第117話 新レシピ

 俺はこちらの世界に来てから、まだ出来ていない事がある。


 それは麺をすする事だ。


 どうしても麺が食べたくなってしまった。ソバでもウドンでもラーメンでもパスタでもソーメンでも何でもいいから、すすりたい!


 ズゾー! って音を立てて、すすって食べたいのだ。

 何かロレッタに教えられるレシピはないかなと考えていたら思いついてしまった。


 そういえば麺を食べてない! と


 しかし、この世界では音を立てて麺をすする行為はマナー違反なのだろうか?

 日本でしか有り得ないという事を聞いたことがあるが、こっちに来てから麺を見ていないので解らない。


 台所に行って、ロレッタに聞いてみよう――。


「あ、マコトさん。ダンジョン探索に連れて行ってくれて、ありがとうございました。私は何もしてませんけど、何だか強くなったよう気がします」

そう言いながら腕を曲げて力こぶを見せつけてくるロレッタ。もちろんコブなどできていない。


「同じパーティーメンバーに入ってダンジョンにいけば、何もしなくても成長するから大丈夫。実際に強くなってると思うよ。ところでロレッタは麺料理って知ってる?」

ロレッタのプニプニの二の腕も気になるが今は麺だ。


「メンですか? それはどんな物でしょうか? え、ひも状の食べ物? ひもは食べないと思いますよ」


 どうやらロレッタは麺を知らない様だ。ロレッタが知らないという事はこの町には麺類はないと言う事になる。これは俺がこの町に麺料理の概念を伝える事になりそうだ。


 そうすると、麺とはすすって食べるものです。と俺が言い切ってしまえばマナー違反とは言われないはずである。


「それじゃあ、作ってみよう」


 ロレッタに声をかけて誘ってみたものの、さて何を作ろうか――?


 あ、醤油がないとパスタ以外を作っても、味付けできない…………。

 本当は簡単そうなウドンを考えていたのだが、醤油もダシもないと食べれないな。


 そうするとパスタか。

 パスタとウドンの違いは小麦粉の種類だけだったはずだ。中世ヨーロッパっぽいこの世界の小麦粉を使って、ウドンを作ればパスタになるはず。パスタなら卵を混ぜて平打ち麺とかにするとウドンにもパスタにもありそうな形になるだろう。


 塩加減が解らないが最初は適当な分量で塩水を作って、小麦粉に卵を落として少しづつ塩水を混ぜて、スイカくらいの団子を作って手でこねる。


 ロレッタは手でこねるのは大変だろうから、足で踏むように教えた。俺の手でこねるより、ロレッタの可愛いアンヨで踏んだ方が美味しくなるはずだ。


 良くこねたら少し寝かす。その間にソース作りをロレッタに教えよう。


 作り始めてみるとパスタ料理の材料は揃っているようだ。トマトなどの野菜や肉はあるし卵とチーズなどの乳製品もある。


 まずはロレッタにシンプルなトマトパスタの作り方を教える。本当はオイルにニンニクをたっぷり効かせて唐辛子もいれて辛くした方が好みだが、子供も食べるからごくごくシンプルなレシピ。でもこれにナスなどの野菜やベーコンを入れて、チーズをかけて食べると美味しい。


 次にミートソース。と言っても、ひき肉はないのでボロネーゼっぽい感じだが、野菜も肉もみじん切りにして炒めて赤ワインとトマトでグツグツすればできあがり。


 あとはカルボナーラ、生クリームはないので卵とチーズとベーコンだけで、これで十分美味しい。火をいれすぎないのがコツだ。


 さらに牛乳を使ったクリームパスタ、地下でキノコが取れたらキノコクリームもいいし、鶏肉でもおいしい。


 ミートソースができたらラザニアも作れる。ベシャメルソースはすでにロレッタは作れるので、シート状のパスタとミートソースとベシャメルソースとチーズをミルフィーユ状に重ねてオーブンで焼けば完成。


 寝かせたパスタはウドンの様に伸ばして折りたたんで包丁で切る。フィットチーネっぽくなったから、これでいいだろう。ラザニア用にシート状のパスタも用意した。


 思いつくままにロレッタにパスタ料理を教えていく。レベルが上がり、料理上級となったロレッタシェフは俺の教えたレシピを完璧にマスターしてしまった。


「凄いよ、ロレッタ。もうすでに教えた俺よりも上手だね。今日はパスタ料理の基本を教えただけだから、後は自分で自由にアレンジしてくれ。パスタの形もひも状でなくてもいいんだ」


「パスタ料理と言うのですね。とっても美味しいです。子供達もこれなら喜んでくれると思います。どうしても料理のレパートリーが少なくて困っていたので、教えて頂けて助かりました。でも、今日はなんだか自分の手ではないみたいにスムーズに動いてビックリしてしまいました。このパスタ料理のアレンジもドンドン思いつきます」


「おー、それは良かった。これは毎日の夕飯が楽しみだね。また何か思いついたら料理のレシピを教えるからレパートリーを増やしていくといいよ」


「はい、私も料理が楽しくなってきたので、もっと色々と教えて頂きたいです」


 俺も一通り味見してみたが、スキルの効果が反映されているのか、どれも美味しかった。初めて作った料理でこの味なら、これからもっと美味しくなっていくのだろう。


 ロレッタがパスタを極めたら次は何を教えようか? 


 俺もレシピを思い出しておかなければならないが、米やら醤油、味噌などがないと日本食は難しい――――。



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