第77話 ダンジョン30階 2
「よーし、開けるぞー」
ケインが宝箱に鍵がかかっていないか確認している。どうやら掛かっていない様だ。勢いよくケインが宝箱を開ける――。
「院長…………。今回はダメだった。これは有名なハズレ武器の毒針だぜ」
ケインが短めのレイピアの様な武器をこちらに見せてきた。
ハズレ武器? ハズレなんて事があるのか? ケインはひたすら幸運スキルだけを上げ続けて、いまや天運などという凄そうなスキルに進化している。
それでハズレとか俺のリアルラックが無さすぎるのだろうか?
「その毒針というのは何でハズレなんだ?」
「この武器は鑑定結果では即死効果のついた武器らしいけど、実際に使ってみるとダメージはほとんど与えられないし、即死も滅多にしないしで誰も使ってないんだぜ」
「あー、必ず即死じゃなくて、たまに即死するなのか」
昔のゲームでそんな武器があったな…………。
「そうなんだ。即死するまで刺しまくる位なら、普通の武器で刺していれば倒せてるぜ」
まあそうかもな。特にうちの前衛は攻撃力が高いから、普通に攻撃した方が良さそうだ。だからと言って後衛がわざわざ魔物に近寄ってリスクを取る必要もないだろう。そもそも俺は魔物になるべく近寄りたくない。
「確かに要らなそうな武器だな」
もし使うとしたらケイン位か……。マントでこっそり近寄って一刺し。それで即死したら強いけど、即死しなければ反撃されて危ないから、やっぱりダメか。
まてよ…………。
試してみても良いかもしれない。もし即死効果が運判定なら失敗しないんじゃないか?
あれ? これは凄いんじゃないか? 試してみなくては!
「あーでも、その毒針? ケインのマントと相性が良いかもしれないから、1階で試してみようかな」
「確かにマントで隠れてこっそり近づけば、毒針でチクリとは出来るけど、きっと即死しないぜ」
「1階なら即死しなくても大丈夫だから、まずは試してみよう。即死するところを見てみたいし、その毒針はケインが装備しておいてよ」
「それはいいけど。全然即死しないらしいから、あんまり期待するなよ」
「じゃあ、魔石を回収したら1階に移動するよ。ボス部屋を出た所は危ないからケインはちゃんとマント着ておけよ」
盗賊に襲われたから。用心しなくては…………。
「解ってるぜ」
今回は強盗になど会わずに無事に1階へと移動する事ができた。魔物なんかよりも人間の方が怖い。
今日はまだ帰らずにどくばりを試す。ジャイアントキャタピラーを探してダンジョン1階を歩くと――。
「お、居たぞ。ブタちゃんが芋虫の相手をまずしてあげて、殺さないように攻撃しないでね。ケインはこっそり近づいてどくばりで刺してみて」
「了解です!」 「やってみるぜ」
「余はどくばりは使えないと思うぞ。城の宝物庫にもあったが誰も試そうともしなかった」
「そうじゃな、アレは使えん。ワシの国でも二束三文で武器屋で売られてたぞ」
誰でも知ってる使えない武器というのは本当らしい。しかしケインが使えば化けるかもしれない。
ブタちゃんがジャイアントキャタピラーをメイスで突っついて盾で攻撃を防いでいる。その横からケインが毒針で刺しまくる。
ジャイアントキャタピラーはひっくり返ったので倒したようだが…………。
「ケイン、そんなに刺したら、いつ即死したのか解らないじゃないか……」
「本当に即死するとは思わなかったんだぜ」
「次は1回だけ刺してみてよ」 「解ったぜ」
次のジャイアントキャタピラーを探してケインに刺してもらう。
「あれ? 1回刺しただけでも即死したぜ?」
「余が思うにジャイアントキャタピラーは弱すぎるのでは?」
「それでは15階に進んでレッサーバイソンで試してみよう。今日の夕飯にもなるし」
「さすがご主人様! 良い考えです。すぐに行きましょう」
15階に移動してブタちゃんにレッサーバイソンの突撃を受け止めて貰う。鉄の盾とレッサーバイソンの角がぶつかって凄い音がしたが、ブタちゃんは1mmも動いていない。
「ケイン! レッサーバイソンの動きが止まった、いまのうちに!」
「おう!」
ケインが一刺しするとレッサーバイソンは仰向けにひっくり返る。
「また、一刺しだったぜ…………」
「…………」
パーティーメンバーが全員ドン引きだが、気持ちは解る。なんでも一刺しすれば、ひっくり返って即死するなんて恐ろしすぎる。何か言って誤魔化さなければ……。
「きっとその毒針は当たりだったんだな。即死効果の高い毒針だったのだろう。ケインはそれをお守りとして持っていて、いざという時に使えばいいよ。リスクがあるから普段からは使えないけど、ピンチの時には大逆転する可能性があると思う」
「そ、そうだな。解ったぜ」
急にケインが最凶になってしまった。まだケインは自分の力に気が付いていないが、俺はとんでもない化け物を作りあげてしまったのではないだろうか? しかしケインは良い子なので今のところは問題ないはずだ。今後ケインはなるべく戦闘には参加させずに、自分の力に気が付かないようにしなくてはならない。
そして万が一にも、敵には絶対回したくない――――。
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