第72話 スケルトン 5
名前:ヴィルヘルム
種族:アンデッド 性別:男
職業:スケルトン(奴隷)
レベル:9
スキル:剣術8
血術
陛下のステータスを見ても状態異常は起きていないようだが、血術とは一体なんだろうか?
「この鎧は迷宮産ですかね?」 店員さんに探りをいれてみる。
「ええ、そうみたいね。宝箱から出たとか言ってたわ。最初は教会に持ち込んだみたいだけど邪悪なオーラが出ているからって断られたみたい。そうだわ。教会に持ち込んだ時の鑑定結果があったわね」
おお、それだ。これで自分で教会に行かなくてもすみそうだ。陛下を連れて行ったら浄化されてしまう恐れがある。
「たしか、装備者は出血のデバフを得る。血液を操作する事ができる。だったはずよ。でも血液を操作できるのに出血は止められないのよ。操作した血液を体内に戻すこともできなかったって言ってたわ」
「それじゃあ、役に立たないね。どうやって使うのだろう?」
「これを持ってきた探索者は血だらけになりながら色々試してみたらしいわ。血を飛ばすことはできたみたいね」
面白そうだけど試す機会はなさそうかな? ブタちゃんに装備させればスキル再生で長時間耐えられるかもしれないけど、血だらけでガリガリに痩せたブタちゃんは見たくない。
「その鎧は正直に探索者が話してくれたから、思いっきり買い叩いてあげたわ。でもあなた以外に売れる見込みもないし、鎧の値段は金貨18枚でいいわよ」
微妙に高いなあ…………。
「ちなみにいくらで買い取ったのですか?」
「それは秘密よ」
良い笑顔でかわされてしまった。でもまあフルプレートメイルを買ったと思えば安いかな。鎧としての性能は悪くなさそうだ。これを買うと持ち金はゼロに近くなるが魔石を売れば大丈夫だろう。この後はギルドに行こう。
「それでは買います」
「毎度あり~」
お金を払って外に出た。2人並んで探索者ギルドに向かって歩き出す。
「余はこの鎧は良いものだと思ったが、ずいぶん安いのだな」
「普通の人は装備できないですからね。金貨18枚でも高いですよ」
しかしこの鎧の見た目は凄く強そうで良い。凄みもあるし近くにいると圧迫感を感じる。ただ剣が銅の剣と言うのは、なんとも情けない。剣だけ浮いている様にみえる。この鎧に合う剣を買うとなると大量の金貨が必要になりそうだが――。
ギルドで今日稼いだ魔石を全て換金して貰った。金貨30枚以上になったので、これで一安心できる。散財が続いていたので助かった。
ついでに他のパーティーメンバーについて聞いてみると、ブタちゃん達は俺が帰っていると聞いて孤児院に戻ったそうだ。
俺たちも孤児院に向かう――。
孤児院に着くと皆が口々に「大丈夫だったか?」「心配したぜ」と声を掛けてくれた。ユウは何も言わないがコチラを見つめている……。 あれ?
「ケイン、ブタちゃんはどうしたんだ?」 一番騒ぎそうなのに見当たらない。
「待ってるように言ったんだけど、ご主人様を探してきますって行ってしまったぜ」
それで結局入れ違いになって、俺と会うのが最後になってしまうのがブタちゃんらしいが…………。
「院長、スケルトンが居るって聞いたぜ……」 ケインが小声で俺にささやく。
さすがケインだ。俺の意図を良く解っている。
「後ろの黒い鎧がスケルトンだ。ユウに見つかるとマズイからここに来る前に全身鎧を買って着せてきた。今紹介するから合わせてくれ……」 俺もケインに小声でささやく。
「ダンジョンで罠にかかり皆とはぐれて迷惑をかけてすまなかった。偶然こちらの騎士に助けられて無事に戻ってくることができた。彼に聞くと宿がまだないみたいなので、しばらく彼も一緒に行動するぞ」
「余はヴィルヘルムと言う、気軽にヴィルとでも呼んでくれ。よろしく頼む」
ユウは陛下を見ているが、気が付いてはいないようだ。まさかこんなに流暢にしゃべる騎士がスケルトンだとは思わないだろう。
そして陛下もさすがに王であるとは名乗らなくなったようだ。周りが混乱するだけだから当然だとは思うけど……。
「院長を助けて下さって、ありがとうございました。空いてるお部屋にご案内しますので鎧を脱いでくつろいで下さい」
事情をしらないロレッタが陛下に近づく――。
大丈夫か? まあロレッタならいきなりヴィルの兜を脱がすなんて失礼な事はしないと思うが……。
「ケイン、ヴィルを部屋に案内してやってくれ」
俺がケインに促すとケインは任せとけとウインクしてくれた。後はケインがロレッタに説明したり色々やってくれるはずだ。何て賢い子だろう。
「主人よ……。あの黒いのがスケルトンじゃろう? 大丈夫なのか?」
また小声で今度はガレフが声を掛けてきた。
「ガレフ良く解ったな……。彼は人間が転生したスケルトンらしいから大丈夫だぞ。あの鎧は関節の隙間も少ないし、見た目では解らないと思ったのだが?」
「いや、ギルドの奴らがスケルトンを連れてたと言ってたからな。他には居ないじゃろ? しかしスケルトンに転生するとは哀れな奴じゃな」
「その俺がスケルトンを連れていたって話はユウも聞いてた?」
「その場にはユウも居たが、聞いてたかは解らんな。いつも聞いてるか聞いてないのか解らん奴じゃし」
ユウは知らなそうだな。知ってたら静かにしてないだろう。
「ユウ、心配かけたな? さぞかし心配しただろ?」
声を掛けながらユウに近づくが、反応薄いな。 その時――。
「ご主人様ーーーー!!」
ブタちゃんが泣きながらドスドスとこちらに駆けてくる。この勢いはマズイ。正面からぶちかまされたら酷いことになりそうだ。
逃げ出したかったが、そういう訳にもいかず。俺は正面から受け止める。
「グフッ!」
ブタちゃんのベアハッグが決まり。俺の肺から全ての酸素が絞りだされた。
「心配したんですよーーー!!」
ブタちゃんが叫ぶほど俺の体は締め付けられて息ができない。
「おい、その辺にしておけ。死んでしまうじゃろ」
意識が飛ぶなか、ガレフの静止の声が聞こえる。ありがとうガレフ。
君は命の恩人だ――――。
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