第152話 視察 3
今のこの状況はダンジョン50階で俺のつよつよ弓を没収された時に似ている気がする。
しかも、今回はコツコツと育ててきた俺の大事な寝床が没収されようとしているのだが、不思議とあの時の様な怒りは湧いてこない。
なぜだろうか?
そういえばつよつよ弓の事も今は諦められた――。
そうだ。
何だかんだ言っても俺にとって大事な物とは仲間だと気づいたからだ。
あまり物に執着しなくても良いかなと思う様になったのだった。
そう考えると孤児院にも執着しなくていいのか?
惜しい気もするが、ガレフ達がいればまた作る事はできる。この孤児院にそこまでこだわる必要はないのかもしれない。今なら金もあるし好きな土地を買って自由に家を建てるのも悪くない。
そうか、別にここじゃなくても良いのだ。リーナならどこでもキノコを栽培するだろう。ここは何となくエナジー茸が生えてくる特別な場所な気がしてたが、別にそんなことなかった。
これはアナスタシアさんも勘違いしているんじゃないか…………?
「主人よ…………」
ガレフも何か言いたそうだ。おそらく同じことを考えているのだろう。
「アナスタシアさん。俺をここから追い出すと言うなら俺は教会の孤児院長を辞めますよ」
「そうですか。残念ですが、それがマコトさんの判断なら仕方がないことです。子供達は私が新しい小屋で面倒を見ることにしましょう」
「いえ、俺は新しい孤児院を作ります。キノコ農園もまた一から作り直しますよ」
「キノコ農園も? 孤児院は解りますが、エナジー茸は何処にでも生えてくるようなキノコではないですよ。今までは獣人の国でしか栽培されていなかったのですから」
「ええ、ですから獣人の国の菌類学者にしか育てられません。ここのキノコも彼女が居なければ全滅するでしょう」
「獣人の国の菌類学者? なぜそのような人がここに居るのですか? 獣人の国と戦争中なのはマコトさんも御存じでしょう?」
「それがなぜか居るんですよ――。ああ、ちょうど戻ってきました。彼女が菌類学者のリーナです」
「あれ? マコチン。またここに来てるの? 最近よく来るね。知らない人も居るみたいだけど――」
「はじめまして。リーナさん。私はアナスタシアと言います。ルミエル教のシスターをしております」
「こんにちは。アナスタシアさん。あなたも私のキノコを食べに来たの?」
「この孤児院はルミエル教団の所有施設なんだ。だから教団を代表してアナスタシアさんが視察に来たんだよ」
俺は今の状況をサクッと説明する。頭の回転の速いリーナならこれで察するだろう。ただしリーナが俺に忖度してくれるとは限らないのだが、大丈夫だろうか…………。
「リーナさん。あなたがこのステキなキノコ達を栽培しているのですか?」
「そうだよ。短期間でここまで育てられるのは私くらいだろうね」
「凄いですね! エナジー茸までありましたよ。どうやって育てたのですか?」
「あれは苦労したね。まだ改良の余地はあるけど概ね完成かな。結局、湿度と温度が一番重要って事だね」
「なるほど、ではリーナさんはこの地でのエナジー茸の栽培方法を確立したということでしょうか?」
「栽培方法の確立という所までは、まだ研究が足りてないかな。現状では私が付きっきりで面倒をみる必要があるね」
「なるほど、なるほど。それではリーナさんはルミエル教団に所属する気はないですか? 好待遇をお約束しますよ。もちろん入信してくださっても構いません」
「えぇ? それは無理かなぁ。私はマコチンの所有物だからね。ルミエル教にマコチンが入信したら私も入る事になるかも?」
「は? 所有物? あ、その首輪は…………。そういうことですか――――」
アナスタシアさんは目を閉じて天井を仰ぎ、何やら考えている様だ。またろくでもない事を言い出さないと良いが…………。
「なるほど、解りました――――。移転はなしです。今まで通りこの場所は孤児院としてマコトさんに預けます。その代わり、教会の所有地で収益を上げているので、収益の一部を教会に収めて貰います」
「アナスタシアさん、私はもうここを出て行こうかなと考えていますが、それでも教会にお金を収めよと言うのですか?」
「もちろんです。ここに残るなら収めて頂きます。出て行かれるというなら育てられる自信はありませんが、私がキノコ栽培を頑張ってみようと思います」
うーーん…………。
今度は俺が考えるターンの様だ――。
まあ、アナスタシアさんがエナジー茸を育てるというのは無理だろう。
そんな事ができる訳ない。だからそこはアナスタシアさんの好きにしたらいいと思う。せいぜい頑張ってもらおう。
だが、俺達がここを出て一から全て作り直すと言うのも正直面倒だ。それなりにここの孤児院にも愛着があるし、作り直す手間を考えると家賃分くらいは払ってもいいのかもしれないな…………。
しかし! ただ金を払うのも搾取されてるようで気分が悪い。
出て行けと言われた直後では、なおさらじゃないか――――。
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