第121話 解体作業

 毒バエにやられてしまったお肉はダンジョンに廃棄する事にしよう。俺は代わりのグレーターバイソンを取り出して解体作業をすすめる。


 今日のノルマは3体。なかなか時間も掛かるし、モモちゃんのお手伝いだけでも重労働だ。モモちゃんは鼻歌交じりに、ご機嫌で作業しているが、俺はしんどい。


 早くお風呂に入りたい。今日のエールはさぞかし美味いだろう――。


 なんとか解体作業を終えた俺は食材をロレッタに届ける。今日の夕飯はグレーターバイソンにして貰おうという考えだ。これから風呂に入り、良く冷えたエールを飲んでグレーターバイソンを食べれば、また明日も頑張れる。


 俺は地下に戻り、風呂へと向かう。すると地下で見慣れる物体が動いているのが目に入った。子供ほどの大きさの石の人形がガチョンガチョンとぎこちなく歩いている。


 これはゴーレムか? 


 ゴーレムらしき物体は目的があるらしく、近寄ってきた俺には目もくれずにまっす

ぐに地下通路を進む。

 どうやらキノコ農場を目指している様だ。俺も後をついて行くと――。


「よしよし、ちゃんと帰ってこれたみたいじゃな」 

 キノコ農場で待ち構えていたガレフとリーナが石の人形を出迎えた。どうやらこれはガレフ達モグラ親子の仕業らしい。


「こいつは何だ? ガレフが作ったのか?」


「おお、主人よ。新しく覚えたストーンゴーレムの魔法を試しておったのじゃ。魔石があればコイツのようなゴーレムを作り出せるぞ。魔石は陛下に小さいのを分けて貰ったんじゃ」


 やっぱりゴーレムだったのか、これはもしやさっそく労働力のあてが出来たのではないだろうか? 俺はできれば単純な肉体労働とかしたくないんだ。


「新しい土魔法だったのか、それでこいつは何が出来るんだ?」


「まだ色々と試している所だが、細かい作業でなければ何でも出来そうじゃぞ」


「そうよ、マコチン。この子は見かけよりも賢いわ。キノコの収穫も水やりも教えれば出来そうよ。このキノコ農場はゴーレムによってオートメーション化できるかもしれないわ。ちょうど食用キノコが取れるようになったから、キノコ食べ放題よ!」


「凄いじゃないか。実は今、魔物の解体をしてきたのだが、これが重労働でダンジョン帰りにやるのはキツイんだ。そのゴーレムに魔物の解体を任せる事はできそうかな?」


「それはどうじゃろう? こいつらは手先があまり器用ではないようなのじゃ」


 確かにゴーレムの手を見ると石と石がくっついてるだけで、あまり複雑な動きは出来そうにない。ナイフを使って魔物の解体は無理があるか…………。


「それじゃあ解体作業はモモちゃんに引き続きやって貰うとして、今は俺のマジックバッグから魔物を取り出して、解体して、またマジックバッグにしまうという工程なんだが、これを冷蔵室に貯蔵してある魔物を解体部屋に運んで、解体した肉を冷蔵室に戻す。という工程に変えよう」


「なるほど、その魔物や肉の運搬ならゴーレムでもできると思うぞ。むしろ力はかなりあるからゴーレムの得意な仕事じゃな」


 これなら俺がお手伝いとして解体部屋にいなくても問題ない。

 マジックバッグに何でもしまってしまうと、俺にしか取り出せなくて孤児院の運営上は不自由でしかないはず。

 冷蔵室にあれば誰でも好きな時にお肉などを取り出せるから、ロレッタは喜ぶだろう。俺も肉体労働から解放されて大喜びだ。


 本当は解体作業も俺たちがダンジョンに行っている間に片付いていれば、それが理想なのだがモモちゃんをダンジョンに連れて行かないと言う選択はないので、今はしょうがないか…………。


「主人よ。魔石を少し貰えないだろうか? それでゴーレムの数を増やすことができるんじゃ」


「それなら、じゃんじゃん増やして大いに働いて貰ってくれ」

 俺は陛下のオヤツに取っておいた魔石を全てガレフに渡す。陛下の分はまた今度、狩ればいいだろう。


「おお、すまんな。そういえば陛下も新しい魔法を覚えたと言っておったぞ」


 今日のダンジョンでみんなレベルが上がったのか、2人とも新しい魔法を覚えたらしい。闇魔法はいったい何の魔法だろうか? 陛下の所に行って見よう。

 どんな魔法か楽しみではあるが、闇魔法はやけに攻撃的でデバフを振りまく魔法ばっかりだから、またそっち系だろうか…………。


 陛下の部屋に着くと、またドアが開いている。陛下の部屋はいつもドアが開けっ放しなので、そもそも閉める気がないのだろう。


「陛下いますか? 入りますよ」


 俺は声をかけて陛下の部屋へと入ると、前と様子が違う。

 前よりも部屋の中は広くてガランとしているが、薄暗くて良く見えない。

 どうもキノコランプを壁に設置していない様だ。なぜかロウソクがあちらこちらの床に置いてあり、それが光源となっている。


 俺はユラユラと揺れるロウソクの光を頼りに部屋の中へと入っていく。ロウソクに囲まれた中央に血で書かれた魔法陣を発見した。さらにその奥には骨で作られた祭壇の様なものが見える。


 これは悪魔崇拝者たちの儀式の場だろうか、邪教の集会場かもしれない…………。


 しかし、恐らくこれは陛下の趣味でこういう内装になっただけの単なる私室なのだろうと思う。良い趣味とはとても言えないが、良く出来ている。陛下は凝り性な性格らしい。


『バサバサッ』 「うおっ!」


 暗がりから何かコウモリの様なものが、こちらに飛んできた。急に暗闇から現れたので俺は驚きすぎて、尻もちをついてしまった。


「ん? マコト来ていたのか。驚かせてすまんな」

 奥の部屋から陛下が現れた。その肩には何か黒い生物が座っている様に見える。先ほどのコウモリだろうか?


「見よ! マコトよ。ゾ=カラール様より新たな力を下賜されたぞ。サモンインプだ。余は魔界よりインプを召喚する事が出来るようになったぞ」


 おお、使い魔的なアレか。そうすると地面に書かれたこれは、インプ召喚用の魔法陣なのだろう。


「それは凄い! この魔法陣より召喚したのですね」


「ん? まあそうだな。なくても召喚できるが、魔法陣があった方が風情があるだろ? その中央に召喚するとなかなか良い感じだぞ」


 やっぱりこの内装は陛下の趣味だったのか――――。


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