第108話 ロレッタの復讐 1

 俺はそっとバウンティーハンターギルドの扉を開けて中を覗いてみる。

 署長の姿は見当たらないようだ。あのミニスカポリスの様な変な格好の女がいれば、すぐに解るはずだから署長はロビーには居ないのだと思う。


 考えてみれば署長の身分の人が、受付のあるロビーに居る事の方が少ないのではないだろうか? 考えすぎだったのかもしれない。


 俺たちはギルドの中に入り、手配書の張られた壁へと移動した――。


「どれが、例の男なんだ?」 

 ロレッタの事を町の外に出るたびに、毎回さらう変態ストーカーはどいつだろうか?


「こいつです」


 *WANTED*

 DEAD OR ALIVE


 ジレット


 金貨10枚


 リアルな似顔絵付きの手配書が貼られている。名前はジレットで懸賞金は金貨10枚のようだ。似顔絵を見ると細長い顔に髭を生やした優男のようだ。あまり犯罪者のようには見えないな。探索者ギルドのたむろしているオッサンの方がよっぽど怪しい見た目をしている。


「あんまり悪そうな奴には見えないけど、毎回こいつなのか?」 

 俺はこっそりとロレッタの耳元で尋ねる。


「ええ、毎回このジレットという男です。どこかで見張っているのか私がダンジョンに近づくと、この男が走ってきてそのまま攫われてしまいます。走るのが異常に速いのです」


「まさかロレッタが町から出てくるのを見張っているのか?」


「いいえ、獲物を物色する為に見張っているのでしょう。獲物は私じゃなくても良いはずです。ジレットは町の中に入れないはずなので、私の事は知らないと思います」


 とりあえず似顔絵を良く見て、ジレットの顔を覚えておこう。ダンジョン付近でこいつを見つける事が出来れば。あとは捕まえるだけだ。しかし、この似顔絵は良く出来てるな。その手のマジックアイテムか似顔絵スキルでもあるのだろうか――。


「ちょっと、あなた達! ジレットを捕まえるつもり?」


 突然、背後から『ガシッ!』と首に手を回され、肩を組まれた。

 動くことができない!

 この首を固定される硬い感触と、背中に当たる柔らかい感触は覚えがある。


 俺たちが手配書を見ているうちに、いつの間にか署長が背後に来ていたようだ。


「ええ、そのつもりですけど――。ちょっと署長、首が苦しいです」


 話している間にも俺の首がグイグイしまる。この人は距離感とか力加減とかが、ぶっ壊れすぎてて苦手だ。頭ん中どうなってんだ? 


「ご主人様から離れてください」 

 モモちゃんが署長の腕を掴んで引き離そうとするが、スレンダーな署長をなぜか動かせない。


「あら? あなたを見た事がある気がするけど、ギルド員ではないのよね?」

 至近距離で顔をジロジロと見られた。近すぎて見づらいと思うのだが…………。


「私は探索者ギルドのマコトと言います」


「あ、思い出したわ。たしかザイードを捕まえてくれた子よね」

 署長はやっと俺を解放してくれた。モモちゃんも全力ではないと思うが、彼女に力で抵抗できるとは恐ろしい女性だ。


 そして相変わらずのミニスカポリス。ここの職員は男も女も全員がポリスマンの様な格好をしているので解りやすくていい。ドーナツとか好きそう。


「それで、今度はジレットを狙っているのかしら? あのクソ野郎を捕まえるのは、大変よ? まさかその小さい子を囮に使う訳ではないわよね?」


「いえいえ、このロレッタはジレットを見た事があるというので、捜索を手伝ってもらうだけです。この身隠しのマントで隠れて行動するのでロレッタは安全ですよ」


「ジレットを見かけて無事だった女の子なんて珍しいわね。ただジレットは普通に探しても見つからないわよ。高価なマジックアイテムを使って、そのロレッタちゃんを連れ回しても同じよ。顔なんて似顔絵があるのだから誰でも解るわ。町の近くに潜んでいるはずなのに見つけられないから、まだ捕まっていないのよ」


「なぜ、町の近くにいるって解るんですか?」 

 見つからないなら、そこには居ないって事ではないのか?


「被害があるからよ。目撃情報もあるわ。あのクソは自分よりも弱い女や子供しか狙わないけど、まっ昼間でも堂々と攫っていくのよ」


 また俺の考えが甘かったか……。そう言う事なら、ただ町の周りを俺たちが見回っても、ジレットを見つける事は出来ないのだろう。簡単に見つかるならバウンティーハンターギルドの人がとっくに捕まえているはずだ。


「私が囮になります! 元々そのつもりでしたから、問題ないです」


「何を言ってるんだ? そんな危ないことをさせるつもりはないぞ」

 ロレッタが急にとんでもない事を言い出したが、俺はロレッタを危険な目に遭わせてまでジレットを捕まえようとは思わない。


「私はジレットを野放しにしておきたくありません。マコトさんは私を守って下さるんですよね? それなら何も危ないことはありません。私がジレットをおびき出せればマコトさんが捕まえるでしょう」


「いいわぁ! ロレッタちゃん、あなたはとても素敵よ! まだ小さいのに勇敢だわ。このマコト君があなたを無理やり囮にしようとしているなら止めたけど、あなたが自ら囮になるというなら止めないわ。そして私もロレッタちゃんを守ってあげる! けっして危ない目に遭わせる事はないから、安心して!」


 署長がロレッタを抱えて頬ずりしている。

 ロレッタのほっぺはプニプニだからなぁ。頬ずりしたくなる気持ちは解る。

 しかし、これは署長も一緒に行く感じか? どうしてこうなった?



『バーニィをパーティーに加入しますか?』


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