは考えていなかったが結果的にはそういう事になるのか。しかし、ずいぶん簡単に食用キノコの値段について了承した所をみると、アナスタシアさんはエナジー茸にしか興味がないようだ。


 よっぽどエナジー茸が儲かるという事なのだろう。扱いに困っていた俺としては教会が引き取り先を探して、さらに売りさばいてくれるというのは悪くない話だ。


 ただ、問題はアナスタシアさんが信用できないという事だろう。

 何かもっと有益な事があれば俺の事など簡単に切り捨てるはずだ。まあ、お互いに利用しあえばそれでいいと考えるしかなさそうではある。


「リーナ。聞いていたな? そう言う事になったから、今までロレッタが市場に売りに行っていたキノコも含めて、今後は教会の人間に収穫したキノコは全て渡してくれ。それと今まで以上に帳簿はしっかり付けてくれよ」


「うんうん、だいたい状況は解ったよ。ちなみに私のキノコは最高グレード品だからね。強気に交渉していいと思うよ。それと、おろし値が決まったらちゃんと契約書を持ってきて私に見せてね」


「もちろんです。値段交渉はお任せください。いちシスターの私ですが、こう見えて交渉事は得意なんですよ。それに当たり前の事ですが、契約書もマコトさんとリーナさんにきちんとお見せしますね。聖職者である私が値段をごまかすなどの不正を働くはずはありませんが、お金の事はしっかりしておかなくてはいけません」


「当然だね。あと売り上げは全てこちらに一度収めてね。そこから手数料の12%を支払うようにするから。それとこっちの国では税率はどうなってるのかな? 累進? 一律? 経費の計算もしておかなきゃ。ロレッタも忙しくなりそうだね」


「税に関しても交渉してみます。うまくいけば払わないでも済むでしょう。教会から税が取れると思われても困りますからね」


 たしかに荒稼ぎすると国から目を付けられそうだな。税金もたっぷりとられそうだが、この国も宗教法人は税金優遇されているのだろうか? 


 まあ細かいことは2人に任せておこう。俺は帳簿などつけた事がないので解らん。大学で簿記検定でも受けとけば良かったか? そうすれば知識無双できたかもしれないな…………。


「それではマコトさん。私はさっそくエナジー茸の営業に行ってこようと思います。ただ必ず売れるので実際にやる事は値段交渉という事になりますね。朗報をお持ちしますから、楽しみに待っていてください!」


 アナスタシアさんはご機嫌で帰っていったが、これで良かったのだろうか? 

 なんだか大きな事になってしまった気がする。だが、今後はもっと金が必要になってきそうなのでしょうがないか、地道に稼いでいこう。


「リーナ。エナジー茸も販売する事になったが、量産できそうか?」


「もう少し時間を貰えれば、だんだん増えていくよ。でもあんまり作りすぎない方がいいかもね。生産量が増えるとさらに大きなお金が動くから、さっきの女が欲に目がくらんで何するか解らないよ」


「そうだな。値段をみながら生産量はうまく調整してくれ」 


 リーナもアナスタシアさんを警戒しているようだ。

 しかし、この孤児院が莫大な利益を生むようになったら何とか全てを手に入れようとアナスタシアさんだけではなく、様々な欲の皮が張った相手が現れるかもしれない。


 うまくアナスタシアさんを使って教会を盾にする必要がありそうだぞ――――。



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