第101話 ガレフの娘

 お待たせしました。


 奥からディーンさんと彼の半分くらいの身長のモグラが現れた。

 予想していたがガレフと見た目はほぼ変わらない。

 ガレフは口元にヒゲが生えているが、娘は生えていない。娘はまつ毛が長くて目が少し大きい様な気がするが、よく見ないと解らないだろう。


「リーナ!」 ガレフが慌てて駆け寄る。


 娘の名前はリーナというらしい。

 今から感動の親子の再会が始まるようだ。邪魔しないで見守ろうと思う――。


「ちょっとパパ! 遅いんだけどっ! 早くしないと胞子が死んじゃうでしょ? 菌床はできてるの?」


「あー、リーナ遅くなってすまん。でも、パパも大変だったんじゃよ?」


「もーそういうのいいから、早く案内して!」


 ん? なんか思っていたのと違うな…………。


 全然感動的ではないし、俺はガレフの娘を炭鉱送りから買い上げて、少し良いことをしたつもりで居たのだけど、その時の良いことをした感が急速に薄れていく。

 俺が善行した事によって起こる感動場面を期待していたのに、どうしてこうなった?


「ほら、まずはお前を助けてくれたワシ等の主人のマコト様にお礼を言うのじゃ。それから今の住処に案内して貰うのじゃ」


「そうなの? あなたが私たちを助けてくれたご主人様?」


「ああ、そうなるな」


「助けてくれて、ありがとう。お礼に美味しいキノコを食べさせてあげるね。でもねマコチン。急がないと私の可愛いキノコが死んでしまうの。だから早く菌床に行きましょう」


 マコチンとは俺の事だろうか? それは良いとしても感謝されて、お礼も言って貰って、お礼の品まで貰えると言うのに、感謝の気持ちがちっとも俺に伝わってこないのは何故だ?


「ダメじゃろう…………。主人にマコチンはダメじゃ…………」


「えー、マコトよりマコチンの方が可愛いわ。そんな事よりもパパ。早くしないといけないのは解ってるでしょ!」


「そんな事よりとは何じゃ!」


「まあまあ、ガレフ。俺は別にマコチンでも良いよ。それより何を急いでいるんだ?」


 ガレフの娘のリーナは正直どうかと思うが、何か慌てている様子なので、この物言いはそのせいかもしれない。それに美味しいキノコというのも気になる。

 俺はキノコ鍋とか好きだ!


「すまんな、主人よ。ワシの方から、あとで良く言っておくから…」


 娘に振り回されて、ガレフも大変そうだな。人間に捕まって奴隷になってしまったのもリーナが原因なのでは? と思ってしまう。


「マコト様。何やらお急ぎのご様子ですので、すぐに奴隷契約してしまいましょうか?」

 ディーンさんが空気を読んで提案してくれたので、それに乗っかる事にする。


「そうしましょう」 俺はディーンさんに以前に聞いた料金の金貨7枚を払う。


「リーナは俺の奴隷になる事を了承するか?」


「パパが信用している人みたいだから、いいよ。マコチンよろしくね」


 自分のステータス画面を開き 『リーナを奴隷にしますか?』 『はい』を選択。


 ん? まだパーティーメンバーに入れてないが、リーナのステータス画面を見る事ができるようだ。奴隷にするだけでも見れると言う事か、これは非戦闘員には便利かもしれない。


 名前:リーナ

 種族:モグラ族 性別:女

 職業:学者

 レベル:14

 スキル:真菌学5、料理1、算術5

 スキルポイント2


 うーん? ステータス画面を見ても良く解らないな。

 料理は解るが他のスキルは何だろうか? 魔法は使えないと言う話だから、算術は算数が得意って事かな? 

 それとさっきからキノコにこだわっていたから真菌とはキノコの事だろう。

 家事スキルは申し訳程度に料理1があるだけだな。まあこれから覚えて貰えばいいか。


 ディーンさんにお礼を言って、孤児院に移動する――。


 孤児院に着くと――。


「リーナ、こっちじゃ!」 ガレフを先頭に2人は地下に走って行ってしまった。


 しょうがないので、モモちゃんと2人で地下へと向かう。


「モグラ族のリーナさん可愛いですね」  これがモモちゃんのリーナに対する感想らしい。

 可愛いだけですめばいいのだが…………。


 モグラ族の2人を追って地下にたどり着いたが、2人は見当たらない。とりあえずガレフの部屋へと向かうと、ガレフの部屋のドアが開け放たれていた。


 きっと中に居るのだろう。


 ガレフの部屋に入ると意外と中が広い。2人の姿は見えないが、奥にも部屋があるようなので、そちらに居るのだろうか?


 奥に進んで次の部屋に入ると、先ほどよりもさらに広い空間に出る。奇妙なのは地面からバケツをひっくり返したような、土の塊が等間隔に生えている所だ。


 2人はその土の塊の様なものに何かをふりかけている様だ。


「それは何をしているんだ?」 思わず2人に声を掛ける。


「主人よ、すまない。急いでいたので許可も取らずにキノコの胞子を蒔いてしまった。娘はこっそりと50種ものキノコの胞子を持ってきていたのだが、もう少し遅かったら胞子はダメになってしまったかもしれなかったのじゃ」


 胞子と言うのはキノコの種みたいなものかな、それをこの土の塊に植えたという事か。


「この場所はなんなんだ? 俺は聞いてなかったような気がするのだが?」


「ここはキノコ農場じゃ。娘が来た時の為に用意しておいたのじゃが、そういえば主人には言ってなかったな。うまく育てば色々なキノコが取れるようになるぞ」


 まあ地下は好きにしていいとガレフに言ってあったから、別に問題ないか。美味しいキノコが取れるなら、むしろ楽しみだ。


「そういう事ならいいけど、危険なキノコはないよな? 上には子供達がいるから危ないのはダメだぞ」


「大丈夫だよ。マコチン心配しないで。今回は住居の中に農場があるから、有毒ガスがでたり、爆発したりするキノコは栽培しないよ」


 そんなキノコがあるのか…………。



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