第148話 マナポ
「ご主人様、可愛いお店が見えてきましたよ。あのお店は良い匂いがして素敵ですよね」
モモちゃんの言う通り錬金術の店が見えてきた。相変わらずオシャレ花屋の様な店構えだ。看板がないと何の店か解らないだろう。
「こんにちはー」
「いらっしゃいませ! あ、マコトさん! また来てくれて嬉しいです。1回来てから、その後は来てくれないので心配しましたよ」
たしかネムルちゃんだったな。錬金術師見習いと言っていた、可愛らしい女の子だ。
前回来た時は帰り際の態度が冷たかった様な気がしたが、気のせいだったようだ。
しっかり歓迎されている。
「思ったよりもポーションの消費が少なくてね。ご無沙汰してしまったよ」
「さすがです! ヘタな探索者はポーション使いすぎて赤字になったりしますからね。私はポーションが売れるので、そういう探索者は大歓迎ですからマコトさんもドンドンポーション使ってくださいね!」
「ま、まあ今後はポーションに頼る事が増えそうかな? と思っているよ。だんだん戦闘が激しくなってきたからね」
「ふふふ、冗談ですよ。実はあれからマコトさんの事が気になって、町の噂が本当なのか探索者ギルドのローズさんに聞きに行ったんですよ。そうしたら町の噂通りに凄腕だって言ってましたから、ポーションはあんまり売れなさそうですよね。でも噂と違って実は優しい人だって聞いたから、またお店に来てくれたら嬉しいなって思ってました」
くっ、これは危険だ。純朴そうな見た目で油断させておいてから、小悪魔的な笑顔でからかわれてしまった。俺の様な女なれしてない男子はこういうのに弱い。どう対応していいか解らないから早く本題に入ってしまおう。
「ま、まあポーションは確かにあんまり減ってないな。だから今日は別件で聞きたい事があってここに来たんだ」
「聞きたいことですか? なんでしょう……。 あ、私は彼氏いないですよ。募集中です!」
凄いグイグイくるけど、どうしたらいいんだ…………。
こういう時、陽キャだったら『マジで~、俺も俺もー』とか言うのだろうか?
俺にも言えるか?
ムリだな……。顔が赤くなってしまう前に冷静なふりをして話を進めよう。
「実はこのキノコなんだけど、ポーションの材料になるって聞いたから、ちょっと見て欲しいんだ――。」
俺はそういいながらカウンターにマジックバッグから取り出したエナジー茸を置く。
「なんだー。私の事が聞きたいんじゃないんですね。ふふふ、これも冗談ですけど…………。あれ? このキノコはアレに似てますね。まさかアレじゃないですよね?」
「アレ?」
「そんな訳ないと思いますけど、ちょっと調べてみますね。違うと思いますけど――」
なんだアレって? しかしこの反応は何故かあんまり良くない気がする――。
「まさかと思いましたけど、これは本物のエナジー茸みたいです。どこで手に入れたんですか? 密輸したとしか思えませんけど、こんなものを持ち込んで私の大事な店を潰す気ですか?」
「え? いや、俺の孤児院で育ててるんだが…………」
「そんな訳ないじゃないですか! これは獣人の国でしか育たないキノコですよ。戦争が始まってからは輸入されていませんので、我が国に今は存在しないはずです」
あ、これはやっちまったかも…………。大事になりそうな予感しかしない。
「仮にで考えてみて欲しいんだけど、本当にこのエナジー茸を栽培できるとしたら、どうする?」
「どうにもできないですよ。もしこれをマナポーションにしてこの店で売りだしたら、軍がすっ飛んできて私はスパイ容疑で逮捕ですよ。そのまま軍に連れて行かれて、エナジー茸の入手経路について厳しく追及されるでしょう。私はすぐにマコトさんの名前を出しますから、マコトさんも逮捕です」
「やっぱりマナポーションになるんだ」
「そうですよ。獣人の国が宣戦布告してきて戦争になる前は、エナジー茸は普通に輸入されていて、マナポーションへと加工されてました。ただマナポーションは戦争でも使いますからね。魔導士もマナポーションがないと大規模魔法を連発できませんから、獣人としてはエナジー茸の輸出なんて戦争が不利になる様な事はする訳ないです。向こうの国でも徹底管理されているはずですよ。だからマコトさんがどうやってエナジー茸を手に入れたのか不思議です」
「そう言われても、栽培できちゃったからなあ……。それじゃあ。よそに売らないから、ここでこっそりマナポーションに加工してくれたりしない?」
「私も久しぶりにマナポーション作ってみたいけど、絶対にダメですよ。ばれたらとんでもない事になるのは解ってますからね。私はこの大事なお店を守らないといけません。もし本当に栽培できるなら領主に相談してみたらどうですか? 軍に連れて行かれるよりはマシだと思いますよ」
「なんで領主に相談するといいんだ? バレたら面倒なのは同じだと思うけど?」
「この町の領主はやり手らしいですからね。王城勤めもしていて軍ともやりあえるそうです。でも誰にもバレないのが一番だと思いますよ。私も見なかった事にしますから、マコトさんもそのキノコを持って帰った方がいいかもです」
「そうか…………。残念だけどマナポーションは諦めるしかなさそうだな」
「そうですよ。もう、お店にそのキノコを持って来ないでくださいね」
ネムルちゃんが笑顔で手を振っている。なんか前回来た時も同じ光景を見たな。
これはきっと早く帰れという意味なのだろう。
このキノコどうしよう――――?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます