第78話 ダンジョン30階 3
「毒針の効果も解ったし、今日はこれくらいにして帰る事にしよう」
レッサーバイソンをマジックバッグにしまって孤児院へと帰る――――。
そうだ。前から考えていたことだが、そろそろ実行しておいた方が良いかもしれない。
「ケイン、もしよかったらだが、ケインも俺の奴隷にならないか? 俺の奴隷になると身体能力が強化されるんだ。特に今までと何か変わる事はないはずなんだけど、嫌になったらいつでも辞めて良いし、陛下も強化の為に俺の奴隷になってるんだ。あ、陛下はヴィルの事ね」
「いいぜ、俺は院長を信頼しているからな。奴隷でもなんでもいいぜ」
『カレン(ケイン)を奴隷にしますか?』
ステータス画面を開くと選択肢があらわれているので、『はい』を選ぶ。
「よし、ケインはこれで俺の奴隷になったぞ。特に何も変わらないだろう? それでも力とか体力とか強くなってるはずだから、何かあった時に多少は役にたつはずだ」
「ふーん、そうなのか? 首輪はいらないのか? 良く解らないが俺もパーティーメンバーの皆と一緒になれたのなら嬉しいぜ」
ふう、これで何かの間違いで俺に毒針がチクリと刺さるという事はないはずだ。もちろんこれはついでの事で、ケインが少しでも危ない目に合わないように強化するというのが本来の目的だ。そこを勘違いしてはいけない。
「首輪は俺の奴隷であると言うのを周りに見せる為に付けてるだけだから、なくてもいいんだ。陛下の首輪も今は必要ないから外したしね」
「ふーん、俺は首輪もちょっと欲しいけどな。まあなくてもいいなら必要ないか」
なんで首輪なんて欲しがるのか解らないが、絶対やめて欲しい。俺がまた町の人から変な目で見られるだけだ――。
さて、今日の夕飯はレッサーバイソンなのだが毒針を刺したものを子供達に与えるというのは少し心配だ。しかし毒針と呼ばれている武器らしいが即死効果が付いていると言う話から、毒で倒しているわけではないと思う。
でも念のためにブタちゃんで検証してみなければならない。ユウは毒抵抗を持っているからダメだ。ブタちゃんならもし毒状態になっても痩せるだけだし問題ない。これは20階のボス戦で経験済みだ。
ブタちゃんを孤児院の庭に呼んでレッサーバイソンを解体してもらう。その間に俺はケインが毒針を刺した部位の肉を切り取って台所で焼いてくる――。
「ブタちゃん、解体お疲れさま。今日のボス戦は大活躍だったね。おやつにステーキを焼いてきたから食べなよ」
「えー、ご主人様。どうしたのですかぁ? 嬉しいですけど、優しすぎませんか! もちろん頂きますけど!」
ブタちゃんが満面の笑みで俺が焼いてきた肉にかぶりつく。俺はステータス画面を開いてブタちゃんに状態変化が起きないか、注視する――――。
特に問題ないようだ。俺の推測通り毒針と呼ばれていても毒は使ってないという事だろう。これで皆が食べても問題ない。万が一の事があっても解毒ポーションもあるし大丈夫だ。
ブタちゃんに黙って毒見させた訳だが、不思議と心が痛まない。むしろあのブタちゃんの笑顔をみると、とても良いことをした気分になる。検証して良かった――。
孤児院に戻るとガレフが建物の修繕を行ってくれているので、見学する。建物がみるみるうちに綺麗になっていく様はみていて気持ちがいい――。
そうだ。さっきは庭で解体作業をして貰ったが、あまり良い環境とは言えない。地下に解体部屋を作って貰おう。
「ガレフ、建物もすっかり奇麗になったな」
「おお、主人よ。外壁はこの通りだが、ワシは窓ガラスはまだ扱えないからな。それだけ頼む」
「ん? ガラスも土魔法でいけるのか?」
「そうらしい。砂を媒介に板ガラスを生成すると言う話じゃ」
そういえば、この世界のガラスはポーション瓶といい窓ガラスといい、透明度も高くて加工技術も高そうだと思っていたが、どうやら魔法で作られていたらしい。
「解った。窓は業者に頼んでおくよ。あと時間がある時に地下に解体部屋が欲しい。魔物を吊るせて、掃除もしやすいといいな」
「主人よ。了解じゃ!」
「地下水でも引いて床を洗えるようにするかな…………」
ガレフはブツブツ言いながら地下に行ってしまった。急がなくてもいいのだが、ガレフは建築が好きなのかもしれない。何も言わなくても孤児院が改修されていく――――。
日が変わり、今日はダンジョンの31階へと進みたいが、まだ探索者ギルドでの下調べがすんでいないのでパーティー活動は休みにすることにした。
今日は各自で好きに過ごして貰いたい。
ただしケインは俺と一緒にギルドで調べものをしなくてはならない。ガレフは朝から地下に籠ってしまった。ユウは子供たちに囲まれて何やらおままごとに付き合わされているようだが、あれは何役なのだろうか? 子供たちの言われるがままに動いているようだが、良く解らない。
ブタちゃんと陛下は休みになってもやる事がないので付いて来るらしい。陛下はギルド長に見せて問題なくやっている所を報告したかったので、一緒に行ってくれると助かるがブタちゃんは用事がないので、たまにはゆっくり休んでもらいたいと思う。
「今日はブタちゃんは付いてこなくても大丈夫だよ。護衛は陛下がいるし、ギルドに行くだけだから」
「でもでも、心配ですから私も行きます。待ってるのは苦手です」
休んでもらおうと思ったけど、ゆっくり休めないなら連れて行くかな。ブタちゃんを背後に連れて歩いていると何故か前が開くから歩きやすいし、ギルドが混んでる時は特に便利だ。
「じゃあ、4人で行くとしようか」 「はい!」 「いいぜ」 「うむ」
4人で探索者ギルドへと向かう――――。
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