第122話 インプ
俺は陛下の肩に乗ったインプをよく見せて貰う事にした。
インプはコウモリの羽や先端がハート形の尻尾が生えていて、小悪魔的な見た目をしている。顔つきはちょっと悪そうな人相をしているが、全体的に見れば可愛らしい姿であろう。
しかし、コウモリの羽が体の大きさに比べて小さすぎる。
あれでは物理的に飛べるわけないように思うが、まあどうせ魔法的な何かが働いているのだろう。もしかしたら俺の知っている物理法則とこの世界の物理法則は違うのかもしれないが、どちらにしても解明される事はない。
陛下の肩を離れて、パタパタとホバリングしている姿を見ると違和感が凄いが、気にするだけ時間の無駄だ。こういう物だと受け止めてしまった方がよい。
「なかなか、可愛らしいね。この子は何ができるのだろうか?」
「うむ、先ほどから色々試してみたのだが、残念ながらダンジョンでの戦闘には向かないようである。飛ぶ事はできるが狭いダンジョンの通路では、その特技をいかせない。戦闘能力もほぼなかった。魔法も使えんし、見た目通り非力である。しかし剣は持てないがワインの瓶は持てたので、給仕はできると思うぞ。あとは屋外であれば偵察などには使えるかもしれん」
「戦闘ができない様なら、孤児院内での雑用がいいかな?」
「掃除、洗濯、配膳、下膳、洗い物など試してみるか。余の配下であるからな。有能だと思うぞ」
ドローン的な運用がいいかと思ったが、手先が器用なようだ。細かい作業ができるなら非常に使い勝手がいいだろう。ロレッタに預けて色々仕込んでもらうと良いのではないだろうか。
「インプの数は1匹だけ? もっと増やせないかな」
「もう少し召喚できそうだが…………、試してみるか。マコトよ。召喚陣より退くのだ。そこに召喚するぞ」
俺は部屋の端へと移動する。召喚陣は必要ないと言っていたが、やっぱりここに召喚したいのか…………。
揺らめくロウソクに照らされながら、召喚陣の近くへとゆっくり陛下が移動してきた。赤黒い鎧姿と召喚陣がとても似合っている。
召喚陣の前に立ち止まった陛下は片手を前に突き出して、呪文を唱えはじめた。
『古よりの契約により、汝の身は余のもとに、余は求め訴えたり、来たれ………… サモンインプ』
召喚陣の中央より少量の煙が吹き出し、その煙の中にインプが現れた――。
なんかあれだな、召喚前の雰囲気やインテリア、陛下のカッコイイ呪文までは完璧だったので、拍子抜けしてしまう。どうにも演出がしょぼい。ガチャで☆1のコモンキャラを引いた気分だ…………。
しかし、この召喚はガチャではないのでインプはハズレなんかじゃない。この孤児院の労働力として立派に貢献してくれるはずだ。
「ふむ、4体目のインプは召喚できなかった。余が召喚できるインプの数だが、今は3体までのようだな」
あれ? 3体目以降は呪文なしで召喚してたぞ。あの呪文も本当は必要ないけど、雰囲気づくりでやってる可能性があるな。まさかあの呪文は陛下のオリジナル……?
「マコトよ。この3体のインプはどうする?」
「インプはロレッタに預けよう。孤児院内の仕事を覚えるにはロレッタに教えてもらうのが一番だ。これでロレッタの負担が少しでも減るといい」
「うむうむ、そうだな。あの幼女は働きすぎだと余も思うぞ。子供はもっと遊んだほうがいい。それでは、余はこれからロレッタにインプを渡してこよう。インプにロレッタの言う事を聞くようにと命令すれば、インプを引き渡せるはずだ」
俺にそう伝えると陛下は地上に向かって歩き出した。その後ろをインプが一列になって付いて行く。陛下御一行を見送った俺は風呂へと向かった――。
今日もいい湯だ。一日の疲れが抜けていく――。
俺は風呂に入りながらぼんやりと考えた。はたしてロレッタはインプを使いこなせるだろうか?
まず問題ないだろう。むしろ俺や陛下よりも有効に活用しそうだ。もしインプが料理の下ごしらえまで出来るようになったら、魔物の解体もやってもらいたい。ゴーレムと協力すればモモちゃんも抜きで解体できるようになるのではないだろうか。
そうなれば俺たちはダンジョンで狩ってきた魔物をマジックバッグから冷蔵室に移すだけで、次にダンジョンから帰ってきた時には魔物の死体が素材になっているというわけだ。
それを俺はマジックバッグに詰めてギルドなどに換金にいけばよい。
いいじゃないか、金の匂いがしてきたぞ。ここまできたら素材の換金も誰かに任せたいが、マジックバッグがないと難しいか? ロレッタが今度はゴーレムに荷車などを引かせればいける気もするが、お金のやり取りもあるし危険かもしれん。
ロレッタのお手伝いの為の家事奴隷は必要なくなったかもと思ったが、この孤児院を運営していくための非戦闘用奴隷はやっぱり必要かもしれない。具体的には素材の取引が得意な奴隷だ。
そんな奴いるだろうか? むしろマジックバッグをもう1個買った方が、早いのかもしれない――。
この後、風呂から出て、食堂へと向かった俺は大変驚かされた。まるでずっとここで働いていたかのように、食堂をインプが飛び回って配膳している。
「あ、マコトさん。インプちゃんはとっても働き者ですね」
風呂上がりの俺を見つけたロレッタが声を掛けてきたが、インプへの指示も続けている。
「すっかりロレッタの部下みたいになってるけど、インプは役に立ちそう?」
「もちろんです。陛下が私の言う事をよく聞くようにとインプちゃんに言ってくれたので、凄くよく働いてくれてます。この子たちはとっても賢いですよ」
この調子なら魔物の解体も夢ではなさそうだ。
俺はワインと一緒に運ばれてきたグレーターバイソンステーキに舌鼓を打ちながら、そう考えた――――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます