第119話 血術

「うはぁーー。陛下かっこいいぜ! いいなあ、ブラッドソード。俺も欲しい!」


「カレンよ。お主は見る目があるな。見よ! ブラッドソードは様々な形に変えられるのだ!」


 そう陛下は叫ぶと右手より噴き出した血を大剣の形にしたり曲刀にしたりとカレンに見せつけている。陛下によって作られた血の剣はだんだんと複雑な形の剣になってゆき、最後はお土産屋さんで売っているキーホルダーの様な剣になってしまった。


「うおー、それが一番かっこいいぜ! 陛下! その剣で戦ってくれよな」


「ワッハッハッ。そうかカレンはこれがいいか。余もそう思っていたぞ」


 うーん…………、カレンのお気に入りは片刃だし背の部分がギザギザと波打ってて使いにくそうだけど、あんな形の剣で大丈夫なのだろうか?


 まあドラゴンが巻きついてないだけマシか。今思えば小学生の時に買った魔界のドラゴン夜光剣キーホルダーは実用的な形の剣ではなかったな。

 だが、カレンはああいうの好きそうだから教えないでおこう。


「マコトよ。次の戦いは余に任せてくれ。ブラッドソードの威力を見せてやるぞ」


 陛下は俺の返事も聞かずズカズカと先頭に立ち、カレンと一緒に歩き出してしまった。


 俺は慌ててグレーターバイソンをマジックバッグにしまう。大事な今日の夕飯だ。しかしダンジョンで解体作業をしなくて良くなったのは楽だな。さらに今回は陛下が血抜きまでしてくれたから、より美味しいお肉になったのではないだろうか。


「陛下、グレーターバイソンは突進してきて危険ですよ。モモちゃんに一度当ててから攻撃したらどうですか?」


 さっきユウがやったように攻撃するのが安全だろう。あのグレーターバイソンの突進をまともに正面から受け止められるのはモモちゃんだけだ。


「心配にはおよばん。余にも考えがある。色々試してみないとな」


「お、陛下。あっちにグレーターバイソンがいるぜ」

 さっそくカレンがグレーターバイソンを見つけたようだ。


「よし、カレンは下がっておれ」

 陛下はカレンを後ろに下げて、自分はズイっと前に出る。俺は万が一陛下が抜かれてもいい様にモモちゃんを前に出す。ガレフにプロテクトの魔法が切れていないか確認する。


 さあ、ブラッドソードの切れ味はどうだろうか? 俺たちは安全なモモちゃんの後ろから見守ろう。


 こちらに気が付いたグレーターバイソンが狂ったように突進してくる。レッサーバイソンよりも大きい分だけ迫力がある。あの勢いで来られると攻撃しても弾かれそうだ。


「ヴェノムバグ」


 陛下が片手を前方に突き出して、一言唱えると大量の毒バエが手のひらから吹き出し、グレーターバイソンに襲い掛かる。


 毒バエがグレーターバイソンの顔にまとわりつくと、あからさまに走る勢いが落ちた。グレーターバイソンは目も開けられない様で、真直ぐに走る事ができていない。


 そこに陛下が走り込み、上段から中二病丸出しのかっこいい形をしたブラッドソードで首元を切りつける。


 グレーターバイソンは首を切り裂かれ、血を吹き出しながら地面に倒れた。血しぶきを浴びて血濡れになった陛下がこちらに振りむく。


「見たか! ブラッドソードもなかなかの切れ味であったぞ。これなら我が愛剣のブリュンヒルドにも劣らないではないか!」


 血に濡れた赤黒い全身鎧に身を包み、禍々しい形の赤い剣を持ち、辺りには無数の毒バエが飛んでいる中で、ワッハッハッハッ! と豪快に笑う陛下の姿を見ると、俺は本当に職業でプリーストを選んだのだろうか? と考えてしまう。正確にはスケルトンプリーストだがそれでも見えないだろう。


 陛下の職業が魔王とかにジョブチェンジしてしまわないか心配だ…………。


「陛下! かっこよかったぜ」 カレンが駆け寄る。カレンの年齢では陛下の様な戦闘スタイルに憧れてしまうのは仕方がない事だろう。そういうお年頃だ。


 カレンはいいのだが、陛下は何歳なのだろう…………。威厳のある物言いから年配の王様を想像していたが意外と若いのだろうか? いや、正しく生きなければならないという王様の反動でダークヒーローに憧れがあったのかもしれない。


 まあ陛下がご機嫌なようなので、それがなによりだ。


「強かったですね。生物相手には闇魔法のヴェノムバグはとても有効みたいです。自分は絶対にやられたくないですね」


「うむ、そうだな。マコトよ。余も同じ考えだ。特に理性のない魔物は素直に目をつぶってしまうようだった。戦闘中に目をつぶるなど自殺行為だと言うのにな。次はダークミストを試してみるか」


「主人よ。ワシも新しい土魔法を試してみたいぞ」


「いいぞ。どんどん試してみるといい。でも陛下には今倒したグレーターバイソンの血抜きをまずお願いしたいです」


「なるほどな。任せておけ」

 陛下がグレーターバイソンの首元に手を突っ込み血を吸いあげる。


「今夜が楽しみですねえ」 

 確かにレッサーと比べてどれくらい味が違うものなのか楽しみだ。モモちゃんには地下で張り切って解体して貰おう。


 次を探して移動する――。


 また1体だけグレーターバイソンがあらわれた。どうやらこの階の魔物は1体ずつのようだ。


 こちらに向かって突進してくるグレーターバイソンに陛下が闇魔法をかける。


「ダークミスト」


 グレーターバイソンの姿が黒い霧に包まれ見えなくなる。


 ん? こちらからも見えなくなるのでは意味ないのではないだろうか? しかも走り続けているグレーターバイソンはそのうち霧を突破してくるだろう。


「マッドスワンプ」


 ガレフが杖を前に突き出すと黒い霧の手前に沼地が出現する。

 黒い霧を突破したグレーターバイソンは沼地には気が付かず踏み込み、足を取られて盛大に滑った。


「おお、上手くいったわい」

 ガレフは自分の思い通りにいったのだろう満足そうだ。確かに良いコンボだと思う。


「今のは良かったね。ダークミストだけでは突進を止められないし、マッドスワンプだけでも避けられてしまう。2つの魔法が組み合わさって良い効果が出た。魔物が複数の時はヴェノムバグよりもこっちの方が効果的かも」


「そうじゃな、今後使えるかもしれん」


 俺とガレフで魔法運用について話しているあいだにユウが沼で滑って転んだグレーターバイソンに止めを刺している。


 このパーティーもなかなか連携が取れるようになってきた。


 小細工などしなくても、モモちゃんなら力づくで魔物を止められるが、魔法を使った連携も今のうちに練習しておけば、きっとこの先は役に立つだろうと思う――――。




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