第120話 ダンジョン 42階

 パーティーメンバーが増えて、レベルが上り、それぞれがスキルや魔法を覚えだすと戦術の幅が広がってきたと思う。


 今までは正面から殴り合う事が多かったが、これからは色々試して、少しでも安全に色々な魔物に対応できるようにしていきたいものだ。


 42階に到達――。


 この階はキラータイガーというトラが出てくるようだ。実際に遭遇してみると見た目はそのまんまトラであった。


 キラータイガーはグレーターバイソンに比べると慎重な性格らしく、いきなりこちらに向かって突進してくるという事はないようだ。


 それでもこちらに向かっては来るので俺が矢などを射かけるが、警戒しているのかあっさりと躱されてしまう。なかなか素早いのでまずは足を止めたい所だが、どうしたものか…………。


「ガレフ、まずはマッドスワンプで様子を見てくれ」


「了解じゃ、マッドスワンプ!」

 キラータイガーの前に沼地が現れた。道の中央に突如現れた沼地をキラータイガーは端に避けて通る。


「ソーンウイップ」

 陛下が右手を向けて唱えると茨(いばら)が手より吹き出しキラータイガーに絡みつく。


「ガレフ、今だ!」


「ストーンスパイク!」

 ガレフが呪文を唱えると、地面から鋭利に尖った岩が突き出し、キラータイガーの腹を貫通して突き刺さる。即死せずに、もがくキラータイガーに最後は陛下がブラッドソードで止めを刺した。


「いいぞ。マッドスワンプで行動範囲を狭める事で次の攻撃を躱しずらくして、ソーンウイップで移動を封じて、ド派手なストーンスパイクに繋げるという、見事なコンボじゃないか。でもガレフの負担が大きいか?」


「そうじゃな、魔物1匹仕留めるのに魔法を使いすぎかもしれん。ストーンスパイクは派手な分、疲労も大きいようじゃ。このペースで魔法を使って探索すると言うのは無理じゃな」


「まあ今は魔法のお試し中だから、こういう事もできるというのが解ればいいんだ。ずっと魔法を撃ち続ける必要はないよ」


「そうですよ。魔法も地面からシャキーン!ってなって凄かったですけど、次は私が魔物を叩きますよ!」

 モモちゃんが鼻息荒くメイスで自分の盾をガンガン叩いた。ユウもその後ろで無表情ながらも体がウズウズしている。脳筋コンビもやる気十分の様だ。


「じゃあ、次に出てきたらお願いするよ」

 俺はキラータイガーをマジックバッグにしまいながら返事する。こいつは毛皮が売れるらしいので、モモちゃんに解体して貰わなくてならない。もしかしたら、このアニマルゾーンは戦闘よりも終わった後の解体作業の方が大変なのかもしれないな…………。


 次にカレンがキラータイガーを見つけると、モモちゃんがウオーっとメイスを振り上げ突撃していき、ユウがその後ろについて行く。


 モモちゃんはキラータイガーにメイスを振り下ろすが、あっさりと躱されてしまう。しかし飛びのいたキラータイガーの着地点にユウが走り込み、キラータイガーの首を刎ねてしまった。


 どうもこのコンビの戦闘技術には差がありすぎるようだ…………。


 だいたいモモちゃんが自分で突っ込んでいって、上手くいっている所を見た記憶がない。相手が突撃してくる場合にモモちゃんは輝くのだと思う。


 モモちゃんはユウに向かってズルイと文句を言っているが、ユウは聞いていない。次の魔物を探している様だ。


 その後も何度かキラータイガーに遭遇して戦闘になったが、1匹だけしか現れないキラータイガーはユウと陛下の敵ではないようで、あっさりと切られて戦闘が終了する。


 モモちゃんも一生懸命メイスを振り回していたが、慎重で素早いキラータイガーにメイスを当てる事は出来ずにムキーッとなっていた。


 43階に到達――。


 この階からはグレーターバイソンもキラータイガーも複数混ざってあらわれる。こうなると急に忙しい。モモちゃんを突破されると俺たち後衛に魔物の攻撃が届いてしまうので、モモちゃんは突撃せずに魔物の突撃を跳ね返すように指示する。


 前衛と対峙して、そちらに気を取られている魔物には俺の矢でも、ガレフのストーンバレットでも躱されることはない。遠距離攻撃でダメージを与えたり隙を作る事で前衛を助け、なるべく早く戦闘が終わるようにする。


 43階でも大きな被害はなく安全に戦闘をこなすことが出来た。


 44階に到達したのでゲートより帰還する――。


 今日は探索者ギルドには寄らずに孤児院へと直帰する。帰ってから今日の獲物の解体をしなくてはならないからだ。


 正直、気が重い…………。デカイし量も多い。地下に解体部屋を作って貰ったので作業効率はあがっているが、解体作業は面倒だ。


 モモちゃんに任せてしまってもいいが、さすがにこの量を1人で捌くのは時間が掛かるだろう。自分たちではやらずに、そろそろ町の専門業者に任せてもいいのかもしれない。


 まあ急ぎではないので、今回は俺とモモちゃんで何匹か解体しよう――。


 地下の解体部屋に移動すると、獲物をかけるフックは3つ用意されている。今日の解体はグレーターバイソン3体にするかな。


 マジックバッグから取り出してモモちゃんにフックに掛けて貰う。俺では巨大な牛を1頭なんて持ち上げられない。


 血抜きはすんでいるのでその手間は省けるが、やっぱり大変そうだ。基本俺はお手伝いでモモちゃんに解体作業自体はして貰う。


「あれ? このお肉は変色してます」


 2体目のグレーターバイソンの皮を剥いだ時にモモちゃんが気付いた。確かにさっきとは肉の色が違う。なにやら不味そうな不気味な色をしている。しかしマジックバッグに入れていたので腐る訳はない。こいつは陛下が倒したグレーターバイソンだと思うのだが…………。


 あ、ヴェノムバグか? 毒バエにやられたグレーターバイソンなのかもしれない。そう考えると食べない方がいいだろう。


 そもそも、あの気持ちの悪い毒バエがたかった肉なんて持ち帰るべきではなかった――――。



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