第115話 ハント
署長はとにかく目立つので、孤児院を出発する所から身隠しのマントを着てもらう。署長がゴソゴソとマントを着ている間に俺はロレッタと話す。
「ロレッタ、署長はジレットを生きて捕まえて拷問するつもりみたいだから、殺さない方が良いみたいだぞ」
「そうなんですね。この目で死ぬところを確認できないのは残念ですが、解りました」
ロレッタは心底残念そうに呟くとユウの元に走っていった。
ロレッタはユウに対して何か指示を出している様だ。『殺しちゃだめよ』とでも言っているのだろうか? そういえばユウは俺の奴隷のはずだが、ロレッタやカレンの言う事を良く聞く気がする。もしやロレッタはユウに『隙あらば殺せ』とか命令していたとか…………。そうだったら、ちょっと怖いな。
マントを装備できたようなので出発する。他のパーティーメンバーである5人は署長の姿を認識する事ができているようだ。
今もロレッタのすぐ後ろを歩く署長を俺は見る事ができる。しかし町人は署長の存在には気が付いていないようだ。身隠しのマントは正常に作動している様に思える。
北門に着いた我々は最初に陛下から門の外に出て行き、続いて俺とユウも出ていく。陛下には何かが起こるまでは後ろを振り向かない様に言ってあるので、陛下もユウもこちらを向くことはない。
しばらくするとロレッタと署長が門から出てきた。前回とは違い周囲の人間が署長の姿に反応することはないようだ。これなら大丈夫であろう――。
だいぶダンジョンに近づいてきたので、そろそろ現れるのではないかと確認すると――
『オロロロロロロロ』
署長が盛大に吐き散らかしている! まだ昨日の酒が抜けていなかった様だ。ロレッタは大丈夫か? ロレッタは後ろを振り向かないように我慢しながら歩いている様に見えた。
その時、俺の前を何かが横切る。俺は一瞬の事で何も反応できずに突っ立っていると――。
『パシッ!』 乾いた音が響き、署長のムチが見知らぬ男の足に巻きついた。男はたまらず地面に転がる。いつのまにか近づいていたユウが男の首筋に剣を当てた。署長は口元を片手でおさえながらムチを引いている。
「ゥェ……。とうとうジレットを捕まえる事ができたわ」
ということは、今俺の目の前に転がっているこの男がジレットなのか? よく見ると手配書に書かれた風貌に良く似ている。
「いきなり何しやがるんだ! 俺はちょっと急いで家に帰ろうとしていただけだぜ!」
どこから現れたのか解らなかったが、確かにこいつはまだ何もしていない。ロレッタに向かって走っている最中に署長のムチが炸裂した。
「お前はジレットだろ? バウンティーハンターギルドまで来て貰うぞ」
俺は地面に転がったジレットに声を掛けた。
「お前らバウンティーハンターか? 俺の懸賞金はいくらなんだ? 金なら倍払うぞ」
「お前の懸賞金は金貨10枚だ。でもな、前を見てみろ。お前をムチで捕まえたのはバウンティーハンターギルドの署長だからな。買収できると思うなよ」
俺は用意してあったロープを取り出してジレットを縛りあげる。
「クソ、たった金貨10枚で捕まっちまうのかよ。だいたいあの女署長は何処に居たんだ? あんな派手なのが居たなら、俺は手を出すはずがないぞ。昨日だって女署長がウロウロしていたから俺好みの女がいても我慢したんだ。またノコノコ現れたから今日はチャンスだと思ったのに……。まさか罠だったのか? わざわざ俺なんかを捕まえるために?」
「そうよ。あんたの為にとびっきりの別嬪さんを用意したんだからね。ありがたく思いなさいよ」 ムチを手繰りながら署長が近づいてきた。
「署長さん! 頼む! 見逃してくれ! 俺にはまだやらなきゃならない事があるんだ」
「ダメよ。あんたは女の敵なんだから、野放しにして置くと碌でもない事しかしないわ。これからギルドで今まで何をしたか、仲間がいるのか、じっくり聞いてあげるわ。全ての情報を絞りだしてもらうからね。最後にあなたは自分が知らない事まで話すようになるのよ。でも、もちろん嘘はダメ。テミスの天秤で嘘だと解ったらおしおきだからね。今から私が気に入りそうな話を思い出しておきなさい」
署長は冷めた顔でジレットに言い放つと、俺に縛られたジレットをヒョイと肩に担いだ。
「そう言う訳だから、祝杯はまた今度にするわ。私はこれから3日くらいギルドに籠ると思うから祝杯はその後ね。懸賞金と土産話を持って孤児院に遊びにいくから待っててちょうだい♥」
「解りました…………」
俺が返事をすると署長はウキウキと町へ戻ってしまった。そんなに楽しみなのだろうか? 怖すぎる…………。俺が呆然と署長の後姿を眺めているとパーティーメンバーの皆が集まってきた。
「見学させて貰えませんかね?」
「子供には見せてくれないと思うよ」
俺はジレットがこれからどんな恐ろしい目に合うのか知りたくもないが、ロレッタは興味津々のようだ。とても見せる訳にはいかない。
「それじゃあ、署長がどんなお土産話を持ってきてくれるか楽しみに待ってます。期待しちゃいますね!」
さすがの署長も子供に、こんな拷問したらこんな反応して笑えた。みたいな話はしないと思うのだが、大丈夫だよね? ロレッタの期待を裏切ってほしい。
「しかし、ジレットはどこから現れたのだろうか? まったく気がつかなかったよ」
「私もいつも気が付いたら担がれてしまっているので、今回も署長がムチを巻きつけるまで気が付きませんでした。私は後ろで署長が嘔吐している音がしていたので、そっちを心配していたのですが、杞憂だったみたいです」
「最悪のタイミングでゲロ吐き出したのに、よくジレットに気が付いたよね。さすがバウンティーハンターギルドの署長なのかな」
「うむ、あの女はなかなか腕がたつな。余も嘔吐の音で振り返ったが、ジレットには気が付かなかった」
今回のハントは署長が居なかったら厳しかったかもしれない。唯一ユウが反応出来ていたようだが、はたしてユウだけで捕まえられたかは解らない。
しかし、これで安心してロレッタをダンジョンに連れていく事ができる。
パワーレベリングで何レベルまで上げられるだろうか、楽しみだ――――。
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