第67話 王様

 名前:ヴィルヘルム

 種族:アンデッド 性別:男

 職業:スケルトン

 レベル:1

 スキル:


 ああ、何か怪しいと思っていたけど王様はスケルトンに転生してしまったようだ。転生したらスケルトンだった……って事か…………。


 俺の場合は異世界転移だったから転生?って思っていたし、王様は姿を現さないのはどういう事だ? と思っていたが、なるほどそう言う事だったようだ。


 それでもスケルトンが単に嘘をついて俺を騙そうとしている可能性はあるのかな? 


 いや、喋るスケルトンは居なかったから、その時点で嘘ではなさそうな気がする。それでも急に襲われても良い様に警戒を解くわけにはいかないが――。


「それでは今からそちらに行くが、王の御前であるからな。解っているな? 余が良いと言うまで表を上げるなよ」


 跪いて頭を下げておけという事か、これは下を向いている所を襲われたら危ないから、そういう訳にはいかない。


 向こうも出会い頭に『スケルトンだ!』って言われて攻撃されたくないから、そんな事を言っているのだろうけど………普通に立って待っておこう。


「陛下どうぞ」


「どうぞって、お主ちょっと軽いぞ――」


 文句を垂れながらスケルトンがカタカタと小部屋に入ってきた。装備も何も持っていないらしく、さっきまで俺が追いかけられていたスケルトンと姿は何も変わらない。


「おおい! 無礼者め! なぜ普通に立っている! そして何故、襲い掛かってこない? 余の見た目は魔物と変わらんぞ」


「転生されたと伺っておりますので、陛下が何に転生したのかも解らずに跪いているのは、さすがに危険だと考えました」


「まあ、そうか。市井の者にしては賢いな。それで余が王であることは信じるのか?」


「信じます。見た目はスケルトンでも王威に溢れたお姿にあなた様がまごう事なき王であると確信致しました」


「おお、そうであるか。お主は見る目もあるようだな。さて余はダンジョンから脱出して我が国に帰りたい訳だが、何か良い考えはあるか?」


「陛下はここで他のスケルトンに出会いましたか? その王威に跪いて服従したりしませんでしたか?」


「あいつらは所詮、魔物よ。余の王威になど気づきもせぬ。それどころか襲い掛かってくる奴らばかりよ。そもそも見た目は一緒なのに何故襲って来るのか…………お主以外の人間も下賤の者たちばかりで、余の話も聞かずに散々追い回されたわ」


 うーん……おだててはみたけど、こいつ役に立ちそうにないな…………。


 レベル1のスケルトンなんて足手まといなだけではないだろうか? しかし何か有効活用できる方法を考えなければ、ダンジョンから出る事ができない。まあ俺にできる事はアレしかなさそうだが…………。


「陛下はここを出た後はどうされるご予定ですか? 人里には入れなさそうですが?」


「何とか国に帰って、なぜ暗殺されたのか確かめてみたい。なにか理由があると思うのだが見当がつかん。お主も余を国まで送り届ければ褒美をやるぞ」


「それは嬉しいのですが、陛下の国の場所を町で調べたり、その後移動するにもスケルトンの姿では何もできません。ダンジョンから出るのも他の人間に見つかれば襲われてしまうようですし……」


「それをどうするか考えるのもお主の役目だぞ」


「そうですか。それでは大変申し上げにくいのですが、陛下には私の奴隷になって頂きたいと思います」


「? 何を言っているのだ? ドレイってあの奴隷か? 余はモナネ王国、国王ヴィルヘルム5世だぞ。奴隷になぞなれるわけがなかろう」


「それでもなって頂かなければなりません。私の奴隷となれば魔物であろうと私の所有物となりますので、他の人間に害されることなく町に出入りできます。それに私は奴隷を強化する事ができますので、陛下を強くして魔物と戦えるようにする事ができるのです」


「いや、この様な姿になったとはいえ、さすがに奴隷は無理だ」


「形だけですので辛抱頂かないと歩くことも出来ません。もちろん必要無くなれば解放致しますので、ご安心ください」


「そうは言っても一度奴隷になってしまえば、解放するかはお主の気分次第じゃないか?」


「そこは私を信用して頂くしかありません。ただ考えてみて頂きたいのですが、スケルトンになってしまった陛下を奴隷にしていても私に何か得がある訳ではないのです。例えモナネ王国に帰る事ができて、陛下ご自身が王であると名乗っても誰も信じないでしょう」


「お主が王である余を奴隷にしても活用する方法がないと言うことか? そもそも余はすでに王ではないのかもしれんな…………」


 この王様は転生したから今はただのレベル1のスケルトンなのだという事にそろそろ気が付いただろうか? ちゃんとした教育を受けた賢そうな王様みたいだから大丈夫か?


「それでは奴隷になる心の準備はできましたか?」


「本当に他の方法はないのか? 奴隷になると言うのにはどうしても抵抗があるのだが……」


「他にも方法があるのなら、そちらでも良いのですが私には思いつきませんので申し訳ございません。陛下はどのような方法をお考えですか?」


「余は身を隠しながらダンジョンを出て、お主に馬車でモナネ王国まで連れて行って貰いたいと考えておる」


「そもそもダンジョンから出る事がスケルトンのお姿では難しいのです。ダンジョンの出口は1つしかないのですが、常に人がいます。人目に触れずにダンジョンの外へ出て馬車に乗り込むことは出来ないでしょう。あと私は馬車をもっておりません」


「さようか……もしお主の奴隷になる事を承諾するとどうなるのだ?」


「私の奴隷であれば人目についても問題ありません。堂々と出口から出る事ができますし、そのまま町に入る事もできます。私は元から様々な奴隷を連れているので町の者も気にしないでしょう」


「ふーむ、もはやこの様な姿になってしまっては仕方がない。余が望むなら、いつでも奴隷契約を解除すると約束するなら契約しよう」


「陛下、ありがとうございます。いつでも解除すると約束します。それではさっそく――」


『ヴィルヘルムを奴隷にしますか?』 ステータス画面を開くと選択肢があらわれているので、もちろん『はい』を選ぶ。


 名前:ヴィルヘルム

 種族:アンデッド 性別:男

 職業:スケルトン(奴隷)

 レベル:1

 スキル:


 無事、奴隷にすることができたようだ――。

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