第100話 ダンジョン40階 ボス後 2
40階のボスである、ブラックローズを倒した我々は、ボスドロップの大きな魔石を回収して、次の階へと移動する。
ボス戦後に襲われたことがあるので、ここは注意が必要だ。さすがにこれだけ深い階層に盗賊の類は出ないと思うが、用心するに越したことはない。身隠しのマントを装備したカレンを偵察に出す。
40階のボスを倒せるパーティーを、わざわざ狙って待ち伏せしている奴はいないと思うが、もし居たらよっぽど腕に自信のある奴らという事なので、それはそれで恐ろしい。
さいわい待ち伏せしている奴らが居ることもなく、41階のゲートより無事帰還する事ができた。
魔物との遭遇に緊張する事はなくなってきたが、もし人が襲ってきたらと考えると心臓がバクバクする。人の悪意には慣れる事ができないようだ。
町に戻ったあと、皆でぞろぞろとギルドに換金に行ってもしょうがないので二手に別れた。俺とモモちゃんとガレフでギルドに、カレンとユウと陛下は先に孤児院に戻って貰う。
本当は41階以降の調べ物もしておきたかったのだが、ガレフの娘がどうなったか聞きに奴隷商にも行きたいので、今日は図書室での調べ物は辞めておこうと思う。
探索者ギルドに着くと――。
「こんにちは。マコトさん。毎日がんばってますね」
ニコリと笑顔が素敵なローズさんに受付から出迎えられた。
「今日は40階のボスを倒してきましたよ」
思わず自慢げに報告してしまったが、ドヤ顔になっていないだろうか? ローズさんに良い所をみせようと調子に乗ってしまったようだ。
「え? 早くないですか? 最近ポーションを買うために錬金術師のお店を紹介したばかりですよね?」
「そうでした。覚醒ポーションをちゃんと買う事ができましたよ。教えて頂きありがとうございます。おかげ様で40階まで行くことができました」
「そうですか。それで40階ボスのブラックローズも倒してしまったのですか? あのボスは火魔法がないと攻略は難しいと聞いているのですが…………。まさか実はマコトさんが火魔法を使えたりするとか?」
「いえいえ、魔法なんて私は使えないですよ。今回はユウが頑張ってくれたのでブラックローズを倒すことが出来ましたね。あ、これがブラックローズから出た魔石です」
ローズさんに今日手に入れた魔石を渡す。
「本当ですね。ブラックローズの魔石は少し赤みがあるので私でも解りますよ。他の魔石とまとめて換金しますね」
「本当は火魔法なしでのブラックローズの倒し方はギルド長に報告してほしいのですが、奴隷商のディーンさんからの言伝で『入荷致しましたので来店をお待ちしております』との事でした。報告は後日でも大丈夫ですので、そちらに行かれたらどうですか?」
「おお、ついに来たか。主人よ。すぐに行こう」
ガレフは慌てているが、まだ換金が終わっていない。しかし凄いタイミングだ。まあそろそろだろうと思っていたから、この後行く予定にしていたわけだけど。
換金がすんだらすぐに奴隷商だな
「また奴隷を増やすのですか?」
ローズさんは俺が奴隷を買う事をあまり良く思っていないのだろうか、眉間にシワが寄っている。
「ええ、このガレフの娘が炭鉱送りになってしまったので、ディーンさんに探して貰っていたのですよ」
「そのモグラ族の娘さんを買ってあげるのですか?」
「そうですよ。親子が離ればなれじゃ可愛そうですからね」
「マコトさんは自分の奴隷をとても大事にしていて素敵ですね。雑に扱っている人が多いので、マコトさんみたいに優しい人は珍しいと思います」
なんと、ローズさんに『素敵ですね』と言われてしまった。これは嬉しい。何か気の利いたセリフで返さねば。
「そうなんですよ! ご主人様は優しくてステキで、美味しいものもたくさん食べさせてくれるのです」
「良かったですね」 ローズさんがニコニコ笑っている。
モモちゃんに俺が決めゼリフを言うタイミングを取られてしまったが、これはこれで俺の好感度が上がっただろう。
モモちゃんグッジョブ!
それに落ち着いて考えてみれば、俺の決めゼリフなど当てにならない。舞い上がってとんでもない事を言ってしまったかもしれない。場は凍り付き、今後ギルドに行きづらくなっていたかもしれない。モモちゃんありがとう。
換金が済んだところで、ローズさんに挨拶をして奴隷商に向かう――。
奴隷商に着くとディーンさんが出迎えてくれた。
「これはマコト様、伝言を聞いて頂けましたか?」
「ええ、ちょうどそろそろディーンさんの所に様子を聞きに行こうと思っていた時に、探索者ギルドに行ったら伝言があったので驚きました」
「すいません。思っていたよりも時間がかかってしまいました。もう少し早く到着する予定だったのですが、馬車が遅れたようです。それでは待ちかねている者もいる様なので、さっそく連れて来ます」
確かに俺の後ろでガレフがソワソワしているのが解る。
ディーンさんは俺たちを待たせて、奥の部屋にガレフの娘を呼びに行った。
はたしてどんな子だろうか――――?
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