第118話 吸い込め!

 今日の夕飯には大量のパスタが並んだ。


 様々な色のソースで味付けされたパスタを前に子供たちの目が輝く。そして子供以上に目を輝かせているモモちゃんの姿もある。


「ご主人様、これは何ですか? とてもいい匂いがして美味しそうです。この赤いのはお肉の香りがしますね」


 どうやらモモちゃんはミートソースが気になるようだ。


「これはパスタ料理。ヒモみたいのがパスタだよ。その赤いのはミートソースパスタね」


「そうなんですね。それでどうやって食べるんですか? もうお腹が限界です」


「よし、みんな見ておけよ。これがパスタの食べ方だ。フォークですくって――。吸い込む!」


『ズゾーー!』


 うんうん、やっぱり麺料理は音が鳴るくらいすすった方がいいね。より美味しくなるよ。フォークでクルクルなんてしてられないな。


「さあ、みんな食べてみてよ」


『いただきます!』と一斉に食べだすが、子供たちとユウはうまく吸い込めない様で、苦労している。頑張って1本づつチルチルとすすっている様子が見える。


『ズゾーーーーーー!』


 良い音を立てている奴がいるなと見てみると――、さすがモモちゃん。

 パスタ一皿を一吸いで片付けている。吸引力が他とは違う圧倒的なパワーだ。


 俺も負けずとすするが、まあ勝負してもしょうがない。俺は味を楽しもう。


 先ほどキッチンで味見した時よりも美味しい気がする。何回か作る事でパスタ作りのコツを覚えたのだろう。粉と塩と水の配分など最初は適当だったので、ロレッタが調整してくれたのだと思う。


 これも料理スキルを上げたお陰なのだろう。料理の腕もあがり、レベルも上がったので力や体力もついて、ロレッタは今まで以上に孤児院に貢献してくれそうだ。


 しかし、このままロレッタの料理スキルを上げ続けて、もっと美味しい料理を! というのは欲が深すぎるだろうか――? 


 今日は十分美味しい料理が食べられたので、この辺で一度料理スキルを上げるのをストップしておこうと思う。なぜなら俺は万が一時間遡行が必要になった時の為にスキルレベルを上げる余地を残して置いた方がいいと思ったからだ。


 もちろん、時間遡行など使う事態にならない方がいいし、そもそも時間遡行というスキルが俺の役に立つのかは解らないが、何が起きてもいいように準備しておいたほうがいいだろう。


 しかし、様子を見ながら料理スキルを少しづつ上げていくというのも悪くない考えな気もする。

 慌ててどうするか今決める必要はないので、どちらも出来るように考えておこう。


 ご飯は美味しい方が良いに決まっている。


 今日は何種類ものパスタをお腹一杯食べて、非常に満足した。明日からは41階に挑戦しようと思っていたので、丁度良いタイミングで活力を貯められたと思う――。


 次の日――。


 パーティーメンバー編成を改めて組み直してダンジョン41階へと向かう。もちろんメンバーは俺、モモちゃん、ユウ、陛下、ガレフ、カレンの6人だ。


 41階からは情報が少ないが、魔物に関してはアニマル系が出てくるようだ。牛、虎、羊、などが出てくるという事が書いてあった。


 道に関してはカレンにお任せだ。俺は今回マップとにらめっこする必要がない。俺とは違ってカレンは初めての場所でも地図を見ながらスイスイと進む――。


 しばらく進むとグレーターバイソンが現れた。15階に居たレッサーバイソンよりも一回り大きく色が黒い。味もレッサーバイソンより良いらしいので、今日の夕飯が楽しみだ。


 さっそくこいつに会えたのは幸運だろう――。


 こちらに気がついたグレーターバイソンが猛然と突進してきたので、慌ててカレンが後ろに下がり、モモちゃんが前に出る。


 鉄のタワーシールドを悠然と構えたモモちゃんは頼もしい。安心して見ていることが出来る。グレーターになったとは言え、バイソンごときにやられるとは思えない。


 案の定、突進してきたグレーターバイソンはモモちゃんに跳ね返され、仰向けにひっくり返される。


 モモちゃんの後ろからスッと出てきたユウがグレーターバイソンの首を切り、盛大に血しぶきがあがった。


「む…………。血だな」


「血ですけど、陛下どうしました?」


「余は興味ないのだが、この鎧が欲している様でな」


「鎧ですか?」


 陛下を皆が見守っていると、陛下はユウによって切り裂かれたグレーターバイソンの首におもむろに右手を突っ込みだした。


 陛下の右腕はズブズブとグレーターバイソンの首に沈んでいく。吹き上げていた血しぶきが収まり、いつのまにか辺りに吹きあげて地面に血だまりとなっていた血もなくなっている。


 徐々に陛下の鎧の色に変化が起きた。先ほどまでは乾いて固まった、どす黒い血の様な色であったが、なまめかしい艶が出て赤みが増してきた。鎧の色は先ほどバイソンの首から吹き上がっていたような血の色へと変わる。


「ふむ、この鎧はずっと血を欲していたようだな。たっぷりと吸い上げて喜んでいるようだぞ」


 そういえば、そうだった。この鎧を買うときにお店のお姉さんが教えてくれた。この鎧は装備者の血を吸うのだった。どうやらグレーターバイソンの血を吸い上げたようだが装備者の血でなくても、誰の血でも良かったと言う事か。


「おお、これは良いぞ」


 陛下の興奮した声がダンジョンに響く。陛下の手から血が噴き出すが、板状に固定されて地面には落ちない。陛下はそれをブンブンと素振りする。ん、素振りじゃないな。

 これは剣舞か?


「よしよし、余は気に入ったぞ。ブラッドソードと名づけよう。これでこの安物とはおさらばだ」


 そういうと陛下は銅の剣を俺に渡してきた。よっぽど銅の剣は嫌だったらしい。確かに安物だが役に立っていたと思うのだが…………。


 どうやらこれが鎧に付いていたスキルの血術の様だ。

 店員さんの言っていた血を操れると言うのは本当らしい。


 だが、はたしてブラッドソードは銅の剣よりも切れ味がいいのだろうか――――。



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