第127話 高級品
「ですが、私が知っている店は庶民が使う道具や家具を扱う店ばかりで、上質な高級品は貴族街の専門店で発注しないといけないのです」
「そうか、貴族街の店ね。錬金術の店でポーションは買ったけど、他の店には行ったことがないな」
「あの辺の店はほとんど紹介制とか会員制なんですよ。私も中に入った事がない店の方が多いです。扱っているものが貴族しか使わない様な品が多いですから、一般市民は用がないんですよね」
「誰かに店を紹介して貰わないといけないのか…………」
どうやら高級品を買うには専門店を紹介してもらう必要があるようだ。紹介してくれそうな人は誰だろうか?
錬金術の店は探索者ギルドで教えて貰ったが、紹介とは違うような気がする。それでも他に思いつかないので、探索者ギルドに聞きに行ってみる事にした。
ロレッタに買う品を相談したかったので一緒にと誘ってみたが、他にやる事があると断られてしまった。マコトさんにお任せしますとの事だ。
まあ、さすがのロレッタも高級品の事は解らないだろう。人生を何周もしていると言っても、所詮8歳くらいまでを周回しているだけだ。そもそも高級品など目にする機会がなかっただろうからしょうがない。
そうなると陛下を連れて行くのはどうだろうか? いいものに囲まれて育ったであろう陛下は目が利きそうだ。
陛下とモモちゃんを連れて探索者ギルドに向かう事にした――。
ダメだった…………。
受付のローズさんは見た目によらず庶民的な生活をしているらしく、そういったお店には詳しくないそうだ。ギルド長は貴族などと対応する事はあるそうだが、個人的に仲が良い訳でもなく、紹介できるお店もないと言われてしまった。
しかも絶対に貴族と問題を起こすなよと念まで押されてしまった…………。
「やれやれ、困ったね。陛下はどうしたらいいと思う? 次は錬金術の店で聞いてみるのはどうだろう? あの店も貴族街で営業しているのだから、どこか近所の店を紹介してくれるかもしれない」
「ふむ、まあ行ってみてもいいだろうな。他にあてもないのだろう?」
「でも、あまり貴族が来そうな店でもなかったけど…………」
「余が貴族街で知っている店はワインバーだけだが、夜しか店はやってないな。しかし1階のレストランで昼はランチをやっていると聞いたぞ」
「ランチ! そういえばお腹が空いてきました。さっそく行ってみましょう!」
貴族街のレストランにモモちゃんを連れて行くのは怖いのだが、すっかりその気になったモモちゃんは貴族街に向けて歩き始めてしまった。
「俺達でも店に入れて貰えるのかなぁ…………」
赤黒い全身鎧の騎士に巨漢のハーフオーク、汚れた革鎧を着た探索者風の俺…………。
貴族が優雅にランチする店に入っていけるとは思えないぞ。
「余がいれば問題なかろう。マコトは後ろからついてまいれ」
堂々と貴族街を歩く陛下の後ろを俺もついて行く、レストランの場所を知らないモモちゃんも俺の横に戻ってきた。
「レストラン楽しみですね! 何が食べれるのでしょうか?」
確かに貴族が何を食べるのかは気になる。しかしそれよりも気になるのは料金とモモちゃんがどれだけ食べるかだ。
今のモモちゃんは豊満な我儘ボディをしている。決して飢餓状態ではないので、そこまで食べないとは思うが、油断しない方がいいだろう。
「高級店らしいからランチ食べ過ぎないでね。レストランに行く目的は貴族街の他のお店を紹介してもらう事なんだよ」
「もちろんです。食べすぎは体に毒ですよ」
モモちゃんが信じられない事を言い出したが、その顔を見ると冗談で言っている訳ではないらしい。いつも適量しか食べてないという事か…………。
貴族街を歩いて行くと俺たちが歩いている歩道側にレストランが見えてきた。テラス席もあるようで、上品そうな御婦人方が食事をしている様子が見える。
これは確かに高級店だ。
正面の入り口にはドアマンまでいる。俺たちの様なこの店に不釣り合いな人間が迷い込んでこないようにしているのだろう。これでは店に入る事すらできなそうだ。
「店の主人は居るかね?」 陛下がドアマンに声を掛けた。
「少々お待ちください」 と礼をしてドアマンが店に入っていく。
「知りあいですか?」 あまりに自然に声を掛けたので、きっと知っている人だったのではないだろうか。
「いや、知らぬが彼はこの店の従業員なのだろう?」
陛下と話していると小走りでさきほどのドアマンとは違う男がやってきた。
「これはこれは、ヴィルヘルム様。ようこそおいでくださいました」
「うむ、今日は余のマスターと食事でもしようかと思ってな。貴様の店がランチもやっていると言っておったであろう」
「さようでございますか。よくぞいらして下さいました」 陛下に深々と頭を下げると俺の方をチラっと見て――
「個室をご用意致しますので、少々お待ちください」 そう言うと男はまた小走りで店の中へと去っていった。
「今の男がバーのマスターですか?」
「そうだ。ここの2階がワインバーになっている。昼間は1階のレストランの方に居るというのは本当だったらしい」
「ところで、なんで個室なんでしょう?」
「まあ、我々の格好がこの店のドレスコードに引っかかったのだろうな。他の客から我々を隠したいのだろう」
「やっぱりそうなんですね。先に服屋に行くべきだったのかもしれませんが、この格好では服屋にも入れるか微妙なんですよね」
「うむ、まずはもう少し身なりを整える必要がありそうだな」
「しかし、なぜこんな格好の我々を店に入れてくれるのですかね?」
「それは余の威厳に逆らえなかったのだろう。こんなちんけな店が余を拒むなどできるはずもない。あとは余がワインバーで仲良くなった男が、それなりの地位の男だったのかもしれぬな」
絶対そっちでしょ。陛下はいったい誰と仲良くなったのだろうか?
「お待たせしました。個室の準備が整いましたので、ご案内させていただきます」
今度は最初のドアマンが我々を案内しに戻ってきた。
これが彼の役目なのだろう――――。
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