第104話 ダンジョン41階 準備 2

「よし、そう言う事だ。もう行っていいぞ」


 何がヨシなのかは解らないが、ギルド長の話は終わったようなので、俺たちは挨拶をして部屋を出る――。


 まいったな……。そんな噂がたっているとは…………。

 まあ噂と言うか、スケルトンが夜な夜な庭を徘徊していると言うのは事実みたいだが……。


 孤児院の壁はそれなりの高さがあるから、壁をよじ登らなければ外から庭は見えないはず。問題は門が鉄格子なので、門を閉めていても入り口からは庭が丸見えだ。


 井戸のある建物の裏側なら門のある入り口からは見えないはずなので、そちらで陛下には月光浴とやらをして貰おう。


 料金を払って図書室に入る――。


 41階以降の調べ物をしなければならない。カレンはマップを、俺は魔物について調べ始めた。

 モグラ親子は本が好きらしく、色々な本やレポートに目を通している様だ。

 モモちゃんは図書室に入り、椅子に座ると即座に目をとじた。どうやら最初から昼寝をしに来ている様である。


 調べだしてすぐに解った事だが、今までに比べて圧倒的にレポートの量が少ない。ここまで来ている探索者が少ないのかもしれないが、それにしても情報量が少ない気がする。


 さらに調べていくと、どうやら49階で探索は終了しているようだった。今までのパターンでは50階にボス部屋があると思うのだが、なぜか49階にボス部屋があり、そこを突破した探索者はまだ居ない様である。


 49階のボスはミノタウロス。斧を持った2足歩行の巨大な牛らしい…………。


「院長。49階までしかマップがないぜ。しかも41階からはマップが完全に埋まってないみたいだ。一応先に進めるルートは書いてあるけど、そのルートから外れると未探索みたいだぜ」


 マップを見てくれているカレンの方も49階までしか記載がないと言う事なので、やはりここが最終到達点という事なのだろう。


 そうなると良く考えなくてはならない。この先に進むのは未知のリスクがあるという事だ。未探索のエリアから、まだ報告のない魔物が出てくるかもしれないし、そもそもミノタウロスを誰も倒せてないという事は相当強いのだろう。


 もし、これ以上進むのを辞めるとなると俺たちはウッドゴーレムで稼ぐことになりそうだ。あれはうちのパーティーと相性が良い。魔石は換金率も悪くないのでリスク少なく稼ぐことができそうだ。


 しかし、レポートを読み進めると41階以降に出現する魔物の中にスリーピングシープという羊の魔物がいるらしい。


 これは倒せば羊毛が取れるのではないだろうか?

 羊毛があれば今使っている藁(ワラ)布団をランクアップして羊毛布団にすることができる。中身を詰め替えるだけだから簡単だ。

 藁布団はチクチクして寝心地が悪いし、朝方に冷えてくると藁布団の保温力ではちょっと寒いと思っていたので、ぜひとも羊毛布団は欲しいところだ。


 41階以降は未知の部分もあるが、とりあえず羊毛をゲットするまでは進んでみようと思う。進めばもっと良い狩場も見つかるかもしれないのだ。


「カレン、行ける所まで行って見ようと思うが、どうだろうか?」


「ある程度はマップも埋まってるし、次の階段までの道順も書いてあるから問題ないぜ」


「それでは、もう少し先に進もうか」


 危険だと判断したら戻ればよい。まだ戦力的に余裕がありそうなので、大丈夫だろう。


 次はモモちゃんを起こして、奴隷商に向かう――。


 ここで大きな声で言いたいのは不純な目的でメイドを買うのではなく、孤児院にとって家事などのお世話をしてくれる人間が必要なのだという事だ。


 もちろん家事さえ出来れば、その人物が容姿端麗な巨乳エルフメイドであっても一向に構わないし、猫耳でも問題ない。


 家事さえできれば良いのだ。


 この様にだいぶハードルを下げて、奴隷商のディーンさんの元に昨日に続いて訪れてみた訳だが、どうも俺の考えは甘かったようだ。


 以前にも聞いたが、この町の奴隷はダンジョン探索用の戦闘奴隷が多い。別に戦闘用奴隷をメイドに雇ってダメな訳ではないが、家事が得意ですという奴は居なかった。戦闘用の次に多いのは元娼婦の性奴隷。こいつらは子供たちの教育上よくないので却下だ。


 そしてもっと大きな問題として、ほとんどの奴が犯罪者奴隷であるということだ。


 俺たちがダンジョンに出かけている間に、孤児院で家事や子供の相手をして貰うので、元犯罪者は困る。犯罪の内容も窃盗やら強盗やら、ろくでもない奴らが多い。


 はっきり言って1人も合格な奴は居なかった。こうしてみるとガレフとリーナの親子は俺が合格を出せる珍しい人材だったようだ。


 そして、もちろんレアスキル持ちも居なかった。レアスキルさえ持っているなら犯罪者でも良いかと言われると考えてしまうが、今回は居なかったので悩むこともないだろう。


 一応ディーンさんにこちらの要望を伝えて、良い人を探しておいて貰う事にした。

 ディーンさんはご期待に沿えず、すいませんと申し訳なさそうにしていたが、この国の奴隷制度だと犯罪者以外は奴隷になりにくいので、仕方がないように思える。


 念願のメイドは買えなかったので、またしばらくはロレッタに頑張って貰う事になりそうだ――。


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