第114話 ダンジョン?

「おお、マコトよ。今日もいい湯であったぞ。マコトも入ってきたらどうだ? 客人の相手は余がいたそう」 風呂上がりの陛下はスケルトン丸出しだ。


「? ? ?」 警戒しながらも署長の頭上にハテナマークが飛ぶ。


「署長。彼は私の奴隷です。ワインの管理は彼がやってくれているので、ワインセラーの案内は彼に任せようと思います。くれぐれも署長に失礼のない様に頼むよ」


「うむ、任されたぞ。さあこちらに来るが良い。余が案内いたそう」


「スケルトンってワイン好きなのかしら……。 え? ついて行って大丈夫なの?」

 さすがの署長も戸惑っているようだが、俺がうながすと首をかしげながらも陛下の後について行った。


 もうあとは陛下に任せて俺は風呂入って寝てしまいたいが、そういう訳にもいかないだろう。とりあえず風呂には入るが、またあとで顔を出さなくてはいけない――。



 風呂から出た俺はワインが置いてある場所へと向かう。きっとあそこがワインセラーのはずだ。


 近づくにつれて何やら騒がしい。

「ワッハッハッハッ」 陛下の笑い声が地下に響き渡る。


「盛り上がっているようですね」 

 俺はワインセラーにいた3人に声をかけた。ガレフも参加していたようだ。


「おお、マコトよ。この女性はなかなかの強者だぞ。王宮騎士団に迎えてやろう」


「あら、素敵な申し出ね。でも私はバウンティーハンターギルドが気に入ってるからダメよ」


「ワッハッハッハッ。振られてしまったぞ!」


 陛下はめちゃくちゃご機嫌だな。何があったのだろうか? 署長に失礼がなければよいが、でも署長もニコニコと機嫌良さそうにワインを飲んでいるので、大丈夫そうだ。


「ガレフ、ずいぶん楽しそうだが何があったんだ?」 俺は小声で聞いてみた。


「ワシもさっき来たばかりで分からんが、すでに盛り上がっておったぞ」


 2人の方を見ると立てたワイン樽をテーブルに向かい合い、立ち飲みで何やら熱心に話し込んでいる。どうやら酒の話をしているようだ。


「2人は放っておいても良さそうだな。ところで署長の寝る所ってあるかな? 泊っていくとか言うかもしれない」


「地下でいいなら、空き部屋はあるぞ。寝具は使ってない陛下のベッドならあるんじゃが」


「それで十分だ。一応用意だけしておいて、帰ると言うなら帰ってもらって、泊ると言うなら空き部屋に案内してあげてくれ」


「了解じゃ。それなら客室を作ってしまおう」 ガレフは頷くと奥へと去っていった。


 後は陛下とガレフに任せて大丈夫そうだな。


「それじゃあ、署長。ごゆっくり。でも明日もあるので飲みすぎないようにしてくださいね」


 挨拶をして地上へと戻る。俺は寝てしまおう。今日も疲れた――。



 朝起きてから陛下を探して確認するとやっぱり署長は泊っていったらしい。その署長は朝日が昇ってからだいぶ経つがまだ起きてこない。


 昨晩は2人でワインを1樽あけて、署長は朝方ベッドに入ったらしい。陛下はもちろん一睡もしてないそうだが、二日酔いもなく元気そうだ。はたして署長は起きてこれるのだろうか?


 陛下は署長にワイン代としてお小遣いを貰ったらしく、またワインを買いにいかねばと嬉しそうであったが、浮かれた陛下に俺は夜中に裸で庭をウロウロしないようにだけ、忘れないうちに注意しておいた。


 朝食を食べたが、まだ署長は起きてこない。機嫌を損ねても嫌なので、そっとしておく――。


 暇になってしまったので、俺は地下に自分の部屋を作って貰おうとガレフと相談する事にした。キノコエアコンが効いた地下は地上よりも快適になっている。


 実際に地下に降りて、階段にも風呂にも近い場所を俺の部屋にとガレフに指示する。部屋にはベッドと文机と本棚やクローゼットが置ければよいだろう。


 などと相談していると――。


『ガシッ!』 背後から首に腕を回され、肩を組まれた。最近、味わったばかりの感触だが――、臭ッ!! 酒クサッ!


「ちょっと飲みすぎちゃったわ。頭痛い……」 

 署長に耳元で話しかけられた。よけいに匂う。


「大丈夫ですか? いま水を持ってきますよ」

 水を口実にこの場を離れようとしたが、逃げられない! どうも腕を放すつもりはなさそうだ。署長にその気がないなら、俺は諦めるしかないと思う。


「このままリビングまで行きますか?」


「ええ、お願い…………ォェ」

 熱い吐息が背中にかかる。さいわい気体だけで液体は逆流してこなかったようだが、次は危ない。急いでリビングに移動しなくては…………。


 俺は署長に肩をかして地下から地上へ階段を上る。ガレフは先に行かせて水の用意を頼んだ――。


 なんとか無事にリビングにたどり着き、水を飲ませて落ち着かせる事ができたが、今日これからバウンティーハントにいけるのだろうか? 昨日はもっと強引にでも酒を飲ませるのを途中で止めておけば良かった。


「さあ、ジレットを捕まえに行くわよ」 真っ白な顔をした署長がゆっくりと立ち上がる。


「署長。今日は辞めておいた方がいいですよ。その体調では難しいと思います」


「大丈夫よ。だいぶスッキリしてきたわ。あとは昨日の冷えたエールを飲めばもっとスッキリするはずよ」


「ダメですよ。これからバウンティーハントするなら、もう飲ませません――。ガレフ! エールを取りに行かなくていいからな」

 なぜガレフは当たり前のように地下に向かおうとするのか…………。


「あら、ケチね。じゃあ、さっさとジレットを捕まえて。祝い酒といきましょ」

 冷えたエールは冗談じゃなかったのか…………。


 署長はやる気なようなので、俺はあわてて準備する。と言っても、人を集めるだけだ。今日は陛下にも手伝ってもらおうと思う。配置はこうだ。



      陛下


 ユウ  ロレッタ  俺

      (署長)


     モモちゃん

 ーーーーー北門ーーーーー


 ロレッタのすぐ後ろに身隠しのマントで隠れた署長を配備。署長だけでも捕まえられそうだが、念のために周りを囲っておいた方がいいだろう。特に今日は署長の体調が悪い。何かやらかしそうである。


 今日もロレッタには串肉を買って来てもらう。幼女が串肉を買ってくるようにおつかいを頼まれたという設定だ。ロレッタがこれがいいというので間違いないだろう。


 あとは俺たちが怪しまれなければジレットは出てくるはずだ――――。



 


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