第149話 エナジー茸

 エナジー茸の売り込みは失敗に終わってしまった…………。

 俺とモモちゃんはトボトボと孤児院へと帰る。


「あのキノコ買って貰えませんでしたね。もう少し美味しそうな色だったら良かったのかもしれません」


「そうだね。モモちゃん。残念だけどしょうがない」


 俺が思っていたよりもエナジー茸の価値が高すぎたようだ。ネムルちゃんの話では、どうやら戦争の行方にも影響してしまうほどの価値がありそうだった。


 とても町の小さな錬金術師の店では扱えないだろう。

 そうすると次の売り込み先は国になるのか?


 これはうまくやれば大金を稼げそうではあるが、大金が動く分リスクも高そうだ。

 ネムルちゃんからは取引先として領主をおすすめされたが、あくまで軍に比べたらマシ程度だろう。


 領主はやり手とは言っていたが、良い人だとか信用できるとは言っていなかった。

 交渉相手がやり手ではうまく丸め込まれて、こちらが窮地に立ってしまいそうで怖い。


 社会に出た事がない俺の様な男が、偉い人に営業をかけてキノコを売りつけるというのはハードルが高すぎる。


 こちらに来てから無我夢中でやってきて交渉の様な事もしたが、それは他に選択肢がなかったからだ。今回は無理にキノコを国の上層部に売りつけて、わざわざ危険な目にあう事もないだろう。


 キノコの値段を値切られるくらいなら良いが、拉致されて一生キノコ農場で働くことになったりしそうで怖い。


 エナジー茸に関しては、よく干してガレフにモグモグして貰おう――――。



「口に入れるとピリピリするが、苦くて旨い。これは酒のつまみになるぞ!」


 数日後の探索中、へばってきたガレフに干しエナジー茸を試して貰った。探索中なので酒は無理だが味は気に入ってくれたようだ。


「それに精神力も回復してきた様じゃ。これでまだまだ探索を続けられるぞ」


「リーナの言っていた通り、エナジー茸には回復効果があるようだね。それじゃあ探索を続けよう」


 エナジー茸を干して食べられるようになるまでは、ガレフのマナが切れたら探索終了にして近くのゲートまで戻っていたので、あまり探索は進まなかった。

 しかし、これからは長時間潜っていられるだろう。


 実際に今日は夕方までダンジョン探索を続けることができた。時間をかけた分は着実に探索が進むので今日の成果は大きい。

 このペースなら、もう数日で60階まで到達できそうだ――。


 今日は探索を頑張ったので孤児院に着くころには、すっかりあたりは暗くなってしまった。

 孤児院の門を開けると何故かリーナが庭で俺たちを待っている。


「おお、どうしたんじゃリーナ。1人で寂しかったのか? いまワシが帰ってきたからもう大丈夫じゃぞ」


「パパ何言ってるの、そんな訳ないでしょ。それよりマコチン。ロレッタから伝言よ。『シスターアナスタシアが視察に来ています』って言ってたよ。今はダイニングでロレッタたちとお話してるわ」


「げっ、それはやばそうだ。リーナ、良く教えてくれた。知らないでノコノコ帰っていたら面倒な事になっていたぞ」


 これは特大の厄介ごとだ。いまの孤児院は教会からの突っ込み所が多すぎる。

 これはなんとかして全てを隠したほうがいいだろう。


 まずは陛下の存在だ。

 スケルトンな上に暗黒神:ゾ=カラールの信徒だ。陛下の部屋には祭壇の様なものまである。陛下と陛下の部屋は封印しなくてはならない。


 キノコ農場もできれば見られたくない。

 キノコを見ても解らないと思うが、エナジー茸の存在を知られる訳にはいかないからだ。

 あの金の匂いに敏感なシスターは油断ならない。

 そうすると地下だな。ガレフに頼んで地下を色々封印してしまうのが良さそうだ。


「ガレフ。裏から陛下と先に地下に行って、陛下の部屋の入り口を塞いでおいてくれ。シスターに見られるとまずい。陛下は申し訳ないですけど、シスターが帰るまで部屋に居て貰っていいですか?」


「うむ、余は自分の部屋に居るだけでいいなら構わんぞ。別にルミエル教のシスターになど会いたくないからな」


「あとキノコ農場の入り口も塞いでおいてくれ」


「了解じゃ」


 2人は孤児院の裏手に回る。

 あとは2人が地下に行って作業する時間を俺がシスターと話しなどして、時間を稼がなくてならない。


 しかし、今まで一度も視察など来なかったのに急にどうしたのだろうか?

 嫌な予感しかしないぞ――。


 俺たちがダイニングに行くとアナスタシアさんが子供たちに囲まれて微笑んでいる姿が見えた。ぱっと見は可愛らしいお嬢さんだが、シスター服姿から威光を感じる。真っ白な服が輝いている様に見えるのだ。


 もし、アナスタシアさんが『私が女神です』と言って50階に現れたらすぐに信じていたかもしれない。


「シスター! 久しぶりじゃないか、会いたかったぜ!」


 俺が挨拶をする前にカレンがアナスタシアさんの元にダッシュで向かう。そんなにシスターに会いたかったのか?


 俺がカレンの勢いに驚いているとロレッタがススッと俺に身を寄せてきた。


「シスターの視察は何が目的かまだ解りません。インプちゃん達は見つかる前に屋根裏に退避できました。まだこの部屋で近況を話しているだけなので、地下にも降りてません」


 小声でロレッタは俺がいま知りたいことを報告してくれた。

 まさか、カレンがアナスタシアさんに飛びついて行ったのもこの僅かな時間を作る為なのか?

 恐るべし双子のコンビネーション!


 だが、おかげで状況は解った。

 まだ何もバレてないなら、全てを隠し通してみせる!



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