第128話 レストラン
案内された個室は落ち着いた雰囲気の上品な部屋であった。
貴族御用達というから、もっと煌びやかな装飾が施されたギラギラと落ち着かない部屋かと思ったが、これなら俺でも食事を楽しめそうである。
むしろ、この部屋で使われている家具はなかなか良いのではないだろうか?
このテーブルなど孤児院で使うのにちょうどいい気がする。
「いい部屋ですね。孤児院の内装もこんな感じにしようかな」
「ふむ、レストランにしてはシンプル過ぎる気もするが、孤児院なら悪くないかもしれん」
「他の部屋もこんな感じですかね?」
「そんな訳なかろう。マコトに合わせてこの部屋を選んだのだと思うぞ。無駄に派手なものを好むものもいるからな。相手に合わせた客室をいくつか用意しているのだろう」
そうかもしれない。
この部屋に来る途中で通った大部屋はもっと飾りが多かった。俺が落ち着ける様にこの部屋を選んでくれたのだとしたら、この店の主人はサービスという物を良く解っていると思う。
もしくは貧乏そうな俺たちを物置小屋に放り込んだのかもしれないが、さすがにそれは違うだろう。
*コンコン*
「失礼します」
噂をすればさっそく、この店の主人がメニューを持ってやってきた。
陛下にではなく、俺へとメニューが渡される。さてどんな料理があるのか、楽しみだ――。
落ち着かない…………。
俺はメニューを開いて中をみるが、店主が俺の後ろに立って居るのが解る。何やら視線を感じるが、俺を観察しているのではないだろうか?
変なプレッシャーがかかり、無言の空気に俺は耐えられない。本当はじっくりメニューを見たいのだが、後ろで待たれていると思うと気になってしょうがない。陛下ならこの店主を平気で何十分も待たせるのだろうが、俺には無理だ。
「初めて来たので、おすすめを伺っても良いですか?」
今日のところは本日のおすすめを頼んで無難にやり過ごそうと思う。
「本日は新鮮なシーフードが入っておりますので、そちらが大変おすすめとなっております」
シーフード! 市場で海鮮類を見かけた事がなかったので、この町は海から遠いのだと思っていた。しかも新鮮だなんて流通はどうなっているんだ? これは是非ともいただきたい。
「シーフードいいですね。でもどうやって鮮度を保っているのですか?」
「当店でご提供致しますシーフードは、漁港で水揚げされた魚介類をその場で絞め、すぐにマジックバッグに保管して、この町まで運ばれてくるものです。当店にはマジックバッグはありませんが、今朝届いたばかりなので、まだ鮮度は保たれてございますよ」
「それは凄い。ではシーフードでお願いします」
「新鮮ですので、おすすめはミックスグリルになりますが、そちらでよろしいでしょうか?」
「はい、ミックスグリルでお願いします」
これは楽しみすぎる。いくら新鮮と言っても刺身盛り合わせはなさそうであったが、どうせ醤油がないのだ。久しぶりの海鮮類はシーフードミックスグリルで十分満足できるだろう。
「私はお肉がいいです」
せっかく新鮮な海鮮が食べれると言うのに、モモちゃんはぶれないな…………。
「本日、ご用意できる肉の種類はレッサーバイソンのみなのですが、よろしいでしょうか?」
「はい、お肉なら何でもいいです!」
「シチューとステーキでご用意できますが、いかが致しましょうか?」
「ステーキでお願いします!」
モモちゃんもいつの間にか自分で注文できるようになったようだ。本当は俺が店主の質問に答えた方がいいと思ったのだが、モモちゃんに先に答えられてしまったのでしょうがない。店主は奴隷のモモちゃんにも普通に対応している。
「解っていると思うが、余の食事はいらないからな。その代わり、その娘はたくさん食べるからドンドン焼いて来るがいい」
「かしこまりました。皆さまお飲み物はいかが致しますか? ワインリストをお持ちしましょうか?」
「いや、先日飲んだ白でいいな。昼に飲むにはあれがちょうどいい」
「かしこまりました。グラスは3つで、よろしいですか?」
「まだ昼だしワインは俺たちはいいや。陛下の分だけお願いします」
「そうです。お酒よりもお肉です」
「うむ、その肉だがレッサーバイソンとはどういうことだ? グレーターバイソンはないのか? わざわざ来たのに安い肉食べてもしょうがないだろう」
「これはヴィルヘルム様、申し訳ございません。ただ、仕入れの関係でグレーターバイソンの肉が入ってこないのです。ヴィルヘルム様に話す様な事ではないのですが、どうも肉屋が売り渋っているようでして、市場を調べますとグレーターバイソンの皮は大量に流通しているのですが、肉だけが全然出回ってないのです。肉屋が意図的に値を吊り上げようとしているとしか思えません」
あ、そういえば自分たちで食べるだろうと思って、グレーターバイソンの肉はマジックバッグに入れたままだ。角や皮だけギルドで換金していたから、市場が混乱しているのか…………。
「そういうことなら、私たちはダンジョンに潜る探索者なので、グレーターバイソンの肉を用意する事ができますよ。もし宜しければ少しお譲りしましょうか?」
俺はマジックバッグを取り出して店主の方へと向けた。
「あ、それはマジックバッグ! さすがヴィルヘルム様のマスターですね。噂通り上級探索者の名に恥じぬ実力をお持ちの様です。そしてグレーターバイソンの肉をお持ちという事でしょうか? お譲りいただけると助かるのですが…………」
「ええ、今持ってます。半頭でいいですか? 一頭を縦に半分に切ってありますので、重たいから店の貯蔵庫まで運びますよ」
「ありがとうございます!」
俺は店主に案内されるままに貯蔵庫まで足を運び、グレーターバイソンの肉半頭を貯蔵庫のフックに吊るしてきた。そこにいた料理人にも見て貰ったが、間違いなく上質なグレーターバイソンの肉であると確認して貰えた。ついでにスリーピングシープの肉も見せるとそっちも是非譲ってくれと言うので、こちらも半頭吊るしてきた。
どうやらインプの解体技術も悪くない様だ――――。
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