第105話 ダンジョン41階 準備 3

 結局、ロレッタへの負担を減らすことが出来なかった訳だが、確かロレッタは体が弱かったような気がする。その辺は大丈夫なのだろうか?


「メイドが手に入らなかったので、ロレッタにまだ頑張って貰わないといけないのだが、ロレッタの体調は最近どうなんだ?」


 俺は奴隷商から孤児院への帰り道にカレンに聞いてみた。


「大丈夫だと思うぜ。前に体調を崩していたのは食べ物を小さい子にあげてしまって、ロレッタは食べれてなかったのに熱をだしたから、寝込んでしまったんだぜ。今はしっかり食べて熱もないから大丈夫さ」


 カレンの話を聞くとロレッタの体調不良は、栄養失調で免疫が下がって風邪を引いてしまったという事のようだ。そのままだと風邪とはいえ、ウイルスに負けてしまえば命の危険もあったと思うが、最近は栄養のある物をしっかりと食べさせているので、大丈夫なのだろう。


「もともとロレッタは体が弱いとかあるのか?」


「強くはないと思う。たまに熱を出したりはしていたからな。それでもしばらく寝てると治るから、特別からだが弱い訳ではないと思うぜ。本当に弱かったらすぐ死んでしまうからな」


 弱肉強食のこの世界だと、孤児では病気がちというだけで生きていけないのかもしれない。ロレッタはこの世界を孤児でも生き抜けるだけの逞しさは持っている様だ。


 しかし、今までは深く考えていなかったが、ロレッタは1人でこの孤児院の仕事を回していたように思う。カレンは孤児院の運営費や食料を集めに外に出ていたようなので、中の業務はロレッタがワンオペで回していたのだろう。ちょっと優秀すぎではないだろうか?


「カレンとロレッタは何歳なんだ?」


「俺たちはもうすぐ9歳になるらしいぜ。孤児院の記録にはそう残ってるんだ」


 2人が9歳と言うのは見た目通りだ。小学3年生といった所だろう。自分が9歳の時に何をしていたかを考えれば、この双子の優秀さが良く解る。


 特にロレッタの事務処理能力というか手際の良さは大人でも優秀な部類だと思う。

 もしかして、ロレッタも何かレアなスキルを持っているのだろうか?


 事務処理能力があがるスキルというのが何かは想像つかないが、何かしら特別なスキルを持っている可能性は十分にある。一度パーティーメンバーに入れて確認した方がいいだろう。


 たとえ特別な事は何もなくても、料理スキルくらいは持っているだろうから、ダンジョンに連れて行ってパワーレベリングすれば、少しは孤児院での仕事が楽になるかもしれない。


 しかし、ロレッタをどうやってダンジョンに連れ出したものか? シンプルにダンジョンに行こうと言っても、孤児院の仕事が忙しいからと断られてしまう気がする。


 何か理由が必要だろうか――。


 孤児院についた俺たちは解散して、それぞれの仕事にとりかかる。俺はさっそくロレッタに会いに行くことにした。モモちゃんだけはやる事がないのか、俺の後からついて来るようだ。


 ロレッタは午後台所にいる事が多いので、そちらに向かうと簡単に発見する事ができた。いつも料理しているので、やはり料理スキルのレベルを上げてあげると良いかもしれない。


「ロレッタ。相変わらず忙しそうだな。頑張りすぎだと思うのだが、体調は大丈夫か?」


「あ、マコトさん。お気遣いありがとうございます。私はおかげさまで元気ですよ」


 ロレッタは調理の手を止めずに俺の方を振り向いて返事をする。ロレッタが手を止めようとしないので、俺も調理を手伝いながら話すことにしよう。


「カレンから聞いたのだが、俺たちと出会う前は体調を崩していたらしいじゃないか。ロレッタが頑張りすぎて、また体調を崩すのではないかと俺はそれを心配しているのだが、今日もロレッタの手伝いをしてくれそうな人材を見つける事ができなかった。だから逆にロレッタに体力をつけて、丈夫な体になって貰おうかと思うのだが、どうだろうか?」


「私が体力をつけるんですか?」


「そうだ。具体的にはカレンの代わりに俺たちと一緒にダンジョンに行く事になるが、1回行くだけでも体力がついて少し強くなれると思うぞ」


「私も強くなりたいと思っていました。マコトさん達の様に魔物と戦いたいわけではありませんが、生命力と言いますか生きる力が強くないと、すぐ死んでしまうのです。私はそれをよく知っています」


 この孤児院で数々の別れを経験してきたロレッタはこの世界の非情さを良く知っている様だ。


 俺が危険を冒してダンジョンに行くのはレベルを上げて強さを手に入れておかないと不安だからだ。自分自身が強くないと何かが起きた時にそれに対応する事ができない。


 ロレッタの気持ちはとても良く解る。


「そうだな。何があっても生き抜く力と言うのは必要だ。それには体力だったり知力だったりも鍛えておかないとならない。もちろんロレッタを魔物と戦わせたりしないし、危険な目にも合わないように俺が守るから、そこは心配しないでほしい」


「マコトさんが私を守って下さるのですか? 私はこの町から出ると酷い目にあう事が多いので、ほとんど町の外に行ったことがないのです。もちろんダンジョンにも行ったことがありません。マコトさんが守ってくれるなら安心して外に出れますね。とても楽しみです!」


「おぉ、それじゃあ。すぐにでも行くか?」

 思いのほかロレッタは喜んでくれた。やっぱり好奇心旺盛な子供が一日中孤児院に居るのは苦痛だったのかもしれない。今まで申し訳ない事をしてしまっていたようだ。


「はい! それと強くなるというのが目的なので、私もマコトさんの奴隷にしてください。カレンから聞いてますよ。奴隷にして貰ったら力も体力もついて、足も速くなったって言ってました」


「あー、そうだった。ロレッタに相談もなくカレンを俺の奴隷にしてしまって悪かった。でも、いつでも辞められるからな。ロレッタが嫌だったらカレンの奴隷も解除するぞ」

 

「それは大丈夫です。カレンも喜んでましたし、私も奴隷にして貰おうと機会を伺ってました。マコトさんの奴隷になる事は私たちにとってはメリットしかありません。是非とも、よろしくお願いします」


「そうなのか? まあ確かに俺の奴隷になれば手っ取り早く強くなれるな。それでダンジョンはどうする? 一緒に行けばもう少し強くなれると思うぞ」


「ダンジョンもお願いします」


 ステータス画面を開いてカレンをパーティーからはずす――。

『ロレッタをパーティーに加入しますか?』

『ロレッタを奴隷にしますか?』

 両方『はい』だ。


 さてロレッタはどんなレアスキルを持っているのだろうか――――?

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