第151話 視察 2

「え、凄い! こんなに地下が広いのですか? それにこのキノコランプが凄いです。地下なのにとても明るいですね。このランプは販売する価値があるかもしれませんよ」


「残念ながらそのキノコランプは生きているらしくて、ここじゃないと光らないそうです」


 アナスタシアさんは俺と同じことを考えたようだ。確かにこの世界でこの光るキノコを見たらお金の匂いしかしない。その気持ちはとてもよく解る。


「そうなんですか? よそで光らないのでは売れませんね…………」

 眉をひそめて悲しそうなアナスタシアさんは、なかなか魅力的だ。

 もちろんいつものヒロイン感満載の笑顔も素敵だが、悲しみバージョンも捨てがたい。結局美人は何しても魅力的なのだろう。


「ここじゃ」

 ガレフが杖で石壁を叩く。

 俺がガレフに指示した通り農場の入り口は石壁で埋めてあるが、ガレフが杖で叩くとガラガラと農場の入り口が現れた。


「まあ、ずいぶんと厳重ですね。隠してあるのですか?」


「ええ、色々なキノコがあるので子供達が勝手に入れないようにしてますね」


 本当は子供達が地下に来る事なんてないんだが、まさか入り口を隠しているのは視察から隠す為だよ! とは言えない。


「なるほど、なるほど。確かに色々なキノコがあるようですね」

 キノコ農場に足を踏み入れたアナスタシアさんが農場内をキョロキョロと見渡している。


「危険なキノコもあるらしいので触らないでくださいね。食用キノコはあちらです」


 あまり農場内をジロジロ見られるとこっちは気が気でない。解る訳ないと思っていてもエナジー茸が生えている方を見ているのではないかと気になってしまう。


 さっさと案内して地下から出て貰おう――。


「このキノコなのですか? ずいぶんたくさん生えてますね。でも、たしかに美味しそうです。焼いて食べるのですか?」


「ええ、焼いただけでも美味しいですし、他の食材と一緒に炒めても美味しいですよ」


「そうなんですね。しかし、ここは良い農場の様です。地下なのに思ったよりも広さもありますし、キノコの生育も順調なようです」


 アナスタシアさんは辺りを見渡し1人でウンウン頷いている。これで納得してくれたのなら良いのだが、そろそろ帰ってほしい。


「それで、エナジー茸はどれですか? あちらの紫のキノコがそれっぽいですが――」


 ! なんで普通に知ってるんだ? いや、まだカマを掛けてるだけかもしれない。とりあえず知らないふりをしておこう。


「エ、エナジー茸というキノコは栽培してなかったと思いますよ…………」


「え? うふふふふ、ダメですよ。マコトさん。聖職者に嘘をついてはいけません。バチが当たりますよ?」


 怖っ! 笑っているのに目が笑ってない。こういうとき美人は迫力がある。ゲロってしまいそうだ…………。


「では、マコトさんが素直になれる様に少しお話をしてみましょう。先日、ある錬金術師の方が教会の告解室に懺悔に訪れたのです。その錬金術師の方は大変大きな秘密を抱えてしまったようで、誰にも言えず悩んでおりました。たまたま私が告解室に居る時に訪れてくれたので私にその秘密を打ち明けて、本人はスッキリして帰って行かれましたよ。もちろんその秘密についての詳しい内容は守秘義務があるのでお話する事はできませんが、マコトさんの想像通りです」


 ズ、ズルくない? 教会に懺悔した内容がこんな風に使われちゃうの? 

 しかし、ネムルちゃんは教会に懺悔しちゃうほどの熱心な信者だったとは…………。それともこっちではそれが普通なのだろうか? 

 宗教はわからん…………。


 それよりもネムルちゃんの懺悔を聞いたアナスタシアさんはエナジー茸について何でも知っているということだ。これはさすがに隠し通すのは無理だろう。


「解りました。確かにあの紫色のキノコがエナジー茸です。エナジー茸について知っているなら俺が隠そうとしたのも理解できるでしょう?」


「もちろんです。誰かに話したりしてはいけません。でも、私にこっそり相談してくれれば嬉しかったですね」


「いえ、巻き込んでしまっては悪いので…………」


「マコトさんは優しいですね。でも大丈夫ですよ。私はこうみえて色々強いですからね」


 アナスタシアさんにはエナジー茸についてなにか良いアイデアがあるのだろうか? 私に任せろ! と言わんばかりのようだが――。


「うふふ、まさか本当にマナポーションの材料が手に入るとは思いませんでした。教会の所有地に生えてくるとは、私にも運が向いてきたようです。これも神の思し召しと捉えましょう…………」


 何やらアナスタシアさんは農場内をウロウロしながら考えている――。


「やはり移転が一番良さそうです。孤児院は川のほとりの小屋に移転してもらって、ここの地上部分を教会の第2支部にしましょう。そこに教会の人間をたくさん呼んで、彼らに地下はすべて農場にして貰います。需要の高いエナジー茸をもっと量産しなくてはなりません」


 ? 笑顔でとんでもない事を言い出したぞ!


「アナスタシアさん? 移転って正気ですか? 私が孤児院の院長なんですから勝手に決められたら困りますよ」


「大丈夫ですよ。孤児院が移転するので、院長のマコトさんも一緒に移動してもらいます。小屋は少し狭くなりますけど、設備はありますから問題ないでしょう」


「しかし、子供達のために孤児院をここまで改装したのですよ。キノコ農場も孤児院の収入源として作ったのです。すべて子供達の為です。それを取り上げてしまうのは酷いんじゃないですか?」


「わかります。マコトさんの子供達を思う優しい気持ちはとても良く解ります。でも、もう少し視野を広げてみてください。我々は神から見れば全て迷える子羊なのです。より多くの子羊を導く為には、これが最善です。子供達は新しい孤児院ですくすくと成長していき、教会も第2支部を得ることで成長できるのです」


 本気でそう思っているのだろうか? いや打算が働いているのだろう。

 笑顔で根こそぎ持っていくつもりらしい。せっかくここまで育てた孤児院を簡単に追い出されるわけにはいかないとは思うが、そもそもここは教会の所有物だからなあ…………。


 なんか、この没収される感じはつい最近味わったばかりな気がするんだが――――。


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