第126話 羊毛布団

 45階の地図を埋めつつ、魔物を倒していく。

 陛下に最初にスリーピングシープを倒してもらうのだが、ブラッドソードの長さを伸ばして少し離れた位置で寝ているスリーピングシープにも攻撃が届くようだ。

 闇魔法に血術も使えるようになった陛下は近距離だけでなく、中距離からも攻撃できる万能な戦士へと成長したと思う。おかげで素早くスリーピングシープを倒すことができるようになり、戦闘回数を重ねるごとに戦闘時間が短くなってきた――。


 探索と戦闘を続け46階ゲートより帰還。

 スリーピングシープを倒す事で、俺の布団を作るには十分な羊毛が手に入った。まだ孤児院全ての布団を作れるほどの量はないが、まずは俺が体を張って羊毛布団の実験台になってみよう。


 魔物から採取された羊毛から作った布団では、どんな副作用があるか解らない。まだ子供たちに渡すにははやいだろう。


 ただ、この羊毛はギルドで換金できて、その後は糸から高級生地へと加工されて貴族の服などに使われているらしいので、まず問題はないはずなのだが。


 孤児院に帰った俺はさっそくモモちゃんと解体部屋に移動する。最近の解体作業は陛下の召喚したインプがおこなっているが、初めての魔物はモモちゃんにお願いするのがいいだろう。

 あとでモモちゃんからインプに羊の解体作業を教えておけば、今後は俺たちがダンジョンに行っている間にやっておいてくれるはずだ。


「モモちゃん、その羊毛は俺の布団になるから丁寧に頼むよ」


「任せてください。ご主人様。村でも羊の解体はやってましたよ。羊のお肉も美味しいですよね。今夜が楽しみです」


「そういえば、お肉も食べられるという話だったね。羊毛が楽しみすぎて忘れてたよ。子羊ではないだろうから、マトンかな? 臭みがないといいけど」


「羊はちょっと臭いくらいが、私は好きですよ」


 あんまりクセが強いようならタレに漬けてジンギスカンみたいにしたいが、醤油がないとなあ。今日は塩とスパイスでいいか――。


 モモちゃんの解体作業を手伝って、羊毛を受け取り、庭に干しに行く。本当は洗いたいのだが洗剤も洗濯機もないし、あんまり汚れていないようなので、そのまま干してみる事にした――。


 風呂に入ってから夕食、今日の夕飯はもちろんマトンだ。ロレッタに言って、スパイスたっぷりで焼いてもらった。

 羊特有の臭みはあるが、嫌になるほどでもない。クミンなどの香辛料が臭みを抑えてくれている。ロレッタはまた料理の腕を上げたようだ。


 そしてマトンは赤ワインとも良く合う。俺は陛下に調教されて赤ワインが飲めるようになってしまった。むしろこういうクセのある肉には赤ワインが必要である。どうやら赤ワインなしでは生きていけない体にされてしまったようだ――。


 夕飯後、庭に干しておいた羊毛を取り込んだ。干す前よりもフワフワになった気がする。俺は自分の藁布団から藁を捨てて羊毛を詰め込む。特に敷布団の方にはたっぷりと詰め込みクッション性を高める――。


 出来た。

 ついに俺はこの世界でまともな寝具を手に入れる事ができたのだ。土の上で寝ていたのが懐かしい。モモちゃんを枕に寝た事もあった。藁布団は腰が痛い。


 しかし、今日からは木のベットに羊毛布団を敷いて寝る事ができるのだ。今思うと日本で布団に潜り込んでいた時間は何の心配もストレスもない幸せな時間だったのだと思う。あの時の安らぎに少しは近づけたのではないだろうか?


 さあ今日はもう寝よう。いい夢が見れますように――――。



 朝起きたが特に何の夢も見なかったように思う。覚えてないだけかもしれないが…………。

 羊毛布団の寝心地は藁布団とは雲泥の差があるが、日本で使っていた布団ともまだ差がある。適当に羊毛を詰めただけなので、偏りがあって布団が均一にタイラではないようなのだ。


 寝具の世界は奥が深い。まだまだ改良の余地があるようだ。何か重たいものでプレスすればタイラになるだろうか? しかし、やりすぎると硬いせんべい布団になってしまいそうだ。せっかくフワフワなのにもったいない…………。



 それから俺たちは昼は探索を続け、夜は俺一人で布団の改良へと勤しんだ。

 数日たって羊毛が貯まってきたので、孤児院全体の布団にも手を出し始めたのだが…………。


 布団も専門家に任せた方がいいのかもしれない。

 俺ではせっかく手に入れた羊毛を使いこなせていない気がする。しかし布団屋さんなんて、この町になかったと思うのだが、どこに相談するべきだろうか?


 金ならあるのだ。最近の孤児院の稼ぎはなかなかの物である。この町の物価を考えると小金持ちくらいにはなったのではないだろうか。ちょっと悔しいが、ドーンと豪勢な布団を仕立てて貰うと言うのはありな気がする。


 ここは困った時のロレッタだ。ロレッタ母さんに相談してみよう――。


 台所に行くと仁王立ちでインプに指示を出すロレッタに会う事が出来た。

 インプたちはすっかりロレッタの部下となってテキパキと働いている。陛下と居る所を見た事ないのだが、インプたちも誰に召喚されたのか忘れているのではないだろうか?


「ロレッタ。ちょっと今いいかい?」


「はい、マコトさん。どうしましたか?」


「最近、この孤児院の収支がとても好調だから、設備投資しようかと思ってね」


「それはいい考えだと思いますけど、もう十分お金はいただいてますよ?」


「いや、家具とか台所用品とか古い物が多いだろ? あと布団とかさ」


「まだどれも全然使えますよ。あ、でも人数が増えてきたので食器が足りなくなってきました」


「そうだろ。食事はみんなの楽しみだから、そこはお金をかけてあげたいんだ。食器を新しくして、ダイニングテーブルやイスも新調したい。あと睡眠の質の改善の為に布団も上質なものにしたいね」


「上質なものですか、なんだか私たちには勿体ないと思いますけど、探索者の皆さんは体が資本ですものね。解りました。たくさん食べて、良く寝れるように改善していきましょう」


 どうやらロレッタを説得する事に成功したようだぞ――――。




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