第107話 ロレッタの歴史

「この辺も治安が悪いって聞いたけど、1人で出歩いて大丈夫なのか?」


「はい、町の中は大丈夫ですよ。何が危ないかは解っていますし、襲われたことはないですね。町の外には町の中に入れないほどの犯罪者がウロウロしていますので、治安が悪いなんてレベルではないです。それでも孤児なんて襲ってもお金持っていないので、意外と男の子は大丈夫なのです。それでも子供だけでダンジョンに行くなんて、本当は自殺行為なのだけど、稼ぎがないと弱い子から死んでしまうので…………」


 あぁ、確かにダンジョンの周りで野営している奴らは薄汚くて、目がギラギラしていて怖かった。


 金がないから町の中に入らないのだと思っていたが、実は町に入りたくても入れない犯罪者だったかもしれないということか…………。


 門番さんの仕事はそういった犯罪者から町を守っていたんだな。


「その自殺行為のダンジョン探索なんですが、今回のループではカレンが運よく1人で生き残っていたのです。他の子たちが死んでしまった後も大人のパーティーを手伝ったりして、何故か稼ぐことができていました。こんなことは今までなかったのですが、それでいつもより長く生きることができた様です。さらにそのおかげでマコトさんにも会えた様に思います」


 カレンはダンジョンの中で何か奇跡的な事が起きて、幸運スキルを覚えたのだろうか? スキルを取得したタイミングは解らないが、幸運スキルのおかげで、生き延びて、孤児院を存続させて、俺と出会えた、という事なのだろう。


 もちろん双子の2人が諦めずに努力を重ねたからでもあるが、努力だけでは解決できない事もある。双子がそろって生き残るには100回以上死なないと巡り合えないほどの運が必要だったのだ。


 今後は幸運スキルのレベルも上がって、天運などという偉そうなスキルになってしまったから、この双子に不幸が訪れる事はもうないだろう。


「そうだったのか、長いこと大変だったな。まあ、この先は大丈夫。もうロレッタが3歳に戻る事はないと思うよ」


「はい! マコトさんが守ってくれるというお話でしたものね。何百年もの間に私たちを守ってくれると言ってくれた人は居ませんでした。しかもダンジョンで体も鍛えてくださるなんて夢のようです。これで病気になることも減るかもしれません。そして、ついに私も町の外に出れる!」


 大人が誰もこの子たちを保護しようとしなかったのか…………。この町には教会があって、一応孤児院もあるのに肝心な子供を守ってあげる大人がいないという事は、子供たちを大人まで育てるつもりがないのだろうか?

 教会の目的は寝床を用意してあげて、町で孤児が目につかないように隔離するだけなのかもしれない。そうすると俺の院長としての役割とは…………?


「あ、私を襲った変態が現れたら殺してくださいね」


 急にロレッタが見た事ない顔になった。凄く怖い…………。


 可愛いロレッタを今とは違う時間軸で襲った奴が、また今回のループでも襲ってきたら当然返り討ちにしてやるが、今回はロレッタに身隠しのマントを着てもらおうと思うので、そいつと出会う事はないだろう。


「ダンジョンに行くときはカレンからマジックアイテムの身隠しのマントを借りるから大丈夫だよ。もし、その男が町の外に居てもロレッタには気が付かないと思うぞ」


「マコトさん、私はあの男を許すことが出来ません。チャンスがあれば積極的に復讐したいと思っています。それにあのような男が町の外とはいえ野放しになっているというのは良くありません。犠牲者を出さないために早めに駆除しておくべきです」


「向こうから襲ってくれば返り討ちにできるが、まだ何もしていない男をこっちから探し出して殺すと言うのは難しいと思うぞ」


「大丈夫です。マコトさん。あの男にはすでに懸賞金がかかっています。バウンティーハンターギルドで見てきたので間違いないです。デッド オア アライブとなっていたので、生死を問わず死体でも構わないようでした。あの男は非常に素早いので生け捕りは難しいとのギルド側の判断でしょう」


「懸賞首なのか、それなら探して捕まえてもいいな。その方がロレッタも安心してダンジョンに行けるだろう」


 ロレッタはバウンティーハンターギルドまで行ったのか…………。凄い執念だが、いつから復讐を考えていたのだろうか? でも、この町で周回して何百年も生きているのなら復讐の準備くらいしてあっても、おかしくはない。


「ロレッタがバウンティーハンターギルドで確認したのはいつなんだ? 今回か?」


「以前のループでも懸賞首になってましたが、ちゃんと今回も確認してあるので大丈夫ですよ。でも一応まだ懸賞が掛かってるか確認した方がいいとは思います。もうすでに捕まっていたら無駄足を踏ませてしまいますので、でも捕まったという話は一度も聞いた事がありませんよ。あの男は逃げ足が速いのです」


「じゃあ、バウンティーハンターギルドに行ってみるか」


 料理の下ごしらえが済んだところで、バウンティーハンターギルドに懸賞金が書かれた手配書を見にいってみる事にした。前に行ったときは署長が強烈な人だった事しか覚えていないが、ギルドの壁に似顔絵付きの手配書が貼ってあったらしい。


 ロレッタがユウも連れて行きたいと言うので、俺とモモちゃんとロレッタとユウの4人でバウンティーハンターギルドに向かう。

 ただ、あの署長にエンカウントすると面倒なイベントが発生しそうなので、できれば会いたくないと思う。


 署長室とかに引っ込んでくれていれば、ササっと手配書だけ確認して賞金首を探しにいきたい所なのだが――――。



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